第3世代の「e-POWER」を搭載した「日産キャシュカイ」が登場 日本導入の可能性は?
2025.07.31 デイリーコラム「e-POWER」が第3世代に進化
日産自動車は2025年6月、欧州で第3世代「e-POWER」を搭載した改良型「キャシュカイ」を発表した。e-POWERはエンジンを発電専用とし、100%電気モーターで走るシリーズハイブリッドシステムの呼称である。7月9日にはイギリス・サンダーランド工場で生産が始まったことを伝えている。同工場では新型「リーフ」も生産する予定。欧州では、第3世代e-POWERを搭載するキャシュカイが9月に発売される予定だ。
筆者はキャシュカイを「キックス」や「ジューク」と同じBセグメントのSUVと誤認識していた。日産はCセグメントに分類している。北米で2024年8月から販売されている2代目キックスの全長が4366mmなのに対し、キャシュカイの全長は4425mmである。ビミョーな差だ。
わずかな差だがBとCの違いは大きく、搭載するパワートレインは別系統だ。e-POWERには小型システムと大型システムがある。2016年に「ノート」(E12型)に搭載されてデビューした第1世代は既存の1.2リッター直3自然吸気エンジン(HR12DE型)を搭載していた。これが小型システムのはじまり。2018年には「セレナ」(C27型)に第1世代e-POWER搭載車が追加設定された。その際、駆動用モーターの出力/トルクとバッテリー容量を引き上げている。
第2世代e-POWERは2021年に発売されたノート(E13型)とともにデビュー。第1世代では別体だったモーターとインバーターを一体化して小型軽量化を図ると同時に、駆動用モーターは最高出力を6%(109PS→115PS)、最大トルクを10%向上させた(254N・m→280N・m)。2023年には全面改良した6代目セレナ(C28型)にe-POWER車を設定したが、その際、発電に特化し高効率化したe-POWER専用エンジン(HR14DDe型)を開発した。排気量は1.4リッターに拡大している。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
第3世代のe-POWERは最大16%燃費が向上
2022年にはe-POWERの大型システムを、この年モデルチェンジした「エクストレイル」(T33型)に設定している。発電用エンジンには、日産が世界で初めて量産化に成功した可変圧縮比エンジン「VCターボ」を採用したのが特徴。1.5リッター直3直噴ターボ(KR15DDT型)だ。
駆動用モーターの最高出力は204PS、最大トルクは330N・mで、これだけの大きな出力をまかなうために、高出力のエンジンを開発したことになる。高速巡航頻度の高い欧州での使われ方を念頭に置いたスペックだ。この大型システムが2022年にキャシュカイに投入された。
この第2世代e-POWERの大型システムを、第3世代のe-POWERに置き換えたのが、今回欧州で発表されたキャシュカイである。第2世代ではモーターとインバーターを一体化して小型・軽量化を図ったが、第3世代ではモーター、インバーター、減速機、発電用モーターと増速機をモジュール化した5 in 1の構造とした。これによりさらなる小型・軽量化が実現するだけでなく、一体化によって剛性が向上するため、振動・騒音が大幅に低減される。
第2世代大型システムのVCターボは純エンジン車とエンジンが共用されていたが、第3世代e-POWERのエンジンはe-POWER専用設計としたのが特徴。1.5リッター直3直噴ターボなのはVCターボと同じだが、燃焼コンセプトを一新。「STARC(Strong Tumble & Appropriately stretched Robust ignition Channel)コンセプト」と呼んでおり、強いタンブル流を利用して燃焼を安定化させる。最大熱効率はなんと42%。従来のキャシュカイと比較して、実走行条件で最大16%、高速道路では14%の燃費向上を確認しているという。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
キックスに第3世代e-POWERを搭載?
