【F1 2022】日本GP続報:混乱のレース、揺るがなかったフェルスタッペンの強さ
2022.10.09 自動車ニュース![]() |
2022年10月9日、三重県の鈴鹿サーキットで行われたF1世界選手権第18戦日本GP。秋雨降るなか2時間以上もレース再開を待った観客の目の前で繰り広げられたのは、およそ半分に短縮されたレースと、待ちわびたヒーローの戴冠だった。
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開場60周年の鈴鹿、近づくタイトル決定の瞬間
3年ぶりにF1が日本に戻ってきた。ホンダにとってはF1最終年の2021年に母国凱旋(がいせん)を果たせず、開催に向けて尽力した鈴鹿サーキットを運営するモビリティランド(現ホンダモビリティランド)をはじめとする関係者は悔しい思いをしていただけに、待ちに待ったホームレースに感慨もひとしおだったに違いない。
今季は正式なF1活動ではなく、レッドブル・パワートレインズを技術支援するHRC(ホンダ・レーシング)として参戦している“裏方”のホンダだが、日本でレースができなかった過去2年間の無念を晴らすかのように、日本GPから今季最終戦までの間はレッドブルとアルファタウリのマシンに「HONDA」ロゴを復活させ、間近に迫ったマックス・フェルスタッペンの2年連続タイトル獲得、そしてレッドブルにとって2013年以来となる久々のコンストラクターズチャンピオンをともに祝えるかたちを整えた。
もちろん待望の母国GPを迎えたのはホンダだけでなく、アルファタウリで2年目を戦ってきた角田裕毅も同じ。鈴鹿サーキットレーシングスクール出身の角田にとって、鈴鹿は“庭”のようなもの。ここでのF4マシンのコースレコードを持つ22歳の若武者が、世界最高峰シリーズのF1でどのような走りを見せるか。2014年の小林可夢偉以来となる日本人ドライバーの一挙手一投足に、ファンの注目と期待が集まった。
残り5戦、104点もの大量リードを築いていたフェルスタッペンは、日本GPで優勝+ファステストラップを記録すれば、ライバルのシャルル・ルクレール、セルジオ・ペレスらの順位にかかわらずタイトルに手が届く状況。前戦シンガポールGPでは予選でつまずいて7位と振るわなかったが、今年すでに11勝していた孤高のポイントリーダーに、さしたる死角は見当たらなかった。
1962年の開場から60周年を迎えた鈴鹿サーキットで、チャンピオン決定の瞬間が近づきつつあった。
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僅差のポール争いを制したフェルスタッペン
初日の金曜日に、秋の冷たい雨にもかかわらず3万8000人を数えた観客は、ドライとなった土曜日になると6万8000人にまで増え、待ち焦がれたファンの熱量たるや相当なものだった。そんな観衆の期待に応えるように、20人のトップドライバーたちも世界屈指の難コースで熱い走りを披露した。
なかでも白熱したのはポールポジション争いだ。僅差の戦いを制したのはレッドブルのフェルスタッペンで、今季5回目、通算18回目となる予選P1でタイトルにまた一歩近づいたかっこう。2位はフェラーリのルクレールで、0.010秒差は今シーズン最小となる僅差。フェラーリのカルロス・サインツJr.が0.057秒差で3位、そしてレッドブルのペレスは4位と、上位グリッドは今季をリードし続けてきた2チームが占めた。
鈴鹿で好調な滑り出しを見せたのがアルピーヌ勢で、エステバン・オコン5位、フェルナンド・アロンソは7位と好位置につけた。一方で戦闘力不足に泣いたのはメルセデスで、遅いストレートスピードに足を引っ張られルイス・ハミルトン6位、ジョージ・ラッセルは8位と中位に埋もれた。
引退前の最後の日本GP、大好きな鈴鹿で奮起したアストンマーティンのセバスチャン・ベッテルが見事Q3に駒を進め9位。マクラーレンのランド・ノリスは10位からスタートすることとなった。またアルファタウリ勢はともにブレーキに違和感を訴え、来季アルピーヌへの移籍が正式に決まったピエール・ガスリーがQ1敗退で17位となるも、角田はQ2まで進み13位と、ホームでの健闘が光った。
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雨により2周で赤旗中断へ
日曜日は予報どおり午後から雨が降りはじめ、路面はウエットに。全車浅溝のインターミディエイトタイヤを履いて、14時過ぎにフォーメーションラップへと旅立っていったのだが、これが3時間を超える長いレースになるとは、9万人の観客を含めて誰も思っていなかっただろう。
シグナルが消え、水煙をもうもうとあげながら1コーナーに突進する20台。抜群のスタートで前に出たのはルクレール、しかし1コーナーのアウト側から勇敢にもフェラーリを追い抜いたのはフェルスタッペンだった。
その後、ヘアピンコーナーを抜けた後にサインツJr.がアクアプレーニングを起こしてクラッシュ、リタイア。またピットレーンスタートのガスリーは、外れたコース脇の看板がマシンにかぶさり後退した。さらにウィリアムズのアレクサンダー・アルボンがトラブルで戦列を去ったほか、ベッテルはアロンソと競り合いコースを外れ、アルファ・ロメオのジョウ・グアンユーはスピンするなど各所で混乱が生じ、セーフティーカーの後に2周で赤旗中断となった。
