ヒョンデ、BYDに続け!? 日本に上陸したら脅威になるかもしれない自動車ブランド
2022.09.28 デイリーコラム小型車とEVは好相性
いよいよ小型EVが戦国時代に突入するかもしれない。国内では日産の軽EV「サクラ」が話題を集め、アジアに目を向ければ上汽通用五菱汽車の「宏光MINI EV」が爆発的な売れ行きだという。
そもそもEVは小型車と相性がよい。2000年代後半から続くEVムーブメントをつくったのは軽自動車ベースの「三菱i-MiEV」と「スバル・プラグイン ステラ」だったし、世界初の量産EV「日産リーフ」も小型車のカテゴリーにある。テスラは当初からスポーツタイプにこだわったが、これは新興企業だからできたことで、既存の自動車メーカーがその戦略をとることは難しい。
理由はやはり車載用リチウムイオン電池の問題だ。EVにつきまとう航続距離の問題は電池を増やせば解決できるが、電池を増やせば車重が増して電力を無駄に消費し、コストパフォーマンスが低下する。近距離移動用として割り切れる小型EVはコストバランスをとりやすい領域というわけだ。
テスラと肩を並べる50万円EV
国策としてEVをプッシュしている中国では、上汽汽車の宏光MINI EVが大ヒット。いまや「テスラ・モデル3」をもしのぐ勢いで販売台数を伸ばしている。
車体は日本の軽自動車よりも小さいサイズ(全長3m以下)で、50万円以下(円安のせいでいまはもう少しお高い)という激安価格が話題になった。性能や質感は価格なりだとしても、日産サクラの約5分の1、「シボレー・ボルトEV」の約7分の1で買えると思えば、多少の不便さには目をつぶってもいい気がしてくる。
さらに興味深いのは宏光MINIの打ち出し方だ。公式サイトのメインビジュアルは車体そのものではなく、買い物を楽しむ若い男女の姿、つまりはライフスタイル提案型のマーケティングになっている。モノ売りではなくコト売りの手法はモノが行き渡って成熟した市場で多用されることから、中国のEV市場が転換期を迎えているようにも見えてくる。
中国では宏光MINI EVを後追いするかのごとく、東風汽車の「風光MINI EV」や北京汽車の「S3」など、小型EVが続々登場しているという。かつて中国製EVは「安かろう、悪かろう」の象徴だった。いまも怪しげなEVがないとは言わないが、各社とも技術力が向上しているうえに、豊富なラインナップで市場成長を続けている。各社躍進の背景にさまざまな政策があるとはいえ、気づけば、中国メーカーは世界のEV販売台数ランキングの大半を占めるまでになっている。中国発の小型EV旋風は世界市場にどういった影響を及ぼすか、今後を注視したい。
タフなアウトドア系EVの日本上陸に期待
小型EV以外の市場も盛り上がっている。韓国ヒョンデモーターカンパニー初のEVとなるSUV「アイオニック5」は要注目のモデルだ。ドイツのカー・オブ・ザ・イヤー2022を受賞するなど、評価が高まっている。ヒョンデは旧ヒュンダイで、日本市場に対しては再参入という位置づけ。価格は479万円からで、5人乗りSUVとして考えると、値ごろ感があるかもしれない。
日本上陸を期待するメーカーとしては米国のEVベンチャー、リビアン(Rivian)を挙げておきたい。日本ではなかなか新興メーカーが育たないが、アメリカは違う。テスラがさまざまな支援を受けて世界の舞台に躍り出たように、リビアンに対してもアマゾンやフォードなどが出資しており、その成長を後押ししている。9月8日には小型商用車のメルセデス・ベンツ・バンズとの共同出資で欧州に大型EVバンの新工場を開設することが発表された。
リビアンはもともとアウトドア向きのタフな大型EVを開発している。大型SUVのEVはテスラやアウディなども手がけるが、ごつごつしたオフロードも乗り越えそうなスタイリングはリビアン独自の世界観で、日本でも人気が出そうだ。コロナ禍や世界情勢の影響でサプライチェーンが途絶え、赤字が続いているとの報道もあるが、これも“スタートアップあるある”かもしれない。メルセデスと開設する新工場が経営にも好影響を及ぼすことを期待している。
なお、日本で中国製EVを輸入販売することは、実は極めて難しい。日本は国連の車両・装置等の型式認定相互承認協定(1958年協定)に加盟しているが、中国は非加盟だからだ。アメリカも非加盟国だが、連邦自動車安全基準(FMVSS)をベースに輸入が認められる仕組みになっている。今後、日本で中国製EVに乗れる日が来るかどうかは分からないが、中国発の技術やコンセプトは興味深く、引き続き注視していきたい。
(文=林 愛子/写真=上汽通用五菱汽車、東風汽車、リビアン/編集=藤沢 勝)

林 愛子
技術ジャーナリスト 東京理科大学理学部卒、事業構想大学院大学修了(事業構想修士)。先進サイエンス領域を中心に取材・原稿執筆を行っており、2006年の日経BP社『ECO JAPAN』の立ち上げ以降、環境問題やエコカーの分野にも活躍の幅を広げている。株式会社サイエンスデザイン代表。
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