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スズキが「スペーシア ベース」を投入 FF系軽商用車は後追いしたくなるほど人気なのか?

2022.09.14 デイリーコラム 工藤 貴宏

アイデア自体は初じゃない

スズキが先日発表した「スペーシア ベース」が面白い。

スーパーハイトワゴンの「スペーシア」をベースに、後席取り付け位置を前にして荷室を拡大するとともにリアシートそのものを簡素化。人を乗せる性能を削る代わりに荷室を広げ、荷物をたっぷり積めるパッケージとしているわけだ。いうなれば、ワゴンボディーを使ったバンであり、貨物車としての基準を満たすので登録(軽自動車だから正確には「届出」)は商用車扱いとなる。

スズキいわく「遊びも、仕事も、日常使いも。新しい使い方を実現する軽商用バン」なのだそうだ。

でもなんだろう、このデジャビュ(既視感)は……。よくよく考えたら、これってホンダの「N-VAN」と同じ考え方じゃないか。

N-VANとは、スーパーハイトワゴンの「N-BOX」をベースに後席と助手席を折り畳み重視の簡易的なつくりとして荷室を広げて商用化したホンダの軽。N-VANはスペーシア ベースと違ってワゴンのN-BOXとは違う専用ボディー(なんと助手席側の開口部はBピラーレス!)を仕立てているという違いはあるものの、クルマの成り立ちとしてはおおむね一緒だ。

ムムムッ(ジョン・カビラ風)。二匹目のどじょうを狙ってくるとは、もしかして今、乗用車ベースのバンはセールス的にもよほど魅力のあるカテゴリーなのだろうか。

スズキが2022年8月26日に発売した「スペーシア ベース」。軽乗用車をベースにしたおしゃれな商用車だ。
スズキが2022年8月26日に発売した「スペーシア ベース」。軽乗用車をベースにしたおしゃれな商用車だ。拡大
「スペーシア ベース」の開発にあたってスズキが参考にしたであろう「ホンダN-VAN」。
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知られざるFF系背高商用車の元祖

あれ待てよ、二匹目か???

いやいや、よく考えたらスペーシア ベースは二匹目じゃなくて三匹目狙いだ。ダイハツの「ハイゼット キャディー」という先輩がいるじゃないか。ご存じとは思うが念のため補足しておくと、ハイゼット キャディーは「ウェイク」をベースに後席を取り外してバン化したものだ。

でも、調べてみたらハイゼット キャディーはすでに販売を終了。その理由はベース車のウェイク自体が生産を終えたからかと思ったら、そうではないらしい。ハイゼット キャディーが生産を終了したのは2021年2月。ウェイクの終了は2022年8月。基のスーパーハイトワゴンに先だってモデルライフを終えているのだ。

一体どうして……?

販売台数を調べてみたら答えはなんとなく分かった。

N-VANの販売実績は、2019年度が3万8549台で2020年度が3万2125台。月あたり3000台ほどだから悪くない成績だ。

いっぽうでハイゼット キャディーは、2019年度が714台で2020年度が544台。参考までに2018年度は814台だ。思わず二度見してしまうほどだが、この数字は間違いなく12カ月分。月間の販売台数ではない。

N-VANとは販売台数が全然違う。違いすぎる。これなら販売を終了するのも無理はない。

それにしても、なぜこんなに差がついた?

実は「N-VAN」よりも先に登場していたFF系軽商用車「ダイハツ・ハイゼット キャディー」。すでに販売終了となっており、セールス面からは失敗作といえるだろう。最大積載量が150kgしかないのも痛かった(N-VANは350kg)。
実は「N-VAN」よりも先に登場していたFF系軽商用車「ダイハツ・ハイゼット キャディー」。すでに販売終了となっており、セールス面からは失敗作といえるだろう。最大積載量が150kgしかないのも痛かった(N-VANは350kg)。拡大

ダイハツの見込み違い

想像でしかないが、ダイハツの最大の過ちは全車を2シーターにしてしまったことではないだろうか。簡易的でもなんでもいいから、後席も付けるべきだった。仕事と割り切るならともかく、プライベートで使う人にとってはやはり2人乗りはハードルが高く、逆に仕事と割り切るのならばダイハツは身内に「ハイゼット カーゴ」というキャブオーバーバンの手ごわい競合がいるからそっちを選ぶ人が多かったと考えられる(ホンダにはキャブオーバーバンがない)。

