BMW 220iクーペMスポーツ(FR/8AT)
純度100パーセント 2022.06.01 試乗記 かつて基本構造を共有していた「1シリーズ」がFF化を敢行したのに対し、新型「2シリーズ クーペ」では、小型車には今や貴重なFRレイアウトが守られた。2リッター直4ターボエンジンを搭載した「220i Mスポーツ」の仕上がりをリポートする。ハチロクみたいに生き残る
BMW初のエンジン横置き前輪駆動車=FF(とそれベースの4WD)車として2014年にデビューした「アクティブツアラー」が2シリーズを名乗ったのを皮切りに、翌年には同社初のミニバンが同じ2の「グランツアラー」として追加。続いて「1シリーズ」もFF化されたかと思ったら、直後には、その4ドア版「グランクーペ」が2シリーズとして登場した。
そうなると「このぶんでは2ドアクーペもFF化されるか、もはや生産終了か……」と早合点して涙したファンも多かったと想像される。しかし、実際の新型2シリーズ クーペは伝統の後輪駆動=FR(とそれベースの4WD)を守りながら生き残った。
この展開を、日本の中高年クルマオタクは「ハチロクみたい」と思ったかもしれない。ここでいうハチロクとは、現行「GR86」の元ネタにして1983年~1987年に生産された「トヨタ・カローラレビン/スプリンタートレノ」の(高性能グレードの)型式名≒俗称である「AE86」のことだ。同世代の5代目カローラ/スプリンターがシリーズ初のFF化に踏み切ったのに対して、クーペ版のレビン/トレノだけがFRレイアウトを固持した点は、なるほど今回のケースに似ていなくもない。
ただ、AE86は旧来のメカニズムを継続していたが、このクルマは全身が新しい。その基本骨格となっている「CLAR(クラスターアーキテクチャー)」は「7シリーズ」から今回の2シリーズまでの幅広いサイズに対応するモジュラー構造のFRプラットフォームである。
そのうえで、2シリーズ クーペでは軽量高剛性の車体構造などにスポーツカー「Z4」との、アルミを多用したフロントサスペンション周辺には「4シリーズ」との共通部分が多いという。そして、インテリアの基本デザインはご覧のように「3シリーズ」や4シリーズと共通である。生産は2019年に操業開始した最新鋭のメキシコ工場が全数を担当する。
みなぎる剛性感
海外では2リッター4気筒ターボの高出力版である「230i」やディーゼルの「220d」といった中間モデル、さらにマイルドハイブリッド仕様もあるが、日本に導入されたのは純エンジン仕様のみ。最高性能モデルの3リッター6気筒の「M240i xDrive」と、2リッター4気筒ターボを積むエントリーモデルの「220i」という2機種3グレードである。
で、今回の試乗車は後者の上級モデルとなる220i Mスポーツだった。素の220iに対して内外装がスポーツ仕立てとなるほか、スポーツATに大径ホイール、スポーツサス、可変レシオステアリングが備わる……といったところは、いつものMスポーツである。
新型2シリーズ クーペは先代より全長が90mm、全幅が50mm大きくなった。大幅に高まっているはずの衝突安全性や車体剛性、環境性能を考えると、先代の同等モデル比で約40kgにおさえられた重量増は、やはり軽合金や複合樹脂を多用したCLARプラットフォームの恩恵というほかないだろう。全高は新旧で5mmしかちがわないが、フロントタイヤとキャビンをつなぐ隔壁付近がより長く低くなった新型は、ずんぐりした凝縮感が売りだった先代とは対照的に、水平で伸びやかなプロポーションが印象的だ。
その走りはとにかく俊敏で、全身に剛性感がみなぎっている。全幅もはっきりと拡大した新型2シリーズ クーペは、見るからに地面を這うような低いスタンスだが、実際の乗車感覚は見た目以上に低重心である。2740mmというホイールベースはZ4と4シリーズの中間より4シリーズ寄りであるものの、ハンドリング感覚はどちらかというとZ4に近い。
スイートスポットははるか上
最高出力184PSというエンジンスペックは前記のとおり、BMWの2リッターとしては控えめな“低出力型”ということになる。とはいえ、最大トルクは自然吸気3リッターに相当する300N・mにも達しており、絶対的には十二分というほかない。ただ、シャシーのほうが明らかに速いこともあって、ときおり物足りない気持ちになることも事実だ。
BMWの4気筒は「~30i」を名乗る高出力型に対して、「~20i」ではレブリミットも低く設定されており、高回転域での吹け上がりがフタがされたようにマイルドになる。その“寸止め”チューンのおかげで、サウンドも振動も、よりツブがそろった上品な味わいになるのがメリットといえばメリットだ。
