見習ったのはポルシェ!? 「ホンダZR-V」の走りの秘密を開発者が語る
2022.09.23 デイリーコラムコンセプトは「異彩解放」
「ZR-V」はホンダのグローバルSUVラインナップにおいては「ヴェゼル」と「CR-V」の間に位置づけられるCセグメントSUVだ。直接的なライバルは、国産車だと「トヨタ・カローラ クロス」に同じくトヨタの「C-HR」、そして「マツダCX-30」「三菱エクリプス クロス」といったところだが、次期CR-Vの導入予定がない日本市場では、ホンダの最上級SUVという役割も課せられる。
世界でもっとも競争が激しいセグメントにほぼ最後発として参入することになるZR-Vは、「異彩解放」というグランドコンセプトで、あえて王道から少し外れた個性をアピールする。プラットフォームをはじめとする基本骨格や、1.5リッター直噴ターボエンジンと2リッターエンジン+ハイブリッドシステム「e:HEV」というパワートレインのラインナップは、シビックと共通。ただし、駆動方式がFFのみとなるシビックに対して、ZR-Vはどちらのパワートレインにも4WDが用意される。
というわけで、先日リポートしたプロトタイプ試乗会の会場で、ZR-Vの開発に携わったおふたりに話を聞くことができた。伊藤泰寿さん(以下・伊藤)は車両運動性能のスペシャリストとして走りの性能開発を、斉藤武史さん(以下、斉藤)はパワートレイン開発を、それぞれ担当した人物だ。
走りを支えるシャシーとエアロダイナミクス
――ZR-Vの開発コンセプトは「異彩解放」とか。競争の激しいCセグメントSUV市場で、とにもかくにも個性派でいきたい……という思いは伝わってきます。
伊藤:CR-Vと同じように王道SUV路線でいくのか、あるいはとがらせるのか……という議論は徹底的にやりました。ただ、ZR-Vは既存商品のフルモデルチェンジではなく、まったくのニューモデルでしたから、そこは思い切ってとがらせることにしました。もっとも、それはZR-Vの上にCR-V、下にはヴェゼルという王道SUVがあるからこそできたという側面はあると思います。
車体構造としてはインストゥルメントパネルより前がシビックで、後ろはCR-Vをベースにしています。プラットフォームそのものはシビックとCR-Vでは共通といえますが、たとえばリアサブフレームの固定でいうと、シビックはリジッドマウントですが、CR-Vはブッシュを使ったフローティングマウントになっています。ZR-VはサブフレームをCR-V同様のフローティングマウントとしながら、各部のブッシュを専用としています。こうしてサスペンションだけでなく後半の車体構造もCR-Vのものを使っているので、振動遮断や遮音性能などの車体特性としても上級クラスの性能が得られているんです。
――実際に乗ってみると、上下動が横方向の動きが少ないのが印象的でした。
伊藤:サスペンションチューンもそうですが、今回は空力もかなり効いています。ZR-Vは地上高が大きいSUVなので、スポーツカーのようにディフューザーなどが有効に使えないのが課題でした。ZR-Vでは、エアカーテンで車体サイドの空気をきれいに流すようにコントロールしています。
――ドライブモードで変化するのはパワートレインだけで、パワーステアリングなどは一定のようですね。
伊藤:ステアリングのインフォメーションは“つくりもの”では意味がないと思っています。またスポーツモードにすると小さなアクセル開度でもパワーが出ますので、4WDの場合は必然的にリアタイヤのトルク配分も増えます。そのおかげでリアがしっかりと安定して、結果的にステアリングのしっかり感も増すんです。ですので、ZR-Vではドライブモードによって、ステアリングのアシスト量を変える必要は感じませんでした。
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こだわりの“リアルタイム”4WD
――パワートレインはシビックと基本的に共通ですね。
斉藤:ZR-Vは、隣のシビックチームが少しだけ先を走る横でずっと開発してきました。ですので、シビックで培ったもの、逆にZR-Vで気づいたものをお互いに融合させながら一緒に開発したという感覚です。とはいえ、ZR-Vはシビックより100kg以上重く、またSUVでもあるので、あまりジャジャ馬にならないような特性にしています。
――1.5リッターターボはもちろん、ハイブリッドのe:HEVでも、油圧多板クラッチを使った本格的な「リアルタイムAWD」を使っていますね。
斉藤:FFベースの4WDの場合、速度が上がるほどリアのトルク配分を徐々に小さくするのが定石です。それは高速だとどうしても振動が出てしまうからでもあるのですが、ZR-Vでは高速安定性を確保するために、速度が上がっても、リアの駆動配分をあまり小さくしない制御になっています。
それは操縦安定性でも大きなメリットがあります。今回はとくに40~60km/hくらいの、レシオも低くてトルクがかかるところでリアの駆動配分を増やしています。その速度域の安定性とリニアな走りには自信があります。また、直進でも基本的に4WDで走りますし、旋回中はさらにリアの配分を増やすなど、走行シーンによって常に最適な配分をする、本当の意味での“リアルタイム”制御といえます。リアタイヤの能力を余らせずに4輪すべてを有効に使うのがZR-Vのコンセプトです。
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参考にしたのは「ポルシェ・マカン」
――「スポーツカーのように走るSUV」を目指したそうですが、参考にしたクルマはあったんですか?
伊藤:「ポルシェ・マカン」はかなり参考になりました。走りという面だけでいえば、世界のSUVでもマカンが抜きんでていると思います。とくにリアの応答遅れの少なさについては、マカンはSUVというより完全にセダン、もしくはそれ以上のレベルだと思います。
われわれもマカンの数値を計測しながら開発したわけではないですが、ZR-Vなりの走りを追求したら、結果的にマカンに近いものになりました。少なくともフロントに対するリアの応答遅れだけでいえば、ZR-Vのそれはシビックより少なくなっています。そのおかげで、ZR-Vはステアリングを切るとすぐに姿勢が決まる……と感じていただけるはずです。
今回はタイヤも専用開発です。ZR-VはSUVということもあり、当初からタイヤに頼りすぎないクルマを目指しました。ですので、タイヤそのものの剛性はあまり上げずに、きれいに接地することを重視してもらいました。
こうして話を聞くほどに、開発陣の“走り”に対する執念めいた思いがうかがえるZR-V。本来なら、この秋にも一般公道で乗ることができたはずなのだが(参照)、例の半導体不足や海外情勢の影響で、2023年春まで発売延期となってしまった。群馬サイクルスポーツセンターで見せた走りもなかなか鮮烈だっただけに、もどかしいかぎりだ。
(文=佐野弘宗/写真=本田技研工業、webCG/編集=堀田剛資)
◆関連ニュース:ホンダが「ZR-V」の予約受け付けを開始
◆関連記事:ホンダZR-V e:HEV Zプロトタイプ/ZR-V Zプロトタイプ【試乗記】

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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