No Garage, No Life! | 達人たちのガレージライフVol.1
ストラトスが生きる家 人脈で築いたコレクション 2022.07.11 Gear Up! 2022 Summer 憧れのクルマを手に入れたら心ゆくまで走らせたい。走れば走るほど、もっとそのクルマを知りたくなる。そのためには人とのつながりが大切。そう教えてくれるのが、ここに紹介するガレージだ。はじめにストラトスありき
久しぶりに仕事から解放されたある日の早朝、ガレージに眠っていたランチア・ストラトスを目覚めさせた。はやる気持ちを抑えながら、排気音で近隣の住人を驚かさぬよう暖機もそこそこにゆっくりとしたペースで走り始める。ガレージを出てから30分ほどたっただろうか。いつものワインディングロードは交通量が少ない。庭というかホームグラウンドだから、すべてのコーナーの曲率、ストレートの長さは頭に入っている。おもむろにV6エンジンの回転を上げ、気持ちよく変速できるドグミッションの感触を味わいながら、連続するコーナーをひらりひらりと抜けていく。この感覚、これが楽しいんだと実感できる瞬間。自然と頬がゆるむ。至福の時間だ。これぞ自動車趣味の真骨頂といえるだろう。“スポーツ走行”を含む恒例のショートドライブを満喫したあと、その日もいつものように自宅の敷地内にあるガレージに戻り、ストラトスを止めると再び満足感が込み上げてきた。
徳島在住の原田 晃さんのストラトスとのすてきな暮らしのワンシーンはこんな感じである。
“初めにストラトスありき”。原田さんのガレージはストラトスを収めるための箱のようなものだ。原田さんは学生時代からAE86で国内ラリーに参戦するなど、クルマをコントロールすること、ラリーの魅力に心を奪われていく。時代は1980年代半ば。世界ラリー選手権(WRC)の舞台ではランチアが攻勢を極めていた頃だ。当時のランチアのワークスカーは037ラリーだが、原田さんは037より少し前のモデルであるストラトスをこよなく愛す。ベルトーネ時代のマルチェロ・ガンディーニがデザインしたボディーは実に個性的かつ革新的だったばかりか、ホイールベースの短いミドシップスポーツカーの戦闘力は高く、グラベルでもターマックでも向かうところ敵なしの状態だった。ライバルの追随を許すことなく何度も勝ち星を挙げ、1974年から3年連続でメイクスチャンピオンに輝いた。
ラリー好きにとってストラトスは憧れの存在であり、それは原田さんも例外ではない。というより、ストラトスへの愛情は誰よりも深いかもしれない。
「後輪駆動が好きなんです。四駆のクルマはテールを流して走る感じではないので、なんぼ四駆が速くても普通に走っているみたいで興味ないです」
実は原田さんはストラダーレとコンペティツィオーネの2台のストラトスを所有している。最初に手に入れたのはボディーが青色のストラダーレ。今からふた昔前に手に入れたものだが、その魅力にすっかり取りつかれてしまい、海外ラリーに参戦していたコンペティツィオーネにまで触手を伸ばすことになる。最初にストラトスを購入して以来、イタリアを中心にして人脈を広げていき、今やランチアがラリーをはじめとするモータースポーツに積極的に活動していた頃のドライバーやメカニックといった“ランチア・コルセ”の面々、さらにはストラトス・ファンと親交を深めている原田さんだが、人の輪が広がっていくなかで、2台目のストラトスに巡り会ったという。
「かつてランチア・コルセにいた人たちもみんな年とりましてね。会うたびに仕事辞めると言うんですよ。それなら辞めてしまう前に、僕がクルマ買うから当時の連中にレストアしてほしいなんて話しているうちに、これ(コンペティツィオーネ)が出てきた。まだ買える値段だったので決めたんです」
「このガレージはストラトスのために建てました。1台目のストラトスがやって来たとき、それにふさわしい入れ物が欲しくなってね」と原田さんは笑う。ガレージが完成したのはほぼ20年前のことだ。
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2階は貴重な資料が盛りだくさん