それでも、「スポーツ」モードにするとレスポンスはそれなりに鋭さを増す。変速機もパドルシフト付きのスポーツATを名乗るものの、上級のM240i xDriveのそれよりは明らかにマイルドな調律なので、パワーにまかせた走りは220iクーペの流儀ではないようだ。
可変ダンパーを備えて、柔らかな「コンフォート」モードにすると素晴らしくしなやかで快適なフットワークを見せてくれるM240i xDriveと比較すると、固定減衰ダンパーとなる220i Mスポーツの乗り心地は、はっきりと硬めである。とくに4輪がバラバラに蹴り上げられるような不揃いなギャップでは、盛大に揺すられてしまう。高速道路でも100km/h程度はまだまだ本領発揮ではない感じで、国内上限の120km/h付近でじわじわとフラット感が出てくるが、本来のスイートスポットはもう少し上の速度域にあるようだ。
こうして路面に低く水平にガッチリと食いつくフットワークに加えて、ハナ先が明確に軽いこともあって、ステアリングフィールはM240i xDrive以上にタイトに仕上がっている。よくも悪くも、切りはじめからタメめいた遊びをまるで感じさせない。
さながらZ4クーペの味わい
ステアリングもサスペンションも、まじりっけのない素の気持ちよさが、このクルマ最大の魅力だろう。市街地ではちょっとゴリゴリ系だったアシさばきも、前記のように高速で速度が上がるほど、あるいは山坂道でGが高まるほどに、しなやかになっていく。
路面によってはドシバタすることもあるし、鋭く突き上げられることも皆無ではない。しかし、クルマそのものは跳ねないし、剛性感は異例なほど高く、車体はミシリともいわず、走行ラインも乱れない。路面に低く水平に吸いついたまま、クルクルと曲がる。使い古された表現だが、まさにコマネズミ、あるいはミズスマシのようだ。
こうして220iクーペの本領が発揮されるような走りをすると、ちょっと気になりだすのがブレーキだ。下りコーナーではもう少しガツンという利きをみせてほしいのが正直なところである。今回のMスポーツなら基本装備に不足を感じさせないのだが、個人的には「Mスポーツブレーキ」だけは追加したい。ただ、このクルマにそれをつけるには、19インチタイヤやリアスポイラーとセットで19万8000円の「ファストトラックパッケージ」を選ぶしかない。
そんな気持ちになるのも、この220iクーペの走りが、ある意味でM240i xDrive以上に本格スポーツカーっぽいからだ。しかも、4WDのM240iとは異なり、220iはまじりっけなし(?)の後輪駆動である。しかも、私のようなアマチュアドライバーが蛮勇をふるってアクセルを踏みつけても、新型2シリーズ クーペのシャシーはまだまだ余裕しゃくしゃくなのである。
この鋭いステアリングと水平な旋回姿勢は、「8シリーズ」からつらなるBMWクーペの末っ子というより“屋根と後席のついたZ4”ととらえたほうが納得感が高い。今のZ4はトヨタの「GRスープラ」ときょうだい車であり、やっぱり新型2シリーズ クーペとハチロクは無関係でもない……というのは、冒頭のAE86話との強引なこじつけである(汗)。それはともかく、こんなすっきり心地よくて普通に走っても溜飲が下がる、ちょうどいい後輪駆動スポーツはもはや貴重なのだが、BMWとは本来こういうクルマだったんですよね。
(文=佐野弘宗/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
BMW 220iクーペMスポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4560×1825×1405mm
ホイールベース:2740mm
車重:1530kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:184PS(135kW)/5000rpm
最大トルク:300N・m(30.6kgf・m)/1350-4000rpm
タイヤ:(前)225/45R18 95Y/(後)255/40R18 99Y(ブリヂストン・トランザT005)※ランフラットタイヤ
燃費:13.3km/リッター(WLTCモード)
価格:550万円/テスト車=597万2000円
オプション装備:ボディーカラー<アルピンホワイト>(0円)/ブラックヴァーネスカレザー<ブルーステッチ付き>(0円)/コンフォートパッケージ(24万4000円)/Mスポーツパッケージ(0円)/Mハイライターズイルミネーテッド(2万8000円)/BMWヘッドアップディスプレイ(12万4000円)/harman/kardonサラウンドサウンドシステム(7万6000円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:968km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:475.1km
