商用車や定置電源、建設機械の分野にも進出! ホンダが水素事業の拡大を発表
2023.02.02 自動車ニュース![]() |
本田技研工業は2023年2月2日、燃料電池システムの研究開発・販売を軸とした、水素事業の将来計画を発表した。
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二輪・四輪以外の分野にも燃料電池を導入
ホンダは2050年の新目標として、自社製品が関与する交通事故死者ゼロと並び、「全製品、企業活動を通じたカーボンニュートラル」を標榜(ひょうぼう)。二輪・四輪事業では電動車の開発・市場投入を推し進め、2022年には将来へ向けた事業戦略を発表している(参照:その1、その2)。一方、エネルギーの分野では、再生可能エネルギー由来の電気に加え、電気を貯蔵・運搬するエネルギーキャリアとして水素に注目。2022年4月には「水素事業開発部」を新設するなど、燃料電池をコア技術に、さまざまな分野での事業展開を模索している。
今回の発表は、そうした水素事業への取り組みを紹介する内容となっており、これまで主として取り組んできた乗用モビリティーの分野に加え、商用車、定置電源、建設機械の3つの分野でも、燃料電池システムの適用に取り組んでいくと表明した。
具体的な発表内容は、以下のとおり。
燃料電池システムの進化
米ゼネラルモーターズ(GM)と共同開発している、次世代燃料電池システムを実用化。まずは同システムを搭載した燃料電池車(FCEV)を、2024年に米国と日本で発売する。性能面では、電極への革新材料の採用やセルシール構造の進化、補機の簡素化、生産性の向上などによって、「クラリティ フューエルセル」(2019年モデル)のものとの比較でコストを3分の1に低減。同時に、耐食材料の適用や劣化抑制制御によって耐久性を2倍に高め、耐低温性も大幅に向上させるとしている。
さらに、燃料電池システムの本格普及が見込まれる2030年ごろへ向けて、研究開発を推進。上述の次世代システムのさらに2分の1のコストと2倍の耐久力を目標に掲げ、従来のディーゼルエンジンと同等の使い勝手とトータルコストの実現を目指して、要素研究を開始するとしている。
燃料電池システムの外販と他分野への適用
燃料電池技術の適用をFCEV以外にも拡大。2020年代半ばに次世代燃料電池システムのモジュールの外販を開始する。販売数は、まずは年間2000基レベルを想定し、2030年に年間6万基、2030年代後半に年間数十万基レベルの販売を目指すとしている。
当初の適用領域としては、先述のとおり自社の販売するFCEVに加えて商用車、定置電源、建設機械を想定。これはエネルギーを高密度で貯蔵・運搬でき、また短時間で充てんできる水素の特徴を考慮したもので、バッテリーでは対応が難しい、稼働率の高い大型モビリティーや大型インフラの電源、短時間でエネルギー充てんが必要なモビリティーにおいて高い有用性があると考えたためだ。
各領域における具体的な施策は、以下のとおり。
【乗用車】
先述のとおり、GMと共同開発した次世代燃料電池システムを搭載した新型FCEVを、2024年に日米で発売する。新型車は北米仕様の新型「CR-V」をベースとしたもので、外部から充電できるプラグイン機能や、外部給電機能を搭載。米オハイオ州メアリズビルの「パフォーマンス・マニュファクチュアリング・センター」で生産される。
【商用車】
商用トラックに燃料電池システムを供給。日本ではいすゞ自動車との共同研究による、燃料電池大型トラックを使った公道での実証実験を2023年度中に開始する予定だ。中国では東風汽車と共同で、次世代燃料電池システムを用いた商用トラックの走行実証実験を、2023年1月に湖北省で開始している。
【定置電源】
近年はクラウドやビッグデータの活用により、データセンターの必要電力が急増。非常用電源へのニーズが高まっているという。そこで発電領域では、クリーンで静かな非常用電源として燃料電池システムの適用を提案する。まずは米カリフォルニア州のアメリカン・ホンダモーターの敷地内に、クラリティ フューエルセルの燃料電池システムを再利用した約500kWの定置電源を設置。2023年2月下旬より、データセンター用の非常用電源として実証運用を開始する。その後、グローバルにホンダの工場やデータセンターへシステムを導入していき、自社の環境負荷低減も図るとしている。
【建設機械】
建設機械市場で大きなセグメントを占める、ショベルやホイールローダーから燃料電池システムの適用に取り組む。既存の固定式水素ステーションでは対応が難しい建設機械への水素供給については、業界団体や関係者と連携して課題解決を図っていく。
こうした各領域での製品の外販に加え、ホンダはバリューチェーンの拡大にも取り組むとしている。特に企業における燃料電池システムの導入では、開発投資や工数の削減、トータルコストの抑制、安価で安定的な水素の供給などが課題となる。そこでホンダは、納入先の完成機に燃料電池システムを適合するための開発サポートに加え、アフターメンテナンスや水素の安定供給といった運用面も支援していくという。
水素エコシステムの構築
水素の供給インフラを含む水素エコシステムの形成を推進する。これまでも、日本では日本水素ステーションネットワークへの参画、北米では水素ステーション事業を行うシェルやファーストエレメントフューエルなどへの支援を通じて水素ステーション網の拡充をサポートしてきた。今後は新たな領域として、水素の需要があるところを起点とした水素エコシステムの形成や、政府や地方自治体が主催する、港湾などでの大量輸入水素を活用したプロジェクト等にも積極的に参画する。
日本では丸紅や岩谷産業とともに、水素供給や商用車導入へ向けた検討を開始。欧州でも再生可能エネルギーと水素を組み合わせた、エネルギーエコシステムの構築実証を計画しているという。
水素技術の宇宙領域での活用
水素技術のさらなる活用先として、宇宙領域での先行研究開発に取り組んでいく。これまでもホンダは、太陽エネルギーで水を電気分解して酸素と水素を製造する高圧水電解システムと、酸素と水素から電気と水を発生させる燃料電池システムを組み合わせた「循環型再生エネルギーシステム」の実現へ向け、2020年から2021年度まで国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同研究を行ってきた。また2022年には、月面探査車の居住スペースとシステム維持に電力を供給する「循環型再生エネルギーシステム」の研究開発契約をJAXAと締結した。これを受け、ホンダはJAXAから委託を受けるかたちで概念検討を行い、2023年度末までに初期段階の試作機「ブレッドボードモデル」を製作するとしている。
(webCG)