日産キックスX FOUR(4WD)
目いっぱいの仕上がり 2022.09.17 試乗記 日産のコンパクトSUV「キックス」に待望の4WDモデルが追加設定された。そればかりか、シリーズハイブリッドの「e-POWER」自体が第2世代に換装されたというから、期待は高まるばかりだ。4WDのエントリーグレード「X FOUR」の仕上がりをリポートする。改良ポイントは大きく3つ
キックスの国内発売は2020年6月だったから、今回は発売から約2年でのマイナーチェンジということになる。ちょっと早い気もするが、コンパクトSUV市場は日本国内でも競争が激しい。また、2016年に南米で初登場したキックスも、今では中米、中国やタイ、台湾などの東アジア、東南アジア、アフリカ、中東、そして日本や北米などの成熟市場……と世界中で販売される超グローバル商品で、各市場ごとの細かな最適化など、改良の手が休まることはない。ちなみに、キックスが投入されていない主要市場は欧州と豪州だが、両市場ではキックスのかわりに日本未発売の2代目「ジューク」が売られている。
今回の改良ポイントは大きく3つある。日本では待望となる4WDモデルの追加とe-POWERパワートレインの改良、そしてインテリアの質感向上だ。エクステリアの基本デザインに変更がないのは、このデザインが基本的に好評なことに加えて、2020年の日本導入時にエクステリアデザインを大幅に手直ししたばかりだからかもしれない。
運転席に座ると、ダッシュボード周辺に変更はないのだが、センターコンソールが一新されていることに気づく。新しいコンソールは前後に貫通する形状の大型のもので、両サイドには肌ざわりのいいレザーパッドもあしらわれる。ドリンクホルダーも深く、別体の上げ底アダプターも備わって便利だ。さらにはスターターボタンやシフトセレクターも新しくなり、そのシフトセレクターは新型「ノート」や「エクストレイル」、そして「サクラ」に共通するタイプのスライド式となった。
というわけで、インテリアで明らかに新しいのはセンターコンソールだけなのだが、囲まれ感を強めた運転席環境はひとつ上級のCセグメントの雰囲気もあり、ショールームアピールをハッキリと高めている。販売現場がより売りやすくなったのは間違いない。
第2世代e-POWERの実力
パワートレインは表面的には従来と変わりない1.2リッターのe-POWER=シリーズハイブリッドだが、実際には最新のノートや「ノート オーラ」で市場投入された第2世代に換装されている。エンジンとモーターは出力が引き上げられており、エンジン性能はノート系と共通となり、駆動モーターのチューンはノートとオーラの中間(136PSという最高出力はオーラと同等だが、280N・mの最大トルクはノートと共通)的な設定となる。カタログ燃費も従来比で6.4%の改善となる23.0km/リッター(FFの場合)となった。
自慢のワンペダルドライブも、以前より減速度が緩やかで、クリープも残した新しい制御に変わっている。ただ、それを使うときには、今までどおりにパワートレインモードを「スポーツ」か「エコ」に設定する必要がある。最新のe-POWERでは専用の「e-Pedal」スイッチでオンオフするようになっているので、キックスには過渡的な部分も残る。
FFでは開口部より一段低いトランクのフロアが、4WDだと開口部とフラットになるのはノート系に似る。しかし、後席を倒したときにフロアのほうが高くなってしまうのは、さすがにちょっと不自然というほかない。これはキックスがもともと4WDを想定しない設計だったがゆえだろうか。
駆動系に雑みのないe-POWERの走行感覚は相変わらず心地よい。とはいえ、額面上で高出力化された動力性能そのものは、単独で乗って明らかに気がつくほどの変化はない。しかし、エンジンの停止領域が拡大したことで、以前より余裕が感じられるようになった。そしてもちろん、車体などの騒音対策は変わりないようだが、エンジンの稼働時間が減ったことで、静粛性も上がった。
シート表皮は要確認
メーター内のエネルギーフロー表示を見ていると、アクセルペダルをわずかでも踏んでいれば、リアモーターも駆動する4WD状態がキープされるようだ。そして、アクセルをオフにすると、今度は前後モーター総動員で回生する。実際のリアモーターは路面状況やアクセル開度、舵角などによって細かくトルク制御されているはずだが、メーターにはそうした細かい表示はされない。
今回は乾いた舗装路のみの試乗になったが、高速や山坂道での安定感は素直に高い。また、たとえば奥にいくほど回り込んでいくようなジャンクションで、唐突にアクセルペダルを踏み込むような意地悪をしても、アンダーステアめいた兆候はほとんど見せない。メーター表示にウソいつわりはなく、きっちりとフルタイム4WDで走っているようだ。こういう制御なら、雪道はもちろん、ウエット路面、高速でのワダチや横風といったシーンでも4WDのありがたみを享受できるだろう。
そういえば、最初にキックスで乗りつけた編集担当のF君が開口一番「シートがよくない」と指摘していたが、山道や高速を数時間ほど乗っていたら、なるほど最近のクルマとしてはめずらしく、お尻がじーんと痛くなってしまった。座面の面圧分布があまりよくないのか、本来は太ももにも分散してほしい荷重が、お尻に集中しているっぽい。