使用燃料:42.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:11.3km/リッター(満タン法)/11.5km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
-
ホンダ・アコードe:HEV Honda SENSING 360+(FF)【試乗記】 2025.10.10 今や貴重な4ドアセダン「ホンダ・アコード」に、より高度な運転支援機能を備えた「Honda SENSING 360+」の搭載車が登場。注目のハンズオフ走行機能や車線変更支援機能の使用感はどのようなものか? 実際に公道で使って確かめた。
-
ホンダ・プレリュード(FF)【試乗記】 2025.10.9 24年ぶりに復活したホンダの2ドアクーペ「プレリュード」。6代目となる新型のターゲットは、ズバリ1980年代にプレリュードが巻き起こしたデートカーブームをリアルタイムで体験し、記憶している世代である。そんな筆者が公道での走りを報告する。
-
日産リーフB7 X(FWD)/リーフB7 G(FWD)【試乗記】 2025.10.8 量産電気自動車(BEV)のパイオニアである「日産リーフ」がついにフルモデルチェンジ。3代目となる新型は、従来モデルとはなにが違い、BEVとしてどうすごいのか? 「BEVにまつわるユーザーの懸念を徹底的に払拭した」という、新型リーフの実力に触れた。
-
アストンマーティン・ヴァンキッシュ クーペ(FR/8AT)【試乗記】 2025.10.7 アストンマーティンが世に問うた、V12エンジンを搭載したグランドツアラー/スポーツカー「ヴァンキッシュ」。クルマを取り巻く環境が厳しくなるなかにあってなお、美と走りを追求したフラッグシップクーペが至った高みを垣間見た。
-
ルノー・カングー(FF/7AT)【試乗記】 2025.10.6 「ルノー・カングー」のマイナーチェンジモデルが日本に上陸。最も象徴的なのはラインナップの整理によって無塗装の黒いバンパーが選べなくなったことだ。これを喪失とみるか、あるいは洗練とみるか。カングーの立ち位置も時代とともに移り変わっていく。
-
NEW
マツダ・ロードスターS(後編)
2025.10.12ミスター・スバル 辰己英治の目利き長年にわたりスバル車の走りを鍛えてきた辰己英治氏。彼が今回試乗するのが、最新型の「マツダ・ロードスター」だ。初代「NA型」に触れて感動し、最新モデルの試乗も楽しみにしていたという辰己氏の、ND型に対する評価はどのようなものとなったのか? -
MINIジョンクーパーワークス(FF/7AT)【試乗記】
2025.10.11試乗記新世代MINIにもトップパフォーマンスモデルの「ジョンクーパーワークス(JCW)」が続々と登場しているが、この3ドアモデルこそが王道中の王道。「THE JCW」である。箱根のワインディングロードに持ち込み、心地よい汗をかいてみた。 -
航続距離は702km! 新型「日産リーフ」はBYDやテスラに追いついたと言えるのか?
2025.10.10デイリーコラム満を持して登場した新型「日産リーフ」。3代目となるこの電気自動車(BEV)は、BYDやテスラに追いつき、追い越す存在となったと言えるのか? 電費や航続距離といった性能や、投入されている技術を参考に、競争厳しいBEVマーケットでの新型リーフの競争力を考えた。 -
ホンダ・アコードe:HEV Honda SENSING 360+(FF)【試乗記】
2025.10.10試乗記今や貴重な4ドアセダン「ホンダ・アコード」に、より高度な運転支援機能を備えた「Honda SENSING 360+」の搭載車が登場。注目のハンズオフ走行機能や車線変更支援機能の使用感はどのようなものか? 実際に公道で使って確かめた。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の半額以下で楽しめる2ドアクーペ5選
2025.10.9デイリーコラム24年ぶりに登場した新型「ホンダ・プレリュード」に興味はあるが、さすがに600万円を超える新車価格とくれば、おいそれと手は出せない。そこで注目したいのがプレリュードの半額で楽しめる中古車。手ごろな2ドアクーペを5モデル紹介する。 -
BMW M2(前編)
2025.10.9谷口信輝の新車試乗縦置きの6気筒エンジンに、FRの駆動方式。運転好きならグッとくる高性能クーペ「BMW M2」にさらなる改良が加えられた。その走りを、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか?