アルピーヌA110 GT/A110 Sアセンション(MR/7AT)
エブリデイ・スポーツカー 2022.06.17 試乗記 マイナーチェンジを受けた「アルピーヌA110」が上陸。よりパワフルなエンジンを搭載し走りを磨いた「A110 GT」と、エアロパーツを初採用したハードな足まわりの限定モデル「A110 Sアセンション」に試乗し、フレンチロケットの進化を探った。マイナーチェンジでブラッシュアップ
2017年3月にグローバルデビューし、2018年6月に日本導入が開始されたアルピーヌA110。2021年12月31日までの販売台数はグローバルで9586台、日本で809台と好調だ。デビュー時に取材したところ、仏ディエップ工場の生産キャパシティーは年産2500台程度。工場自体にはまだ余裕があるが、スポーツカー用の特別なパーツ等を少量生産で請け負ってくれるサプライヤーを多く開拓し、そちらのキャパシティーを増やすのがかなり難しいとのことだった。2020年までは2500台/年に届いていなかったが、知名度も上がってきて2021年には2500台/年を超えている。現状ではフルキャパといったところだろう。
そのA110が初のマイナーチェンジを受けた。タイムレスで評判のいいデザインには手を入れず、高性能仕様のエンジンをさらにパワーアップ。「Android Auto」と「Apple CarPlay」に対応したインフォテインメントシステムの採用に加え、グレード体系の変更がなされている。
エンジンは、標準仕様が最高出力252PS/6000rpm、最大トルク320N・m/2000rpmと変更はないが、高性能仕様は従来の最高出力292PS/6420rpm、最大トルク320N・m/2000rpmから同300PS/6300rpm、同340N・m/2400rpmへとスープアップされた。
従来の高性能仕様は、標準仕様と最大トルクは同じままに高回転化してパワーを稼いでいた。ゲトラグ製DCTのトルク容量がいっぱいだったからだが、今回はDCT内部のシャフトやクラッチなどを強化することでトルクアップが可能になったという。0-100km/h加速は、標準仕様で4.5秒、従来の高性能仕様が4.4秒なのに対して、新しい高性能仕様は4.2秒にまで短縮されている。
これまでは標準仕様のエンジンを搭載するモデルがスポーティーな「A110ピュア」とグランドツアラー的な「A110リネージ」、高性能仕様エンジンと強化シャシーでサーキット走行まで見据えたのが「A110 S」というグレード体系だったが、新型は「A110」(従来のピュアに相当)、「A110 GT」(従来のリネージに相当)、そしてA110 Sの3モデルに改められた。強化シャシーは「シャシースポール」、標準は「アルピーヌシャシー」と呼ばれる。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
GTとしての資質が光る新グレード
改良型で興味深いのは、A110 GTにソフトなほうのアルピーヌシャシーと高性能仕様エンジンが組み合わされたことだ。ファンの間でよく聞かれた「ピュアのほうがシャシー的に普段乗りやワインディングロード走行に向いているが、Sのパワフルなエンジンの魅力も捨てがたい」という声に応えたかっこうだ。
個人的に「A110プルミエールエディション」(初期限定車でピュアのフルオプションに相当)を所有していてA110 GTが気になっていたので、今回早速ステアリングを握った。
従来型A110 Sのエンジンは、低・中回転では標準仕様と変わらぬフィーリングだったが、高回転域の伸びが違う。5000rpm以上でもパワーの頭打ち感がなく、突き抜けるように回っていくのが好ましかった。
ところが新しい高性能仕様のエンジンは全域でトルクの厚みが増して、走りだしから力強さが異なる。そのうえで高回転域まで、やはり突き抜けるように回るのだ。標準仕様でも速さは十分で、単体で乗っていれば気持ちがいいが、高性能仕様を味わってしまうとうらやましいという気持ちが生まれてしまう。
A110 GTはアルピーヌシャシーで、愛車であるプルミエールエディションと同じだが、わずかに乗り心地がよりスムーズになった印象を覚えた。シートがバケットではなくコンフォートシートなので感じ方が違うことと、1万4000km走った愛車と下ろし立ての新車という違いもあるが、GTと名乗るだけあってグランドツアラーとしての資質は高いといえるのはたしかだ。
ワインディングロードでの振る舞いも相変わらず理想的なものだった。このクラスでは唯一の4輪ダブルウイッシュボーン式サスペンションを採用し、たっぷりとしたストロークを生かすのがA110の最大の魅力。スポーツカーとしてはソフトタッチだが、荒れた路面をものともせず、きれいにいなしながらハイスピードでコーナリングしていけるのだ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
おきて破りのリアウイング
一般的なバンプストップラバーの代わりにハイドロリック・コンプレッション・ストップ(=ダンパー・イン・ダンパー)を採用しているためバンプタッチしたときの動きと落ち着きも見事。ラリーで培われた技術というが、A110はまさにラリーカーのようで、路面が荒れれば荒れるほど足さばきの巧みさに心酔してしまう。
この、追従性の高いサスペンションがあるからこそ、前後重量配分44:56を存分に生かして舵の利きを良くできる。リアにストラットを採用するモデルではミドシップであってもあえてアンダーステア気味にして安心感を確保することもあるが、A110は操舵に対して素直に気持ち良く曲がっていくのだ。
今回、A110 Sに新たに用意されたオプションのエアロキットと、「ミシュラン・パイロットスポーツ カップ2」タイヤを装備した限定モデル「A110 Sアセンション」にも試乗した。
これまでA110の開発陣は、エレガントさを追求するためにリアウイングは“絶対に付けたくない”と主張。キャビン下あたりからテールエンドまで伸びる長大なアンバーパネルディフューザーを装備することにより、人目に触れる大げさなエアロデバイスを採用することなく、しかるべきダウンフォースを稼いでいた。
しかし、高性能化の要望も多いのだろう。エアロキットはフロントで60kg、リアで81kgの追加ダウンフォースを発生し、なおかつ空気抵抗も減少させることで、最高速度がA110 Sの260km/hから275km/hに引き上げられた。
シャシースポールはスタンダードに対してスプリングとアンチロールバーを1.5倍程度に強化し、ショックアブソーバーとバンプストップを最適化。タイヤは前後とも10mmワイドになっている。明らかにロール剛性が上がっているが、それでもA110らしいしなやかさは健在だ。路面が荒れたワインディングロードでも、硬すぎて路面追従性が悪いということはない。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
エアロキット装着車はサーキット向け
ただし、コーナー進入時にしっかりとフロントに荷重をかける必要があるケースでは、アルピーヌシャシーよりもシャシースポールのほうがアンダーステア気味に感じることがある。サーキットならばコーナー入り口まで我慢して強いブレーキをかけられるが、ワインディングロードではそこまで詰めていけず、荷重が中途半端になるからだ。
したがってサーキットでは、全般的にコーナーの奥までブレーキをかけ続けたほうが上手に操れる。その代わり、アルピーヌシャシーではストロークが深すぎてアンダーステアになる場面でも、こちらは素早くノーズをインに向けられ、S字などでの切り返しでロスがなくなる。サーキットではシャシースポールの特性が生きるのである。
乗り心地は、例えば首都高速の目地段差などきつい入力があるところでもさほど悪くないが、左右でうねりがある場面などでボディーが揺すられることがある。スプリングとショックアブソーバーは乗り心地に悪影響を及ぼしていないが、アンチロールバーがビシッと張っている印象が強いのだ。
今回のA110 Sアセンションはエアロキットとタイヤの能力が高いので、操舵初期からゲインが高く、グイグイと曲がりたがる特性が強調されていた。アルピーヌシャシーのほうがどんな路面でも追従性が高く、ラリーカー的なA110の本懐といったところだが、シャシースポール+エアロキットは、レーシングカー的でこれはこれで面白い。サーキット志向が強い人にはおすすめだ。
初のマイナーチェンジとなったが、A110本来の魅力がどのモデルにも受け継がれているのがうれしい。刺激的なエンジンを搭載するA110 GTは、ひとつの理想形であり、これまで以上に多くのファンを喜ばせることになりそうだ。とはいえ、試乗を終えて自分のプルミエールエディションで帰路についても、魅力が全然あせていなかったのも発見だった。なぜなら、エンジンは他のメーカーにも魅力的なモデルがたくさんあるが、このシャシー性能だけは唯一無二だからだ。
攻めて走るのももちろん興奮するが、ゆっくりとコーナーを流すだけでも軽さや重量配分の良さ、しなやかなサスペンションの恩恵がしみじみと感じられる。エブリデイ・スポーツカーとしても優れているのがA110なのだ。
(文=石井昌道/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
アルピーヌA110 GT
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4205×1800×1250mm
ホイールベース:2420mm
車重:1120kg
駆動方式:MR
エンジン:1.8リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:300PS(221kW)/6300rpm
最大トルク:340N・m(34.6kgf・m)/2400rpm
タイヤ:(前)205/40ZR18 86Y/(後)235/40ZR18 95Y(ミシュラン・パイロットスポーツ4)
燃費:14.1km/リッター(WLTCモード)
価格:893万円/テスト車=917万7500円
オプション装備:ボディーカラー<ブルーアビスM>(12万円)/18インチアロイホイール<ブラックGrand Prix>(10万円) ※以下、販売店オプション フロアマット(2万7500円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:535km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
アルピーヌA110 Sアセンション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4230×1800×1250mm
ホイールベース:2420mm
車重:1110kg
駆動方式:MR
エンジン:1.8リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:300PS(221kW)/6300rpm
最大トルク:340N・m(34.6kgf・m)/2400rpm
タイヤ:(前)215/40ZR18 89Y/(後)245/40ZR18 97Y(ミシュラン・パイロットスポーツ カップ2)
燃費:14.1km/リッター(WLTCモード)
価格:1059万円/テスト車=1061万7500円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション フロアマット(2万7500円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:2549km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

石井 昌道
-
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”+エアロパフォーマンスパッケージ【試乗記】 2026.3.3 「GRヤリス」の新仕様として設定された「エアロパフォーマンスパッケージ」装着車に試乗。レースフィールドでの知見を交え開発したというエアロパーツの空力・冷却性能は、リアルワールドでも体感可能なのか。高速道路を経由し、郊外のワインディングロードを目指した。
-
ドゥカティ・モンスター(6MT)【海外試乗記】 2026.3.2 ドゥカティのネイキッドスポーツ「モンスター」が5代目にモデルチェンジ。無駄をそぎ、必要なものを突き詰めてきた歴代モデルの哲学は、この新型にも受け継がれているのか? 「パニガーレV2」ゆずりのエンジンで175kgの車体を走らせる、ピュアな一台の魅力に触れた。
-
フォルクスワーゲンID.4プロ(RWD)【試乗記】 2026.2.28 フォルクスワーゲンのミッドサイズ電気自動車(BEV)「ID.4」の一部仕様変更モデルが上陸。初期導入モデルのオーナーでもあるリポーターは、その改良メニューをマイナーチェンジに匹敵するほどの内容と評価する。果たしてアップデートされた走りやいかに。
-
スズキ・キャリイKX(4WD/5MT)【試乗記】 2026.2.27 今日も日本の津々浦々で活躍する軽トラック「スズキ・キャリイ」。私たちにとって、最も身近な“働くクルマ”は、実際にはどれほどの実力を秘めているのか? タフが身上の5段MT+4WD仕様を借り出し、そのパフォーマンスを解き放ってみた。
-
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(4WD)【試乗記】 2026.2.26 日本で久々の復活を遂げた「ホンダCR-V」の新型に、北海道のテストコースで試乗。雪上・氷上での“ひとクラス上”の振る舞いに感嘆しつつも、筆者がドン! と太鼓判を押せなかった理由とは? デビューから30年をむかえたCR-Vの、実力と課題を報告する。
-
NEW
BYDシーライオン7 AWD(4WD)
2026.3.5JAIA輸入車試乗会2026堂々たるスタイルにライバルの上をいくパワーと一充電走行距離、そしてざっくり2割はお得なプライスを武器とする電気自動車「BYDシーライオン7」。日本市場への上陸から1年がたち、少しずつ存在感が増してきた電動クーペSUVの走りやいかに。 -
NEW
ついにハードウエアの更新も実現 進化した「スバルアップグレードサービス」の特徴を探る
2026.3.5デイリーコラムスバルが車両の機能や性能の向上を目的とした「スバルアップグレードサービス」の第3弾を開始する。初めてハードウエアの更新も組み込まれた最新サービスの特徴や内容を、スバル車に乗る玉川ニコがオーナー目線で解説する。 -
NEW
第951回:日本が誇る名車を再解釈 「ホンダNSXトリビュートby Italdesign」の開発担当者に聞く
2026.3.5マッキナ あらモーダ!2026年の「東京オートサロン」で来場者の目をくぎ付けにした「ホンダNSXトリビュートby Italdesign」。イタルデザインの手になる「ホンダNSX」の“再解釈”モデルは、いかにして誕生したのか? イタリア在住の大矢アキオが、開発関係者の熱い思いを聞いた。 -
メルセデス・マイバッハSL680モノグラムシリーズ(4WD/9AT)【試乗記】
2026.3.4試乗記メルセデス・マイバッハから「SL680モノグラムシリーズ」が登場。ただでさえ目立つワイド&ローなボディーに、マイバッハならではのあしらいをたっぷりと加えたオープントップモデルだ。身も心もとろける「マイバッハ」モードの乗り味をリポートする。 -
始まりはジウジアーロデザイン、終着点は広島ベンツ? 二転三転した日本版「ルーチェ」の道のり
2026.3.4デイリーコラムフェラーリ初の電気自動車が「ルーチェ」と名乗ることが発表された。それはそれで楽しみな新型車だが、日本のファンにとってルーチェといえばマツダに決まっている。デザインが二転三転した孤高のフラッグシップモデルのストーリーをお届けする。 -
第863回:3モーター式4WDの実力やいかに!? 「ランボルギーニ・テメラリオ」で雪道を目指す
2026.3.3エディターから一言電動化に向けて大きく舵を切ったランボルギーニは、「ウラカン」の後継たる「テメラリオ」をプラグインハイブリッド車としてリリースした。前に2基、リアに1基のモーターを積む4WDシステムの実力を試すべく、北の大地へと向かったのだが……。




















