BMW 220iクーペ スポーツ(FR/8AT)
クラシック・ミーツ・モダン 2014.07.16 試乗記 これまでの「1シリーズ クーペ」に代わって誕生した、BMWの新たな2ドアモデル「2シリーズ クーペ」。その走りや乗り心地を、エントリーモデル「220iクーペ スポーツ」で確かめた。「2」は二枚目の「2」?
「BMWの『2シリーズ』ってどんなクルマ?」という質問に答えるのは簡単だ。5ドアハッチバックである「1シリーズ」の2ドアクーペ版が「2シリーズ」、と、ハセユーこと長谷川勇也選手(福岡ソフトバンクホークス)のトスバッティングのようにビシッと打ち返すことができる。
ただし、「じゃあ、なんで『1シリーズ クーペ』という名前にしなかったの?」という質問に答えるのは、なかなか難しい。う~ん、と腕組みして、似たような事例が思い浮かんだ。それは、ラーメン屋における「つけ麺」の存在だ。
いまほどメジャーになる前のつけ麺黎明(れいめい)期、「つけ麺」という名称はまだ確立されていなかった。店によって「もりそば」と呼ぶところもあれば、「ざるラーメン」と呼ぶケースもあった。
これがもし、「つけ麺」というネーミングが発明されずに「ざるラーメン」のままだったら、つけ麺は今日の隆盛を築けなかったのではないか。「ざるラーメン」だと「ラーメン」の亜流、「あ、ラーメンの麺とスープを別々にしたやつね」ぐらいに思われていただろう。
「つけ麺」という名前を得たことで、つけ麺はラーメンとはまったく別の、ひとつのジャンルとして認められたのだ。いまや、場所によってはラーメン屋よりつけ麺専門店が幅を利かせているのはご存じの通りである。
同じように、「1シリーズ クーペ」だと、「あ、『1シリーズ』のドアを2枚にしたやつね」程度に思われてしまう。ただし、これを「2シリーズ」と呼べば、「1シリーズ」とは別ジャンルのモデル、という印象を与えることができる。
同一店舗のメニューにラーメンとつけ麺がある場合、つけ麺のほうが麺の量が多いケースが一般的だ。BMWの「1シリーズ」と「2シリーズ」の関係も同様だ。ホイールベースは2690mmと共通ながら、「2シリーズ」のほうが105mm長くて10mm幅広い。
結果として「2シリーズ」は、低くて流麗な、いかにもクーペらしいフォルムを手に入れた。先代「1シリーズ クーペ」は子どもがタキシードを着ているような“七五三”感があったけれど、今度は本物のフォーマルウエアだ。
違うのはサイズだけではない。「1シリーズ」のフロントマスクは、そのタレ目がちょっと困っている人の顔を連想させる。対して、「2シリーズ」は切れ長の目の正統派ハンサムだ。「2シリーズ」というだけあって、二枚目なのだ。
「カッコいい!」と少し心拍数を上げながら乗り込んでインテリアを見渡すと、心拍数はすっと落ち着く。インテリアは見慣れた「1シリーズ」と共通であるからだ。2台並べて間違い探しをしたら多少は違うかもしれないけれど、ぱっと見の印象は同じだ。
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エンジンとATにほれぼれ
ただし、よくよく考えると、「1シリーズ」と同じだというだけでなく、「3シリーズ」や「7シリーズ」と比べても、インテリアのデザインのベクトルは同じだ。
例えば「トヨタ・クラウン」と「トヨタ・カローラ」のインテリアを比べたらまったくの別物だ。それを思うと、サイズやクラスが違えどもドライバーにとって好ましいインテリアのレイアウトは共通である、と主張するBMWは頑固一徹だ。
「220iクーペ スポーツ」は、最高出力184psの2リッター直列4気筒ターボエンジンと8ATを組み合わせる。エンジンを始動して、ブレーキペダルから足を離す。クリープ状態でタイヤが転がり、そこからちょこっとだけアクセルペダルを踏む右足親指に力を入れると、いいモノ感が右足裏にびんびん伝わってくる。走りだしのタイヤの数回転が上品なのだ。無理なく、きれいに、滑るようにするっと転がる。
これは、27.5kgmというこのサイズには十分すぎるトルクをわずか1250rpmで発生するトルク特性のたまものだ。
しかも低回転域でのドライバビリティーがいいだけではなく、回せば速い。3500rpm程度から上で聞こえる、乾いた排気音も心地よい。タコメーター上で波線が始まる6500rpmまでスムーズに回る。
前々から好ましいと思っていたZF謹製の8段ATは、さらに賢くなったようで、手動でシフトをしなくても、右足の力の入れ加減ひとつで理想のギアと回転数が手に入る。しかも電光石火の素早さと、ほれぼれするようなスムーズさをもって変速は完了する。
このエンジンは、インターナショナル・エンジン・オブ・ザ・イヤーで1.8-2.0リッタークラスの部門賞を受賞したとのことだ。もしオートマ・オブ・ザ・イヤーがあれば、この8段ATは間違いなく最有力候補だろう。
