欧州自動車メーカーの態度に変化アリ? EVシフトにみるメーカートップの本音と建前
2022.05.27 デイリーコラムEV戦略を語る声色に変化が……
この春になって、欧州自動車メーカーのトップによる、電気自動車(EV)に関して慎重ともとれる発言をとらえた報道を目にするようになった。例えば、BMWのCEOがEV一本足の戦略に危機感を示す。過剰な電動化は環境破壊につながると、ルノーのCEOが早急なEV普及に警鐘を鳴らす。フォルクスワーゲンのCEOがEVシフトはまだ加速できないと語る……といったものだ。
こうした報道に、正直、驚かされた。なぜなら昨年(2021年)まで、彼らは同じ口で「これからはEVだ!」と強く主張していたからだ。ご存じのEVシフトである。振り返ってみれば、2021年はそうした欧州の自動車メーカーによる戦略が数多く発表された年であった。それぞれの内容をざっくりまとめれば、以下のようになる。
【フォルクスワーゲン】
2040年には主要市場に投入する新型車をすべてEVとする。2030年までに欧州に6つの電池工場を建設する。関連する研究開発への投資は2025年までに730億ユーロ(約9兆5630億円)を予定。
【メルセデス・ベンツ】
2025年以降に新たに投入するアーキテクチャーはすべてEV専用とする。市場が求めるのならば、今後10年で100%電動化に移行できるよう準備する。パートナーとともに8つの電池工場を建設する。
【BMW】
2025年までEVの販売を前年比50%増で成長させる。2025年以降は次世代モデル「ノイエ・クラッセ」がラインナップのベースになる。2030年には販売の半数以上をEVとし、またMINIは2030年代初頭にEV専門ブランドにする。
【ルノー】
2025年までに10車種のEVを投入し、欧州市場の65%を電動化する。2030年までにルノーブランドの90%をEVにする。その実現のため、今後5年間で100億ユーロ(約1兆3100億円)を投資する。(アライアンス全体の戦略はこちらを参照)
【ステランティス】
今後10年で欧州販売の100%、アメリカ販売の50%をEVにする。2030年にはEVのラインナップを75モデル以上そろえ、世界市場で500万台の販売を目指す。
ステランティスのみ2022年3月に発表された内容だが、いずれにせよ、どれも非常に威勢のいいものだ。これらの発表を見聞きすれば、「これからはEVの時代になる」と感じてしまうのも無理のないことだろう。
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巨大メーカーの本音がもれたCOP26
また、2021年の欧州市場ではEVの販売が飛躍的に伸びている。2018年の同市場におけるEVのシェアは、わずか1.3%だった。2019年でも2.3%だ。ところが2020年には6.2%に上昇し、2021年には10.3%に跳ね上がった。ノルウェーはなんとシェアが63.7%にもなる。それに続くのがオランダの19.8%、スウェーデンの19%だ。それ以外でも、ドイツが13.5%、イギリスが11.6%、フランスが9.8%と、軒並み高い数字となっている。こうした好調な販売も、EVシフトを後押しする強い追い風となったはずだ。
しかし、自動車メーカーもバカではない。「これからはEVだ!」と強く主張しつつも、今すぐエンジン(内燃機関)をやめるわけにもいかないことは、理解しているはずだ。実際に、彼らの本音を垣間見る出来事があった。「COP26」での共同声明だ。
2021年11月に英グラスゴーで開催された国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)で、「主要市場で2035年までに、世界全体で2040年までに、すべての新車販売をEVなどゼロエミッション車にする共同声明」が発表されたのだ。世間の風を受けて、EVシフトを目に見える形にしようという試みだった。
この共同声明への署名は、国や地域だけでなく自動車メーカーも求められ、実際にゼネラルモーターズ、フォード、メルセデス・ベンツ、ジャガー・ランドローバー、ボルボなどがサインした。一方で、そこにはフォルクスワーゲンもBMWもルノーもステランティスも名前を連ねていない。もちろん日本メーカーもない。世界の新車販売ランキングでトップ3となる、トヨタ、フォルクスワーゲン、ルノー・日産・三菱連合、そしてそれに次ぐ位置にあるステランティスが入っていないのだ。要するに、ランキングトップの連中は慎重だったのだ。
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EVシフトはビジネスでありギャンブル
そもそも、これまでに発表された欧州自動車メーカーのEV戦略をよくよく見れば、EVを推しつつも「世界全体でエンジンをやめる!」と明言したものは決して多くない。いずれも「市場が許したら」「欧州市場で100%」と、条件や市場を限定した話だったりするのだ。ある意味、玉虫色ともいえる。
しかし、それも当然のことだろう。EVシフトとは途方もなく大規模なギャンブルなのだ。どれだけ投資を行おうとも、確実に成功するわけではない。もしかするとEVはまったく普及しないかもしれないし、予想どおりに普及したとしても、自社のシェア獲得が確約されているわけでもない。勝つかもしれないし、負けるかもしれない。まさにギャンブルだ。そして賭かっているのは、各自動車メーカーの未来である。EVシフトは環境保全のための動きではない。自動車業界内の覇権争い、ビジネスそのものだ。負ければ、社長だけでなく何十万人もの社員、そしてサプライチェーンにかかわるすべての人の生活に影響が及ぶ。負けられない戦いなのだ。
だからこそ、「君子豹変(ひょうへん)」することもあるだろう。この言葉は「君子という素晴らしい人は、間違いがあれば、すぐに過ちを認めて、方針を転換する」ことを意味する。巨大な自動車メーカーのCEOであれば、当然、巨大な責任があり、君子である必要がある。自身の計画と世間のさまに差異があれば、ブレーキをかけるのは当然だろう。また、計画がうまくいかないときには方針を転換させる必要もある。
これが、冒頭で触れた近ごろの欧州自動車メーカーCEOのコメントになるのではないか。計画発表からおおむね1年がたち、実際に製品を販売してみて、なんとなく手ごたえも得られてきたはずだ。方向転換とまではいかなくても、調整くらいは必要になったのかもしれない。
ただ、堂々と前言を撤回してしらばっくれる姿は、あまりかっこいいとは思えない。かっこよさでは「初志貫徹」が望ましいが、いざ窮地に陥れば、さっと身をひるがえさなければ破滅となる。「厚顔無恥」と言われても、守るもののために豹変できるのが君子。偉い人は大変だ。
(文=鈴木ケンイチ/写真=BMW、フォルクスワーゲン/編集=堀田剛資)
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鈴木 ケンイチ
1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。
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