ガレージは自宅と同じ敷地内にある。敷地の正面奥に自宅があり、その手前の敷石がおしゃれな中庭の左側と右側にシャッター付きガレージが2棟あり、その右に位置するのがストラトスの収まる建物だ。ちなみに、左側のガレージには普段使いの現代車3台のほか、ランチアの2台、テージスとフラミニアがたたずむ。
メインの鉄骨組みの2階建てガレージにはストラトス コンペティツィオーネを中央にしてフルヴィア クーペ1.6HFとデルタS4が並ぶ。フルヴィア クーペは予想にたがわぬラリー仕様車で、しかも1974年サファリラリーでシェカー・メッタがステアリングを握ったグループ4マシンそのものだ。2021年のオートモビル カウンシルに展示されていたのでご覧になった読者もいると思うが、オリジナリティーをより高めるべく、現在レストアの真最中である。グループBのベースモデルであるミドシップ4WDのデルタS4ストラダーレは、ある熱心なコレクターが当時アバルトに特注して仕立てたというスペシャルモデルだ。このガレージのそばにはさらに小規模なスペースがあり、そこにはストラトス ストラダーレとFWDのデルタHFが隠れている。
淡い緑色のフロアはきれいに仕上げられ、イギリスから取り寄せたというグレーカラーの工具用キャビネット兼作業台が備わる。整備するうえで強い味方となるリフト、さらにはエアツールも設置されている。息抜きに欠かせないエスプレッソをすぐに飲める環境も整う。まるでワークスチームのファクトリーである。ランチアやフルヴィアは鳴門で工房を営む腕利きメカニックの手できっちり整備されているものの、原田さん自ら“工作”に手を染めたりする。最近ではフルヴィア クーペの電気配線作業をこなしている。
ガレージの1階が前述したごとくファクトリーをほうふつとさせる実践的なスペースなのに対して、2階はがらりとイメージの異なるコレクションルームとサロンを組み合わせたかのようなすてきなスペースになっている。やや照明を落としたフローリング仕様の広い部屋は、原田さんのストラトス、そしてWRC、ラリー好き仲間への熱い思いがカタチになったかのようだ。
部屋に入ったとき、まず目に飛び込んでくるのが70年代のランチア・ラリーチームの面々を撮影した、壁いっぱいに広がる縦2m×横4mサイズほどの大判の写真だ。セピアカラーのこの写真、よく見れば書架を覆う4枚の引き戸に貼られているユニークなあつらえ品である。書架に収納されているのは、書籍ばかりではなくストラトスの活躍した時代のラリー関係の資料がずらりとそろう。面白いのは原田さん自身が制作した写真集である。ラリーイベントごと、ドライバーごとといった具合にまとめられているものだが、世界中から集めた画像データをプリントしているので、あくまで個人で楽しむ作品だ。3部作って、ドライバーとスイスに住む資料マニアの友人に配るのだという。
他の壁面はというと、おびただしい数の1/43スケールのミニチュアカーを展示したケース棚(当然ながらストラトスとラリーカーがメイン)、ストラトスの大きな写真が目立つ。そして、特筆すべきはイタリア人ドライバー、サンドロ・ムナーリにまつわるグッズや資料が実に多いことだ。レーシングスーツ、ヘルメットなどのギア類、優勝トロフィー、サイン入り写真などなど、それこそ“ムナーリ・コーナー”とでも呼べるくらいの充実ぶりなのである。
「なんか彼とはウマが合うというか、いろいろ声をかけてくれる人なんです」原田さんはそう語る。ムナーリといえばストラトスの開発ドライバーであり、ラリー・ストラトスを語るうえで忘れられない存在である。
原田さんのストラトスやムナーリに関する興味深いエピソードを聞き終え、座り心地の良いソファで目をつぶると、ふっとストラトス コンペティツィオーネの咆哮(ほうこう)と、原田さんが知り合ったたくさんの仲間たちの楽しげな会話が聞こえてくるような気がした。原田さんのこだわりとセンスが光るガレージには、ストラトスが生きつづけるはずである。
(文=阪 和明/写真=菊池貴之)
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阪 和明
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