いっぽうでN-VANはオマケ的存在ながらも後席があり、また外観の見栄えをよくしてプライベートユーザーでも受け入れやすい「+STYLE」系グレードの設定も大成功だったようだ。実はグレード別の販売実績を見ると、価格重視のシンプルタイプと上級タイプの比率は1:2ほど。どうやら純粋な商用ユーザーよりも、個人ユーザーや仕事とプライベートの両方で使うユーザーが多く買っているっぽいのだ。

その層を上手に取り込めたことが、N-VANのヒットの方程式といえそう。ハイゼット キャディーの場合、そのニーズをつかめなかったと思われる(そこはワゴンのウェイクが担っていたようだ)。

「ハイゼット キャディー」は「どうせ使わないのだから……」と潔く後席を撤去。これがいけなかった。
「ハイゼット キャディー」は「どうせ使わないのだから……」と潔く後席を撤去。これがいけなかった。拡大
4ナンバーゆえにスペースには制限があるが、「N-VAN」には簡素な後席がある。いざというときに4人乗れるという安心感は大きい。もちろん「スペーシア ベース」にも後席はある。
4ナンバーゆえにスペースには制限があるが、「N-VAN」には簡素な後席がある。いざというときに4人乗れるという安心感は大きい。もちろん「スペーシア ベース」にも後席はある。拡大

2つの大きな違い

では、スペーシア ベースはどうか。

見た目に商用車感はない。そもそも顔つきからしてスペーシアで言うところの「カスタム」顔で、ビジネスライクな雰囲気はまるでない。しかもCMなどは明らかにレジャーで活用する個人ユーザーをターゲットとしたもの。うがった見方かもしれないが、N-VANをしっかり研究しているということなのだろう。

また、キャブオーバーバンである「エブリイ」とのすみ分けも、そのあたりがポイントになってきそうだ。

ただ、N-VANとスペーシア ベースを比べてみると、商品企画として明確に違う部分がある。それは助手席。N-VANの助手席は座ることよりも折り畳むことを重視しているが、スペーシア ベースは運転席同様にしっかりしたつくり。これはどっちがよくて、どっちが悪いということではなく、どちらが向いているかは使い方次第。ユーザーは、その違いを吟味して選びなさい……というわけだが、ひとつだけ言えるのは、助手席に人を乗せて長距離移動するならば、スペーシア ベースのほうが助手席から届く苦情は少なく済むであろうこと。ソリストには関係ないけど。

そうそう、違いといえばN-VANにあってスペーシア ベースにはないものがある。それはターボエンジン。

そんなの関係ない……と思ってはいけない。

N-VANのターボ比率は約3割と今どきの軽自動車とは思えないほど高いのだ。普通の軽自動車だと1割ほどが一般的で、多くても2割ほど。N-VANの約3割という比率は異様なまでに高いのである。レジャーで遠くに出かけようというユーザーが選んでいるのだろう。

というわけで、スペーシア ベースが思ったほど売れなかったら、その理由はターボエンジンがないから……かも。もしスズキの商品企画担当者がこのコラムを読んでくれたのならば、できるだけ早くターボを追加することをオススメする。

いずれにせよ、FFワゴンベースの商用バンというジャンルはやり方次第ではまだまだ伸びしろがありそうだ。次は三菱・日産連合のバン……いや番か。

(文=工藤貴宏/写真=スズキ、ダイハツ工業、本田技研工業/編集=藤沢 勝)

「N-VAN」の助手席は背もたれを前方に倒してテーブルとして使えるようになっている。人が座ることをあまり考慮していないために座面は硬く、前後のスライド調整機能すらない。
「N-VAN」の助手席は背もたれを前方に倒してテーブルとして使えるようになっている。人が座ることをあまり考慮していないために座面は硬く、前後のスライド調整機能すらない。拡大
「スペーシア ベース」の助手席もテーブルとして使えるようになっているが、人が座っても違和感を覚えない設計。さすが後出し!
「スペーシア ベース」の助手席もテーブルとして使えるようになっているが、人が座っても違和感を覚えない設計。さすが後出し!拡大
工藤 貴宏

工藤 貴宏

物心ついた頃からクルマ好きとなり、小学生の頃には自動車雑誌を読み始め、大学在学中に自動車雑誌編集部でアルバイトを開始。その後、バイト先の編集部に就職したのち編集プロダクションを経て、気が付けばフリーランスの自動車ライターに。別の言い方をすればプロのクルマ好きってとこでしょうか。現在の所有車両は「スズキ・ソリオ」「マツダCX-60」、そして「ホンダS660」。実用車からスポーツカーまで幅広く大好きです。

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