中断中、FIA(国際自動車連盟)に対し怒りを爆発させていたのはガスリーだ。彼はマシン修復のための緊急ピットインを済ませ、セーフティーカーの隊列を追っていたのだが、コースのすぐ脇にサインツJr.のマシン撤去のためにトラクターがいたことを目撃し、「あってはならない」とオフィシャルを激しく非難した。2014年にはここ鈴鹿でジュール・ビアンキがトラクターに突っ込み、翌年死亡した痛ましい事故が起きていただけに、一歩間違えれば重大事故になりかねないというのが彼の言い分であった。レーススチュワード側は、ガスリーが赤旗中に猛スピードで走り抜けたことを理由にガスリーを召喚し、レース後、20秒加算のペナルティーを彼に科した。また同時にFIAは、今回の状況はしっかりと検証するとした。
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混乱のレースでレッドブル1-2、フェルスタッペン2冠達成
一度は14時50分にローリングスタートで再開することが決まるも、コンディションは良化せずに取りやめ。ルールでは最初のスタートから3時間、つまり17時になるとレースは終了となるため、中断時間の長期化でレースの予定周回数が削られることが徐々に現実味を帯びはじめていた。
再開となったのは16時15分のこと。セーフティーカー先導のもと、1位フェルスタッペン、2位ルクレール、3位ペレス、4位オコン、5位ハミルトン、6位アロンソ、7位ラッセル、8位ダニエル・リカルド、9位角田、10位ミック・シューマッハーといったオーダーで、全車フルウエットタイヤを装着した18台の隊列が動き出した。
5周目が終わるとセーフティーカーが戻り、40分を残して本格的なレース再開。ここで下位に沈んでいたベッテルのアストンマーティン、そしてニコラス・ラティフィのウィリアムズがすかさずインターミディエイトに履き替えるギャンブルに打って出た。この作戦が奏功し、ベッテルは最後の日本GPで見事6位入賞、ラティフィは9位で今季初ポイントを手にしたのだった。
インターミディエイトが速いとわかるや、8周目にフェルスタッペン、ルクレールら上位陣も続々とピットへ。トップ3の順位は変わらなかったが、先頭のフェルスタッペンが快調にラップを重ねる一方、2位ルクレールはやがてタイヤが苦しくなりペースが鈍り、差は広がるばかり。ゴールの17時が近づく頃には、3位ペレスがフェラーリの真後ろに迫り、プレッシャーをかけ続けた。
28周目のファイナルラップ、最後のシケインでついにルクレールがペレスの猛攻に屈し、曲がりきれずにコースアウト。ショートカットするかたちでコースに戻り、ペレスの前でチェッカードフラッグを受けたルクレールには5秒加算のペナルティーが科され、3位に降格。レースはフェルスタッペン、ペレスのレッドブル1-2フィニッシュで幕を閉じた。
混乱のレースは最後まで混迷した。予定されていた周回数未満で終わった場合、消化した周回数に応じてポイントが減らされることがルールで決まっており、今回は「レース周回数の50%以上、75%未満」に該当したため、1位は25点ではなく19点に、2位は18点ではなく14点へと減点されるものと思われた。しかしルール上は「レースが再開されなかった場合はポイントが減る」と規定されており、今回は再開されたため、入賞者には通常と同じフルポイントが与えられ、これによりフェルスタッペンの2冠達成が確定したのだった。
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チャレンジャーから真のチャンピオンへ
今シーズン12勝目を飾り、2連覇も達成したフェルスタッペンが次に狙うのは、ベッテルとミハエル・シューマッハーが持つ年間最多13勝の記録。また通算32勝は、同じ2冠王者のアロンソと肩を並べたことになる。フェルスタッペンが歴史に名を残すそうそうたるチャンピオンたちに迫りつつあることがわかるだろう。
2021年シーズンは、強敵ハミルトンとの壮絶な戦いの末、同点で迎えた最終戦アブダビGPで思わぬ決着がついて初タイトルを獲得。1年前はあくまでチャレンジャーとして果敢に勝負を挑み、7冠王者を引きずり下ろすためには、強引かつ攻撃的な走りも辞さなかった彼が、今季は引き際を覚え、圧倒的な安定感と揺るぎない強さを手に入れた。18戦12勝とシーズンを席巻した今年の結果がそれを物語っている。
もちろん、ハイブリッド時代をけん引してきたメルセデスが今季つまずき、その代わりに覇を競うことになったフェラーリの戦略面、開発競争での脆弱(ぜいじゃく)さに救われた部分も多々あったが、ホンダ(HRC)を含めチーム一丸となり、ライバルの自信をことごとくくじくような戦いをしたからこそ、これだけの圧勝でシーズンを駆け抜けることができた。
チャレンジャーから真のチャンピオンへ。レッドブルとフェルスタッペンの成熟がさらに進めば、フェラーリやメルセデスにとってはいよいよ見過ごせない脅威となるだろう。
4戦を残しての2022年シーズンは、アメリカ大陸シリーズに突入。第19戦アメリカGP決勝は、10月23日に行われる。
(文=bg)