No Garage, No Life! | 達人たちのガレージライフVol.2
サンデーレーサーの秘密基地 英国車が似合う木造建築 2022.07.11 Gear Up! 2022 Summer 「すっかり増えてしまったいろいろなモノを1カ所に集めようと思いましてね……」そうオーナーが語るガレージは、単にモノを集めただけではないクルマ好きを思わずうならせる魅力に満ちていた。週末はヒストリックカーレース
ヒストリックカーのイベントといえば、展示を中心にしたミーティングかラリーがすぐに思い浮かぶかもしれないが、サーキットを舞台とするレースも根強い人気を誇る。お上の目を気にすることなく思う存分に飛ばせるのだから、楽しいこと請け合いである。そのクルマ本来の性能を発揮させられるという意味で、ドライバーのストレスがたまらなくていいものだ。
ヒストリックカーレースはスポーツカーなりスポーツセダン、いわゆる量産の“ハコ”で参加するのが一般的とはいえ、最近はシングルシーター、いわゆるフォーミュラカーで“遊ぶ”人も少なくない。公道を走れないクルマだからサーキットに運ぶにはトランスポーターやサーキット近くにガレージを借りたりする必要があり、量産車で臨むより手間もコストもかかる。けれど、腕に覚えのあるモータースポーツ志向の強い、懐に余裕のある人が純粋にドライビングを楽しむのなら、レース専用に開発されたフォーミュラカーが向いているのは間違いない。
そんな人たちに格好のレースが“ヒストリック・フォーミュラ・レジスター”の主催するシリーズで、毎回参加台数は20台を超えるほどの盛況ぶりだ。参加車は1960年代のロータス、ブラバムなどのフォーミュラ・ジュニア、F3、F2、50歳から70歳あたりのオジサンには涙ものの懐かしいマシンがそろう。
本橋 茂さんもヒストリック・フォーミュラカーの魅力に取りつかれたクルマ好きのひとりである。同シリーズの常連であり優勝経験も豊富、シリーズチャンピオンの座を獲得するほどの手だれだ。
「フォーミュラはほんとに楽しい。フォーミュラを実際に経験してしまうと、フォーミュラで走ったあとハコに乗ると怖いくらいです」1988年からヒストリックカーレースに参加している本橋さんはこう話す。
愛機はF3がシェヴロンB9、F2がマクラーレンM4AといったF3およびF2だが、F1のクーパー・マセラティも所有している。マクラーレンのF2は極めて珍しいけれど、クーパーのF1も希少である。若き日のヨッヘン・リントも乗った1967年のT86で、搭載するマセラティのエンジンは3リッターV型12気筒! 鈴鹿で開催されたサウンド・オブ・エンジンにも姿を見せている。いくら葉巻型フォーミュラカーに乗りたかったとはいうものの、「うらやましい」を通り越して、「すごさ」すら感じさせる。
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古い納屋の部材を利用したガレージ
そんな本橋さんのガレージは、これらのいまだ現役の60年代フォーミュラカーが一時的に羽を休める場所である。高さが20mはありそうな巨大なケヤキをはじめ、緑のとても多い広大な敷地の隅にガレージはある。
「できれば昔からある納屋をうまく使えないかと考えたのですが、明治15年に建てられたものだったのでさすが老朽化が激しく、新たに建てることにしました。ただ、場所は納屋のあったところと同じで、梁(はり)や柱はできるかぎり再利用しました」
ガレージは切妻屋根の木造平屋である。外壁は下見板張りで、昭和を思い出させる風合いだ。長辺側(屋根の棟と並行な面)には大きな観音開きの木製扉が2カ所設けられていて、それがデザイン上のポイントになる。どこか厩舎(きゅうしゃ)のようでもあり、英国で見かけるガレージのイメージと重なるところもある。大きな軒が突き出ているのも特徴で、その軒の下にはウニモグに似た小型トラックがひっそりと止まっている。
大きな扉を開けると、そこは別世界だった。クーパーF1、マクラーレンF2はもちろんだが、ロータス・エラン、Mk.1のミニ・クーパーS、“4柱”リフトの上にはトヨタ2000GTが鎮座している。工場入りしているシェヴロンF3が戻ってきたら、いったいどこに収めるのだろうと心配になるくらい、ところ狭しと並べられている。本橋さん自身、もう増車はしない、できないと苦笑する。
エランは完全なレース仕様で、フォーミュラカーにのめり込む前から、本橋さんはエランでレースに参戦していた。
「エランには一番思い入れがあるんです。これは3台目のエラン。イギリスの“モッドスポーツ”カテゴリーで戦っていたものを手に入れました。今でも袖ケ浦フォレスト・レースウェイの走行会には、これでたびたび参加しています」
エランは袖ケ浦、マクラーレンとシェヴロンは筑波、クーパーは鈴鹿といったふうに、フォーミュラカーとエランをイベントやサーキットによって使い分けているあたり、まるでワークスチームのよう。アマチュアレベルの趣味とは信じられない充実ぶりだ。
ところで、エランに興味を持ったきっかけが面白い。それはトヨタ2000GTなのだが、そのフレーム形状の似ているエランが欲しくなったのだという。面白いといえば、F1のクーパー・マセラティの購入方法である。なんとインターネットで見つけたというのだ。ネットで買い物をすることがあたりまえの時代とはいえ、古いレーシングカー、しかもF1をネットで買うとは驚きだ。もちろん注文する前に知り合いの業者にチェックしてもらったというから、そのあたりは抜かりないのだろうが、本橋さんの潔さに敬服してしまった。
木造ならではの良さ
本橋さんのガレージには同好の士とヒストリックカーレース談義にふけるためのゆったりとしたスペースはない。ワイングラスをくゆらせながら、何かを思い描きたくなるような椅子やソファが置かれてもいない。時にはオイル交換など、ちょっとした作業や軽整備を行うことはできても、基本的には愛するクルマたちをしまっておく場所である。
同好の士との会話はイベント、レースの舞台であるサーキットで十分に事足りるということなのだろう。オーナーがひとりガレージに入り、お気に入りのレーシングカーたちやヒストリックカーを前に、「次戦はどう戦おうか」などとしばし思いを巡らすことはあるだろう。ガレージに付き物のパーツ、オブジェ、アクセサリー、ポスターを前に遠い日の思い出に浸ることもあるはずだ。あるいは長いあいだ納屋を支えていた梁や柱に目を留め、幼少時代にタイムスリップするのかもしれない。
1週間前の筑波では全開走行していたレーシングカーが、今は静かにたたずんでいる。そんな姿を見るだけでも、クルマ好きには幸せなひとときと感じるはずだ。日が傾きかけたなかでガレージをあらためて眺めてみると、なんとクルマたちが輝いていることか。エランもミニもトヨタ2000GTも、そして葉巻型フォーミュラたちそれぞれが長い歴史と伝統、誇りを主張しているかのようだ。さらには、しっとりとした趣の木造ガレージと丸みを帯びたボディーを持つ60年代のクルマたちとが、あまりにもマッチしていることにハッとさせられる。なんだかそれぞれのぬくもりがひとつに融合して、いっそうの優しさを感じるのだ。
もし自分がガレージを作ることになったら、宝くじが当たったら、健康を維持できたなら、断然「ガレージは木造にかぎる」とつくづく思った。
(文=阪 和明/写真=加藤純也)

阪 和明
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