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キーワードは「カタマリ感」
山道に入れば、屋根のてっぺんからタイヤの先っちょまでがひとつのカタマリであるような一体感のあるコーナリングを楽しむことができる。金属板を組み合わせたボディーではなく、削りだしの金属塊のように感じるあたりがBMWらしい。
そしてステアリング操作でねじ伏せるのではなく、あたかも自らの意思で素直に向きを変えるように感じられる。このコーナリングを経験すると、前後50対50の重量配分にこだわった、という手垢(てあか)の付いた表現を使いたくなる。
試乗車には、ステアリングホイールを切る量にあわせてステアリング・ギアボックスのギアレシオが変化する「バリアブルスポーツステアリング」がオプションで装備されていた。この手の優秀なデバイスらしく、実際にドライブしている時にはその存在には気づかない。そして後になってから、あのスムーズなターンインはあのデバイスのおかげだったのかと振り返ることになる。
この足まわりに「洗練された」という表現を使いたいのは、優れたハンドリングと良好な乗り心地が共存しているからだ。市街地から高速道路、少し荒れた山道まで、拍手を送りたくなるほど乗り心地がよかった。
これには前述の金属塊のようなボディー剛性も寄与しているはずだ。それから、ステアリングホイールから伝わる正確な情報をもとに心地よく運転できることも、乗り心地が快適に感じる理由のひとつだろう。快適の快は快感の快。
トランクルームはそこそこ広いけれど、後席は大人が座るのには向かない。せいぜい手荷物置き場だと割り切りたい。クーペとは、実用性と引き替えにスタイルを手に入れるためのクルマ。それほど遠くないいつの日か、そんな痩せ我慢が似合う人になりたい。
実用性と引き替えに、と書いたけれど、前方の危険を察知して自動ブレーキが介入するなどの最新の安全装備は標準で備わる。またエアバッグが展開するような事故が起こると車載の通信端末から自動でSOSを発信する「BMW SOSコール」や、メンテナンスが必要な時にディーラーに通知する「BMWテレサービス」も標準だ。
エレガントなボディーと快適でスポーティーな操縦性を組み合わせた古典的なクーペらしさと、新しいテクノロジーがひとつ屋根の下で暮らしている。この「クラシック・ミーツ・モダン」的な特徴も、「1シリーズ クーペ」という名前だと「クラシック」の部分しか表現できない。「2シリーズ」というネーミングに踏み込んだのには、時代の先端を行くモダンなクルマなんだぞ、とアピールする目的もあるのだろう。
(文=サトータケシ/写真=峰 昌宏)
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テスト車のデータ
BMW 220iクーペ スポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4440×1775×1420mm
ホイールベース:2690mm
車重:1470kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:184ps(135kW)/5000rpm
最大トルク:27.5kgm(270Nm)/1250-4500rpm
タイヤ:(前)225/40R18 91W/(後)225/40R18 91W(ブリヂストン・ポテンザS001)
燃費:16.7km/リッター(JC08モード)
価格:457万円/テスト車=558万2000円
オプション装備:パーキングサポートパッケージ+フロントPDC<パークディスタンスコントロール>(14万6000円)/スタースポークスタイリング382アロイホイール(4万5000円)/バリアブルスポーツステアリング(2万9000円)/電動ガラスサンルーフ(14万4000円)/スルーローディングシステム(3万8000円)/アダプティブヘッドライト(8万4000円)/2ゾーンオートマチックコンディショナー(8万3000円)/可倒式リアヘッドレスト(8000円)/パーキングアシスト(5万円)/BMWコネクテッドドライブプレミアム(6万1000円)/メタリックペイント<ムーンライトシルバー>(7万7000円)/ダコタレザーシート+フロントシートヒーティング(24万7000円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:3833km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:333.6km
使用燃料:26.9リッター
参考燃費:12.4km/リッター(満タン法)/9.6km/リッター(車載燃費計計測値)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。