日産GT-Rブラックエディション(4WD/6AT)【試乗記】
イイ汗がかける 2011.01.24 試乗記 日産GT-Rブラックエディション(4WD/6AT)……966万500円
マイナーチェンジで530psにパワーアップした「日産GT-R」。専用カラーの内装をもつ「ブラックエディション」で、その実力を確かめた。
パワー、特盛り
「GT-R」のステアリングを握ったのは14カ月ぶりである。前回は2009年初頭に出た「スペックV」だった。485psのパワーはそのままに、細かな軽量化を重ねてマイナス60kgを達成した特製GT-Rである。価格もスペシャルな1575万円!
今回試乗したのは、2010年10月にマイナーチェンジした最新型GT-Rの「ブラックエディション」(930万3000円)である。新シリーズは、かるく大台超えの530psへ進化した。車重はブラックエディションで1730kg。軽さでは2009年のスペックV(1680kg)にかなわないが、プラス45psを得た結果、パワー・トゥ・ウェイト・レシオは3.46kg/psから3.26kg/psへ向上している。
しかし、ご安心めされ。スペックVのエンジンも今度のマイナーチェンジで530psに換装されている。485psのスペックVを買った人の心中、いかばかりかと思うが、これから買う人にとってはもちろん朗報である。最良のGT-Rは、最新のGT-Rであらねばならないのだ。
こんなに快適だったっけ!?
ブラックエディションに加えて、「ピュアエディション」(869万4000円)と「プレミアムエディション」(945万円)から成るのが新型GT-Rのレギュラー陣である。
3.8リッターV6ターボは、パワーアップしただけでなく、ほんの少しカタログ燃費値もよくなった。フロントのブレーキローターは直径380mmから390mmにサイズアップした。空力的にもさらにリファインされて、Cd値は0.27から0.26へ向上し、ダウンフォースはフロント、リアどちらも10%増加している。
だが、GT-Rの最新バージョンを見抜くには、ボンネットを開けるのが手っ取り早い。6本の吸気管の周囲に新たに赤のカラーリングが施された。遠く「ハコスカ」や「ケンメリGT-R」のエンブレムが赤く塗られていたことをオジサンは思い出す。
さて、その最新GT-R、都内を走り出してまず感じ入ったのは、パワーよりむしろコンフォートだった。GT-Rって、こんなに快適だったっけ!? とくに乗り心地はかつてないスムースさである。もちろん今でも“サーキットの匂い”を漂わす超ド級のスーパーGTクーペであることには違いない。コールドスタート後、各部のオイルが暖まるまでは、露骨にガクガクするし、変速機や駆動系からの機械音も大きめに出る。こりゃあ、カタギのクルマじゃないなと思う。だが、そうした競走自動車的蛮カラさを放置しておかなったのが今度のマイナーチェンジである。
その具体例がSAVE(セーブ)モードの新設だ。トランスミッションのセットアップスイッチを長押しすると、エンジンや変速機の制御マップが最も穏やかになる。それに加えて、ハンドルを半回転以上きった10km/h以下の微速域では自動的に2WDになる。駆動系の干渉でハンドルが重くなるタイトコーナー・ブレーキング現象を緩和する機能である。サーキットの申し子も、ここに至ってコンフォートをいっそう強く意識したのである。
クルマを超えてる
一方、圧倒的な速さにはさらに磨きがかかった。2009年のスペックVより有利な馬力荷重を持つのだから当然だ。一説には0-100km/h=3秒フラット。リミッターを解除するとマックス315km/hをマークするという。
いつものワインディングロードを走った。路面の荒れたコーナーで写真を撮ってもらうと、「ネズミみたいですね!」とファインダーをのぞいていたカメラマンが言った。凸凹で瞬間的にラインが乱れそうになっても、GT-Rは「アテーサE-TS」や「VDC-R」といった武器を総動員し、自ら軌跡を整えて切り抜けてゆく。その間髪を入れぬ修正技をネズミのすばしっこさになぞらえたのだ。しかも、それだけ反射神経にすぐれた賢いシャシーなのに、“クルマに乗せられている”つまらなさや疎外感を与えることはない。ペースを上げるにつれて、運転実感を増すのがGT-Rのすばらしいところだ。オーバー500psに到達した今も、イイ汗がかけるクルマである。
トリセツを熟読していたら、「Rモード発進」という項目を見つけた。いわば自動ドラッグスタート機能。英語で“ローンチコントロール”の手順が明記されたのは、今回が初めではなかろうか。「停車状態からの発進加速を楽しめます」と、ジョークみたいな説明が書いてある。
やり方は簡単だ。トランスミッションとVDC-RのセットアップスイッチをRモードにする。ブレーキを踏んで、アクセルペダルを素早く床一杯まで踏む。エンジン回転が上がって4000rpmにキープされる。3秒以内にブレーキペダルを放す。以上。
どんなクルマでも、ローンチコントロールが付いていれば、必ず試すことにしている。530psのGT-Rでも、やってみた。ぶったまげた。「911」だって、「M3」だって、「AMG」だって、発進直後は一旦、テールをグイッと沈めるような挙動をみせるものである。そういう“ため”も“躊躇(ちゅうちょ)”も、GT-Rはゼロだった。ブレーキペダルをリリースするや、ドカーンといきなり高速で弾かれた。こんな発進加速は初めてだ。たぶんいちばん近いのは、ジェット戦闘機のカタパルト発進だろうと想像した。最新のGT-Rは、最速のGT-Rである。
(文=下野康史/写真=河野敦樹)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(FF/6MT)【試乗記】 2025.8.30 いまだ根強い人気を誇る「ホンダ・シビック タイプR」に追加された、「レーシングブラックパッケージ」。待望の黒内装の登場に、かつてタイプRを買いかけたという筆者は何を思うのか? ホンダが誇る、今や希少な“ピュアスポーツ”への複雑な思いを吐露する。
-
BMW 120d Mスポーツ(FF/7AT)【試乗記】 2025.8.29 「BMW 1シリーズ」のラインナップに追加設定された48Vマイルドハイブリッドシステム搭載の「120d Mスポーツ」に試乗。電動化技術をプラスしたディーゼルエンジンと最新のBMWデザインによって、1シリーズはいかなる進化を遂げたのか。
-
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
NEW
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。 -
第926回:フィアット初の電動三輪多目的車 その客を大切にせよ
2025.9.4マッキナ あらモーダ!ステランティスが新しい電動三輪車「フィアット・トリス」を発表。イタリアでデザインされ、モロッコで生産される新しいモビリティーが狙う、マーケットと顧客とは? イタリア在住の大矢アキオが、地中海の向こう側にある成長市場の重要性を語る。 -
ロータス・エメヤR(後編)
2025.9.4あの多田哲哉の自動車放談長年にわたりトヨタで車両開発に取り組んできた多田哲哉さんをして「あまりにも衝撃的な一台」といわしめる「ロータス・エメヤR」。その存在意義について、ベテランエンジニアが熱く語る。