【F1 2022】第19戦アメリカGP続報:レッドブルとフェルスタッペン、亡きオーナーにささげる勝利と栄冠
2022.10.24 自動車ニュース![]() |
2022年10月23日、アメリカはテキサス州オースティンのサーキット・オブ・ジ・アメリカズ(COTA)で行われたF1世界選手権第19戦アメリカGP。この週末の話題をさらったのは、タイトル獲得目前、コストキャップ違反に騒然のレッドブルだった。
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タイトル目前のレッドブルに垂れ込める暗雲、そして統帥の訃報
前戦日本GPで2年連続チャンピオンとなったマックス・フェルスタッペン。ホンダの地元である鈴鹿で王座にのぼりつめ、喜びもひとしおとなったであろうレッドブル陣営が次に目指すのは、2013年以来となる久々のコンストラクターズタイトル獲得だ。
ランキング首位独走中のレッドブルと2位フェラーリとの差は165点、アメリカGPでフェラーリがレッドブルより19点上回ってポイントを取れなければ確定という状況。フェラーリが1-2でも、レッドブルが3-4でゴールすればよかったのだから、時間の問題であることは誰も疑っていなかった。
そのレッドブルだが、喜んでばかりもいられない事態になっていた。日本GP直後、FIA(国際自動車連盟)は、2021年シーズンに各チームが予算制限ルール(いわゆるコストキャップ)内で活動できていたかの監査結果を発表。アストンマーティンが手続き上の違反、そしてレッドブルは手続き違反に加え「軽微(マイナー)な支出超過違反」があったことが明らかになったのだ。年間1億4500万ドル(約214億円)という制限下で“軽微”の範囲はその5%未満の超過だが、5%=およそ11億円と聞けば、決して“マイナー”とは言い難い。
昨季のレッドブルはメルセデスのルイス・ハミルトンと死闘を繰り広げ、最終戦アブダビGPでフェルスタッペンがチャンピオンとなった。今回のレッドブルの違反については、メルセデスのみならず、マクラーレンのザック・ブラウンCEOがFIAに書簡で厳罰を求めるなど、ドライバーを含めライバル陣営も厳しい目を向けており、罰金かポイント剝奪かといったFIAの制裁に注目が集まっている。
レッドブルは違反の認否を明確にしていないが、今後FIAに違反を認めればFIAによる制裁等の詳細が公表されることになり、またチームが認めない場合はコストキャップ判定委員会でさらなる審査が行われる。F1における歴史的なルールとなった予算制限、罰の程度によってはその有効性が問われかねないことは言うまでもないだろう。
アメリカGPウイークの土曜日には、エナジードリンクメーカー、レッドブルの共同創業者であり、同社のF1活動にも多大な影響を与えたディートリッヒ・マテシッツの訃報が入った。世界中のさまざまなスポーツ活動、特にF1においてはレッドブルとアルファタウリ(旧トロロッソ)のオーナーシップやドライバー育成などを支えてきた偉大なる後援者の死に、2015年にトロロッソからデビューしたフェルスタッペンは、「彼なしにはここにいることはなかった」と感謝と追悼の意を示していた。
良くも悪くも、今季18戦で14勝してきた最強チームが、この週末の話題をさらっていた。
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サインツJr.、今季3回目のポール
COTAでのアメリカGPも今年で節目の10回目を迎えた。今季はマイアミGP、また来年はラスベガスGPが加わり、ブラッド・ピットを主演としたハリウッドでのF1の映画化も進んでおり、さらに、今週末オースティンのコースに詰めかけたのは44万人にのぼったというのだから、かの地でのF1はかつてないほどの人気を博しているといっていいだろう。
バンピーな路面と強い風がドライバーたちを翻弄(ほんろう)するなか、予選ではフェラーリ対レッドブルの構図でポールが争われ、フェラーリのカルロス・サインツJr.が今季3度目の予選P1を獲得。0.065秒差でシャルル・ルクレールが2位につけフェラーリ1-2となったが、ルクレールはパワーユニット交換で10グリッド降格、12番グリッドに。代わって3番手タイムのフェルスタッペンが最前列からスタートすることとなった。
4番手タイムのセルジオ・ペレスのレッドブルも5グリッドダウンで9番グリッドに。これによりハミルトンが3番グリッド、ジョージ・ラッセル4番グリッドとメルセデス勢がそれぞれ繰り上がり、さらに好調アストンマーティンのランス・ストロールも2つアップして5番グリッドにつけた。
6番グリッドにおさまったマクラーレンのランド・ノリスの後ろには、アルファ・ロメオのバルテリ・ボッタス、ウィリアムズのアレクサンダー・アルボンが続き、アストンマーティンのセバスチャン・ベッテルがトップ10からレースに臨むこととなった。