今回はシートについて変更のアナウンスはない。以前webCGでデビュー直後のキックスにも試乗させていただいたが、当時はお尻にここまでの違和感がなかったのは、シート表皮がフル合皮となるグレードだったからかもしれない。新しいキックスでは上級の「ツートーンインテリアエディション」と「スタイルエディション」に合皮シートが標準装備で、今回試乗した素のX FOURでもオプション装着可能である。キックスの購入を検討している向きは、シート表皮のちがいも自分で確かめたほうがいいかもしれない。
燃費性能はもうひと頑張り
今回はシートとならんでシャシー方面の変更も公表されていないが、乗り心地については、路面からの突き上げが以前より鋭く、そして重くなったように思えた。つまり、少なくとも4WDの乗り心地は、マイチェン前のFFから後退した感がある。
それは以前から存在するFFより120kgほど重くなった車重のせいか、あるいは4WD化によってリアのトーションビーム式サスペンションが動きにくくなったからだろうか。「ヤリス クロス」「ヴェゼル」「エスクード」といった競合SUVのハイブリッド4WDと比較しても、乗り心地についてはもうちょっと改善してほしいところだ。
こうしてパワートレインや4WDシステムが共通化されたことで、「ノートのSUV版」ともいうべきキックスのポジショニングはより明確化した。ただ、すでにご承知のように、最新の「CMF-B」プラットフォームを使うノート系と、キックスとでは厳密なハードウエアは別物である。
キックスの基本骨格は前記のとおり、ノートでいえば先代世代にあたるVプラットフォームで、先日ついに国内向け「マーチ」の生産終了も明らかになったことで、同プラットフォームを土台とするクルマは、国内ではキックスのみとなった。全身に剛性感がみなぎるノートと比較すると、キックスは静粛性や(とくに4WDの)乗り心地に一歩ゆずる感があるのは否めない。また、今回のように高速や山坂道でガンガン走らせると、他社ハイブリッドに対して燃費があまりさえないのはシリーズハイブリッドの宿命だろう。
いっぽうで、けっこう優秀な高速直進性はこれまでと変わらず、コーナーでカツを入れて走らせたときの軽快でパリッとした操縦性は悪くない。こういう骨っぽい味わいは、良くも悪くも伝統的な日産車っぽくはある。
(文=佐野弘宗/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
日産キックスX FOUR
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4290×1760×1605mm
ホイールベース:2620mm
車重:1480kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.2リッター直3 DOHC 12バルブ
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:82PS(60kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:103N・m(10.5kgf・m)/4800rpm
フロントモーター最高出力:136PS(100kW)/3410-9697rpm
フロントモーター最大トルク:280N・m(28.6kgf・m)/0-3410rpm
リアモーター最高出力:68PS(50kW)/4775-1万0259rpm
リアモーター最大トルク:100N・m(10.2kgf・m)/0-4775rpm
タイヤ:(前)205/55R17 91V/(後)205/55R17 91V(ヨコハマ・ブルーアースE70)
燃費:19.2km/リッター(WLTCモード)
価格:306万1300円/テスト車=361万7802円
オプション装備:ボディーカラー<ダークブルー×ブリリアントホワイトパール>(5万5000円)/インテリジェントアラウンドビューモニター<移動物検知機能付き>+インテリジェントルームミラー(6万9300円)/前席ヒーター付きシート+ステアリングヒーター+寒冷地仕様(5万5000円) ※以下、販売店オプション ウィンドウはっ水12カ月<フロントウィンドウ+フロントドアガラスはっ水処理>(1万1935円)/ナビレコパック<MM319D-L>+ETC2.0(34万1467円)/フロアカーペット スタンダード<ブラック>(2万4800円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:620km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(6)/山岳路(3)
テスト距離:465.8km
使用燃料:38.6リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:12.1km/リッター(満タン法)/12.8km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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