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BMW M240iクーペ(FR/6MT)

足るを知る大人の選択 2016.12.08 試乗記 渡辺 敏史 コンパクトなボディーに、最高出力340psを発生する3リッター直6ターボエンジンを搭載した「BMW M240iクーペ」。MT仕様の試乗を通し、同門の高性能スポーツモデル「M2」に対するオルタナティブとしての実力を試す。

M2クーペ登場の陰で

近ごろの「M」はサイズもパワーもご立派すぎて……とお嘆きの貴兄に今年、BMWが放った衝撃の一台といえばM2。価格も車格もE46世代の「M3」を思い起こさせるそれをもって、今、最もピュアなMではないかと期待する向きは多いのではないだろうか。直近では6段MTの追加も発表され、一部の好事家にとっての数少ない不満も解消された。「ポルシェ・ボクスター/ケイマン」や「ジャガーFタイプ」といったコスパの近いライバルに対しても、パワートレインの個性やフル4シーターの実用性など、みるべきところは多い。恐らくはここ日本でもかなりの人気を博することになろうかと思う。

その陰で、すっかり存在感が薄らいでしまったのがM2のベースモデルともいえる「M235i」だ。同じく2ペダルと3ペダルを選ぶことができ、オプションで機械式LSDの選択も可能と、アナログにクルマと対峙(たいじ)したい向きには格好の選択肢だったそれは、M2と比較しても著しい見劣りがあるわけではない。さらにこの9月、M235iはこっそりとエンジンパフォーマンスを高めてM240iへと進化。従来型より14psプラスの340ps、5.2kgmプラスの51.0kgmを保持している。ちなみにM2に比すればパワーこそ30ps劣るが、トルクは逆に3.6kgm太いというのがM240iのありようを象徴する話かもしれない(M2もオーバーブースト作動時には51.0kgmの最大トルクを発生する)。

つまりは何人にも扱いやすく日常でも乗りやすい特性……とはいえ、だ。3リッター直6にして340psのパワーは、思い起こせば「2JZ-GTE」をちょいとイジった「80スープラ」辺りのパフォーマンスと同等である。それが速くなかろうわけがない。個人的にはトップエンドのひと伸びこそ譲るも、M2との動力性能面での決定的な差異は大きく感じることはなかった……と、M240i、そのくらい速いということだ。

「BMW 2シリーズ クーペ」の上級グレードにあたる「M240i」。2リッターターボエンジンが搭載される「220i」に対し、こちらには340psの3リッターターボエンジンが搭載される。
「BMW 2シリーズ クーペ」の上級グレードにあたる「M240i」。2リッターターボエンジンが搭載される「220i」に対し、こちらには340psの3リッターターボエンジンが搭載される。拡大
テスト車には、オプションのダコタレザーのインテリアが用いられていた。
テスト車には、オプションのダコタレザーのインテリアが用いられていた。拡大
「M240i」のシートはファブリックとアルカンターラのコンビタイプが標準。オプションのレザーシートには赤と黒の2種類が用意される。
「M240i」のシートはファブリックとアルカンターラのコンビタイプが標準。オプションのレザーシートには赤と黒の2種類が用意される。拡大
「M240i」は既存の「M235i」の進化版にあたり、2016年9月の改良に伴い、現在の車名に変更された。
「M240i」は既存の「M235i」の進化版にあたり、2016年9月の改良に伴い、現在の車名に変更された。拡大
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直6ターボを6MTで操る

ちなみに両車ともに、搭載されるのはN55系ユニットだが、M2の側はクローズドデッキの専用ブロックやM3/M4の既存部品などをうまく用いてムービングパーツの軽量化や高剛性化を果たしたものだ。それゆえに、パワー感に大差はなくとも回転フィールやエンジンから発せられる好戦的なビートなどがM2ならではの個性として挙げられる。ただしM240iの側もエキゾーストのチューニングなどは頑張っていて、その感触は十分にスポーティーなものだ。そしていずれであれ、ストレート6をMTでぶん回す楽しみは何者にも代えがたい。日産が、そしてトヨタがそれを失ってからはや十幾年の時がたち、前時代的といわれたそれは今、モジュラー化の発達や衝突安全基準の変遷によって再び注目されつつあるわけだが、クルマ好きにとってはやはり完全バランスならではのスムーズさや、中高音が伸びやかな特有のサウンドなど、官能面においてもみるべきところが多い。自らのアイデンティティーとされていたとはいえ、BMWはよくぞストレート6を絶やさず作り続けていてくれたと思う。

そもそも車格に対しては有り余るほどトルクがあることもあって、6段MTの扱いに気遣いはまったく必要ない。M240i然(しか)り、M2然りで、久しぶりにMTに戻ってみようかというオジさんにとって、それは相当親切な味付けだ。が、シフトフィールは恐らく賛否が分かれるだろう。まずストロークがやや長めで、ギアのかみ込みが手のひらに伝わるようなメカニカルなフィードバックはあえて鈍(なま)されている。これはBMW全般というか、ドイツ車全般に昔からいえることで、イギリス車のような生々しいタッチを嫌ってのことだろう。お国柄とはいえ、「マツダ・ロードスター」や「ホンダS2000」でそれに慣らされた身には、ちょっと物足りなく感じるはずだ。

