新たな関係を構築した日産とルノー そもそも何が原因でモメていて今後はどうなるのか?
2023.02.15 デイリーコラム思った以上に悪化していた“関係”
2022年秋以来、ルノーと日産自動車の間で交渉が長引いていた、両社の資本関係にまつわる“リバランス”問題が、ひとまず決着をみた。一時は2022年内にも決着するといわれてきたが、結論は2023年2月6日までズレ込み、ロンドン(フランスでも日本でもない中立の地という意味か)での記者会見においての発表となった。同会見にはルノーのジャンドミニク・スナール会長のほか、同じくルノーのルカ・デメオCEO、日産の内田 誠社長兼CEO、そして三菱自動車の加藤隆雄代表執行役社長兼CEO……といった同アライアンスのキーマン全員が出席した。
1999年に日産が倒産寸前の経営危機に陥ったときに救いの手を差し伸べたのがルノーだった。日産が今も存続しているのは間違いなくルノーのおかげである。ただ、その後に日産の業績が回復すると、売上高でも企業規模でも明らかに日産のほうが大きいにもかかわらず、ルノーは日産株式の43.4%を押さえ続けた。対して日産が保有するルノー株は15%。しかも、フランスの国内法の影響で、日産はルノーに対する議決権が与えられなかった。こうしてルノー優位の支配構造が続いていたことに、日産側の不満がたまっていたことが、今回の交渉難航の原因ともいえた。
会見の最後にスナール会長は「私はこれまでの4年間、現状ではダメだ、時間をかけてでも通常の状況に戻さなければならないと考えていました。私は日産の状況を理解しています。15%の(ルノー)株を保有しているのに議決権がない……などという状況が許せない気持ちはもっともです。それが人情というものです。しかし、ルノーも約44%の日産株を保有しながら影響力をまったく行使できませんでした。実際、私が東京で日産の株主総会に出席しても、発言権はありませんでした」としみじみと語った。ちなみに、スナール会長は日産の取締役のひとりでもある。こうした言葉からも、これまでの両社の関係は外から見ている以上に悪化していたことがうかがえる。日産の不満は想像以上に強く、またルノー側も思うようにいかない状況にフラストレーションをためていた。
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カギは知的財産
合意の詳細については経済専門メディアの記事を参照いただきたいが、かいつまんでいうと、ルノーが日産への出資比率を引き下げてお互いのそれを15%ずつとすることで、日産の悲願だった“対等な提携関係”の形を整えた。日産はその見返りに、ルノーが設立する電気自動車(BEV)に特化した新会社「アンペア」に最大15%を出資。さらに三菱もアンペアへの参画を検討するとした。デメオCEOが「欧州ではもはや内燃機関に未来はない」と明言するように、ルノーはアンペアに社運をかけている。その協業相手を見つけることは、虎の子の日産株を手放してでも必要だったわけだ。
各種報道によると、交渉が難航した最大の理由は、日産の知的財産のあつかいだったともいわれる。ルノーはBEV事業をアンペア社で手がけるいっぽうで、ハイブリッドを含む内燃機関系パワートレイン事業は中国ジーリー社との合弁会社「ホース」に移す。これまで日産とルノーの間には4ケタにのぼる件数の共同プロジェクトがあり、それらのほぼすべてに日産の知的財産が絡んでいる。このままでは日産の知的財産がホース経由でジーリーに流れる可能性があったし、アンペア社でも連携する米クアルコム社やグーグル社に対する同様の懸念があった。今回はその点もきっちりと日産が抑えを利かせられる合意になっているはずだ。
もっとも、こうした資本や経営にまつわる話はともかく、本業についての新たな取り組みには、クルマオタク的に興味深いものも多い。
たとえば各市場のすみ分けだ。各社が得意とする市場といえば、日産が北米と中国、ルノーが欧州、三菱がアセアンで、それぞれが得意市場をリードすることは以前から明確に合意されていた。いっぽうで、それ以外の市場では手を取り合って攻略していく姿勢が、今回明確化されたのは面白い。
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さらに強固な関係を構築
そのひとつの中南米市場にはルノーも日産も進出しており、しいていえばルノーのほうが少し存在感があるようだが、正直パッとしない。そこでアルゼンチンではルノーが日産に小型ピックアップを、メキシコでは日産がルノーに小型車を供給しつつ、ルノー主導で開発された「CMF-AEV」を土台としたAセグメントBEVを共同で投入する。
両社にとって未開拓に近かった(ともに安価な小型SUVを2~3車種販売するのみ)インドについても、今後は共同で新型車を投入していく。今後の自分たちの成長にインド市場は欠かせないとの判断か、後日あらためて530億インドルピー(約850億円)の投資計画を発表したくらいだ。投入予定の新型車6車種のうち、4車種がこれまでより上級となる新型CセグメントSUV、2車種がAセグメントBEVという。いかにも力が入っている。
すでにルノーが主導している欧州についても新しい取り組みが発表された。まず三菱はルノーの技術資産を活用したBセグメントの「ASX」と「コルト」の新型モデルを開発する。現行ASXは「ルノー・キャプチャー」のバッジとグリルを変えただけのOEMだが、次はきっちり独自性を出せるのかに注目だ。さらに日産も一部で「欧州撤退か?」と報じられるほど欧州での先行きが不透明だったが、アンペアを通じてBセグメント、Cセグメント、そして商用車のBEVをあらためて継続展開することを検討するという。BEVの最前線である欧州で勝負する日産BEVなら、きっと悪くないクルマになるだろう。
今回の合意について「次のレベルの変革が必要でした。それはチョイスではなくニーズ」と語った日産の内田社長は、冒頭のスナール会長の言葉からも、ルノー相手にかなりのタフネゴシエーターぶりを発揮したと想像される。また、ルノーと日産の動向に自社の将来も直接左右される三菱の加藤社長は「ルノーと日産の合意、おめでとうございます」と素直に歓迎の意を示した。さらに、ルノーのデメオCEOは「アンペアへの参画は特に欧州において日産にも三菱にもメリットが大きいはず。またBEVはソフトが決め手」と、ルノーが主導するというソフトウエア開発の重要性を説いた。
そしてルノーのスナール会長は「フラストレーションは忘れましょう。過去に生きるのはやめて、未来を見据えましょう」と会見での自身の発言を締めくくったが、そのとおり。今後も離れないと決めたのなら、どうか面白いクルマをつくって、日本のクルマ産業も盛り上げてほしい。
(文=佐野弘宗/写真=日産自動車/編集=藤沢 勝)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。