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スタートでフェルスタッペンがトップ、サインツJr.はリタイア
予選後にポールシッターのサインツJr.が口にしていた「レッドブルがフェラーリをつかまえる可能性」が、早々に示された。56周レースのスタート、抜群の滑り出しでフェルスタッペンがトップでターン1に進入。一方出遅れたサインツJr.は、後ろから来ていたラッセルと接触しスピン、ピットに戻ってリタイアとなってしまったのだ。この後ラッセルには接触の5秒加算ペナルティーが科され、表彰台のチャンスも遠のくことになった。
フェルスタッペンに続いたのは2位ハミルトン、3位ストロール、4位ラッセル、5位ベッテル、6位ノリス、7位ペレス。このなかでペレスは2周目に6位、程なくして5位、そして6周目には4位と着々とポジションアップし、12番手スタートのルクレールも6周目には7位まで挽回していた。
フェルスタッペンのリードが4秒以上に開いた13周目、2位ハミルトンがピットに入り、ミディアムタイヤからハードに履き替えると、翌周にはフェルスタッペン、ラッセル、さらに15周目にはペレスもハードにスイッチ。このタイミングでピットストップをがまんしたルクレールやベッテルは、18周目にボッタスがスピン、グラベルにつかまってリタイアしたことでセーフティーカーが導入されるという幸運に恵まれることになり、それぞれ上位にジャンプアップすることになる。
22周目にはレース再開となるも、ストロールのリアタイヤに乗り上げるかたちでアロンソが接触、アルピーヌのフロントが宙に浮いた後に路面にたたきつけられ、ガードレールにも当たるというヒヤリとする事故が発生し、再びセーフティーカーの出番が回ってきた。奇跡的にも大事にはならなかったアロンソは、そのままピットに戻りノーズを交換すると7位でゴール。しかしレース後、ミラーが外れかかった状態で走行を続けていたことを危険とみなされ、30秒加算のペナルティーで15位に降格されてしまうのだった。
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リードするメルセデス、襲いかかったチャンピオン
2度目のセーフティーカーが26周目に引っ込むと、レースはフェルスタッペンを先頭に2位ハミルトン、3位ペレス、4位ルクレール、5位ラッセル、6位ベッテルといったオーダーで再開。この時点でピエール・ガスリーが7位、角田裕毅は8位とダブル入賞が期待できるポジションにいたアルファタウリ勢は、ガスリーがセーフティーカーでの車間距離違反によりペナルティーが加えられ結果14位となるも、角田は10位でチェッカードフラッグ。アロンソの降格で9位に繰り上がり、5月の第6戦スペインGP以来となる久々の入賞を遂げるのだった。
29周目、3位ペレスの真後ろにつけたルクレールはレッドブルにオーバーテイクをしかけたがコースオフ。次のラップでは3位の座を奪うことができたものの、フェラーリはタイヤのデグラデーション(劣化)に足を引っ張られ、さらに上を目指せないでいた。
そんな折、トップをひた走るフェルスタッペンに勝負を挑んだのは、今季まだ勝利のないシルバーアローだった。35周目、2位ハミルトンが2度目のピットストップでハードからハードへつなぐ一方、翌周にタイヤをミディアムに変えたフェルスタッペンは交換作業に手間取り、ハミルトンとルクレールに先行を許すかたちとなったのだ。
めずらしいチームのミスに「すばらしいね」と皮肉を口にするフェルスタッペンは、39周目にフェラーリを背後に追いやると、今度は4秒先の首位ハミルトンを追いかけた。
残り15周、ハミルトンとフェルスタッペンの差は2.7秒。一周あたり0.5秒前後詰めてくるレッドブルに対し、メルセデスもペースアップして踏みとどまらんとしていたが、ストレートが速いレッドブルと、逆に遅いメルセデスでは力の差が大きかった。あと7周というところでメルセデスのインをついたレッドブルがトップ奪還に成功。フェルスタッペンは最終的に5秒も差をつけて、真っ先にゴールするのだった。
今季初Vを逃したハミルトンが2位、ルクレール3位、そしてペレスが4位に入り、これでレッドブルのコンストラクターズタイトルが確定。さらにフェルスタッペンは、ミハエル・シューマッハーとベッテルが持つシーズン最多勝記録「13」に並び、今季残る3戦でひとつでも勝てば新たなレコードを手にすることができるまでになった。
「この勝利をディートリッヒに」と亡き恩人にささげたのはフェルスタッペン。2013年以来となるダブルタイトルを獲得したレッドブルのメンバー、またライバルの奮闘ぶりも、このスポーツをこよなく愛した男は目を細めて見守っていたに違いない。
次の第20戦メキシコGP決勝は、10月30日に行われる。
(文=bg)