外観では、10mm低められた車高や、専用の空力パーツなどが「M240i」の特徴。マフラーはダーククローム仕上げとなっている。
外観では、10mm低められた車高や、専用の空力パーツなどが「M240i」の特徴。マフラーはダーククローム仕上げとなっている。拡大
「M240i」に搭載される3リッター直6ターボエンジン。「M235i」のものより最高出力、最大トルクが高められているほか、燃費も改善されているという。
「M240i」に搭載される3リッター直6ターボエンジン。「M235i」のものより最高出力、最大トルクが高められているほか、燃費も改善されているという。拡大
トランスミッションは6段MTと8段ATの2種類。6段MT仕様の値段は631万円と、改良前の「M235i」から据え置かれた。
トランスミッションは6段MTと8段ATの2種類。6段MT仕様の値段は631万円と、改良前の「M235i」から据え置かれた。拡大
メーターはアナログタイプの2眼式。速度計は260km/hスケールで、エンジン回転計のレッドゾーンは7000rpmからとなっている。
メーターはアナログタイプの2眼式。速度計は260km/hスケールで、エンジン回転計のレッドゾーンは7000rpmからとなっている。拡大

もっとハードな足まわりが欲しい

モノレートのM2に対し、電子制御可変のダンパーを持つM240iの乗り味は街中領域でも至極快適で、例えば「3シリーズ」の「Mスポーツ」辺りと比べても、特に路面アタリのまろやかさなどはそれを上回るのではと感じるほどだ。ステアリングフィールも電動ものとしてはかなり濃厚な部類で、昨今の軽いタッチに慣れた身にはそのねっとり感が重く感じることもあるかもしれないが、M240iをご指名するような向きにはピッタリのチューニングといえる。

が、ひとつ気になるのは常速域でもはっきりと感じられる車体の上下動の大きさだ。特にサスの伸び側でのボディーの動きは抑揚に乏しく、コンコンと突き上げるというよりもボヨンと跳ねるような動きとなってドライバーに伝わってくる。それに伴ってグリップ感が減衰してしまうようなことはないが、決して気持ちのいいものでもない。ダンパーをスポーツ側の減衰にすれば幾分は解消されるが、もしクローズドコースを走ることもあるとすれば、さらにもう一段引き締まったレートが欲しくなりそうだ。機械式のノンスリまで用意されていることを考えれば、普段は柔らかめのアシを好む僕ですら、このクルマに関しては、サスセットを全般にもう少しハード側へと振ってあげてもいいかなという気がする。

多板クラッチ制御で左右輪の分配率を自在可変できる「アクティブMデファレンシャル」や、トランスミッションクーラーも搭載するなど強化されたクーリングチャンネル、そして幅広のエクステリア……と、みる人によっては価格差相応かそれ以上の違いがM240iとM2の間にはある。が、乗り心地や使い勝手や見た目までも含めて限りなく普通でありながら、中身には十分以上のお楽しみが用意されているという選択肢を好む向きは、特にこの手のクルマの周辺には多くいらっしゃいそうだ。例えばR32の「日産スカイラインGT-R」が一大センセーションを巻き起こしていた時に、その軽快感や使い切れる気持ちよさからあえて「GTS-tタイプM」を求めていたような、足るを知る大人にとってM240iは格好の選択肢となるだろう。

(文=渡辺敏史/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)

「M240i」の動力性能については、0-100km/h加速が4.8秒と公称されている(欧州仕様、AT車の数値)。
「M240i」の動力性能については、0-100km/h加速が4.8秒と公称されている(欧州仕様、AT車の数値)。拡大
「M240i」には電子制御ダンパーの「アクティブMサスペンション」が装備されており、状況に応じて減衰力を調整できる。
「M240i」には電子制御ダンパーの「アクティブMサスペンション」が装備されており、状況に応じて減衰力を調整できる。拡大
サスペンションをはじめとした走行モードは、センターコンソールに備わる「ドライビング・パフォーマンス・コントロール」のスイッチで切り替える。
サスペンションをはじめとした走行モードは、センターコンソールに備わる「ドライビング・パフォーマンス・コントロール」のスイッチで切り替える。拡大
ボディーカラーは全10色。テスト車にはソリッドカラーの「アルピン・ホワイトIII」が用いられていた。
ボディーカラーは全10色。テスト車にはソリッドカラーの「アルピン・ホワイトIII」が用いられていた。拡大

テスト車のデータ

BMW M240iクーペ

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4470×1775×1410mm
ホイールベース:2690mm
車重:1550kg
駆動方式:FR
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:340ps(250kW)/5500rpm
最大トルク:51.0kgm(500Nm)/1520-4500rpm
タイヤ:(前)225/40ZR18 88Y/(後)245/35ZR18 92Y(ミシュラン・パイロットスーパースポーツ)
燃費:12.7km/リッター(JC08モード)
価格:631万円/テスト車=706万4000円
オプション装備:ダコタレザー<コラールレッド/ブラックハイライト>(22万6000円)/BMWコネクテッドドライブ・プレミアム(6万1000円)/アドバンスドパーキングパッケージ(14万7000円)/スルーローディングシステム(3万8000円)/アダプティブヘッドライト(8万4000円)/2ゾーン・エアコンディショナー(8万3000円)/harman/kardonサラウンドサウンドシステム(11万5000円)

テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:1733km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:276.1km
使用燃料:30.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:9.2km/リッター(満タン法)/9.1km/リッター(車載燃費計計測値)
 

BMW M240iクーペ
BMW M240iクーペ拡大
渡辺 敏史

渡辺 敏史

自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。

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