「2026年度には第3世代e-POWERを日本と北米に導入する」旨の発表を日産は行っている。キャシュカイを入れるとは言っていない。日産はすでに、第3世代e-POWERを搭載する新型「エルグランド」を2026年度中に導入すると発表済み。北米に導入するのは新型「ローグ」だ。
e-POWER搭載の有無にかかわらず、魅力的なコンパクトSUVの導入が待たれるが、既発表の情報を読み解く限り、第3世代e-POWERを搭載したキャシュカイの日本導入はなさそう。でも、諦めるのは早い。キックスがある(と信じたい)。4月22日、日産は「NISSAN START AGAIN 2025」と題したイベントで、「新型エルグランドを含む4車種を2026年度までに日本市場で発表予定」だと発表した。
エルグランドは全体としてはシルエットながら、フロントマスクの一部がわかるグラフィックを披露。3月26日に発表された新型リーフは全体像を公開。完全シルエットの2台のうち1台は、サイズからして軽自動車だろう。最後の1台はシルエットから推察するに、どうもキックスくさい……。
キックスは現在、2リッター直4自然吸気エンジンとCVTの組み合わせで販売されているが、日本市場に導入する際にはe-POWERを適用するのではないか。日本で販売されている現行キックスが積むのは小型システムなので、新型キックスもキャシュカイが積む第3世代ではなく第2世代e-POWERを積むと考えるのが本筋だが、より高効率な第3世代が準備できているのにいまさら第2世代では商品力に乏しいだろう。ここは思い切って第3世代を積んでくると予想したい(というか期待している)。さて、どうなるか……。
(文=世良耕太/写真=日産自動車/編集=櫻井健一)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |

世良 耕太
-
GRとレクサスから同時発表! なぜトヨタは今、スーパースポーツモデルをつくるのか?NEW 2025.12.15 2027年の発売に先駆けて、スーパースポーツ「GR GT」「GR GT3」「レクサスLFAコンセプト」を同時発表したトヨタ。なぜこのタイミングでこれらの高性能車を開発するのか? その事情や背景を考察する。
-
高齢者だって運転を続けたい! ボルボが語る「ヘルシーなモービルライフ」のすゝめ 2025.12.12 日本でもスウェーデンでも大きな問題となって久しい、シニアドライバーによる交通事故。高齢者の移動の権利を守り、誰もが安心して過ごせる交通社会を実現するにはどうすればよいのか? 長年、ボルボで安全技術の開発に携わってきた第一人者が語る。
-
走るほどにCO2を減らす? マツダが発表した「モバイルカーボンキャプチャー」の可能性を探る 2025.12.11 マツダがジャパンモビリティショー2025で発表した「モバイルカーボンキャプチャー」は、走るほどにCO2を減らすという車両搭載用のCO2回収装置だ。この装置の仕組みと、低炭素社会の実現に向けたマツダの取り組みに迫る。
-
業界を揺るがした2025年のホットワード 「トランプ関税」で国産自動車メーカーはどうなった? 2025.12.10 2025年の自動車業界を震え上がらせたのは、アメリカのドナルド・トランプ大統領肝いりのいわゆる「トランプ関税」だ。年の瀬ということで、業界に与えた影響を清水草一が振り返ります。
-
あのステランティスもNACS規格を採用! 日本のBEV充電はこの先どうなる? 2025.12.8 ステランティスが「2027年から日本で販売する電気自動車の一部をNACS規格の急速充電器に対応できるようにする」と宣言。それでCHAdeMO規格の普及も進む国内の充電環境には、どんな変化が生じるだろうか。識者がリポートする。
-
NEW
GRとレクサスから同時発表! なぜトヨタは今、スーパースポーツモデルをつくるのか?
2025.12.15デイリーコラム2027年の発売に先駆けて、スーパースポーツ「GR GT」「GR GT3」「レクサスLFAコンセプト」を同時発表したトヨタ。なぜこのタイミングでこれらの高性能車を開発するのか? その事情や背景を考察する。 -
NEW
第325回:カーマニアの闇鍋
2025.12.15カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。ベースとなった「トヨタ・ランドクルーザー“250”」の倍の価格となる「レクサスGX550“オーバートレイル+”」に試乗。なぜそんなにも高いのか。どうしてそれがバカ売れするのか。夜の首都高をドライブしながら考えてみた。 -
NEW
日産ルークス ハイウェイスターGターボ プロパイロットエディション/ルークスX【試乗記】
2025.12.15試乗記フルモデルチェンジで4代目に進化した日産の軽自動車「ルークス」に試乗。「かどまる四角」をモチーフとしたエクステリアデザインや、リビングルームのような心地よさをうたうインテリアの仕上がり、そして姉妹車「三菱デリカミニ」との違いを確かめた。 -
ホンダ・プレリュード(前編)
2025.12.14思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「ホンダ・プレリュード」に試乗。ホンダ党にとっては待ち望んだビッグネームの復活であり、長い休眠期間を経て最新のテクノロジーを満載したスポーツクーペへと進化している。山野のジャッジやいかに!? -
アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター(FR/8AT)【試乗記】
2025.12.13試乗記「アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター」はマイナーチェンジで4リッターV8エンジンのパワーとトルクが大幅に引き上げられた。これをリア2輪で操るある種の危うさこそが、人々を引き付けてやまないのだろう。初冬のワインディングロードでの印象を報告する。 -
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】
2025.12.12試乗記「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。










































