伝統と革新の融合を果たし、世界へ挑む“日本を代表する高級車”
【徹底解説】新型トヨタ・クラウン 2023.03.09 ニューモデルSHOWCASE 70年に迫る歴史を受け継ぎつつ、まったく新しいモデルへと進化した「トヨタ・クラウン」。トヨタが誇る高級車の代名詞は、実際にはどのようなクルマに仕上がっているのか? 使い勝手や機能性、装備、燃費、価格設定と、多角的な視点から徹底解説する。過去に別れを告げ、変革を選んだ16代目
クラウンは、日本最長の歴史を誇る乗用車名だ。その初代モデルは1955年1月の発売だったから、すでに68年以上の歴史を刻んでいる。ちなみに、次に古いのは1957年に生産が開始された日産の(当時はプリンスだったが)「スカイライン」。乗用車以外も含めれば、日本最古の現役車名は、1954年に使われはじめた(クルマ自体の発売は1953年)「ランドクルーザー」である。
いずれにせよ、クラウンは日本でもっとも歴史ある乗用車であり、国内最大シェアを誇るトヨタの個人向け最高級ドライバーズカーである。確かに「センチュリー」のほうがより高額だが、そのオーナーは運転手つきで後席に乗るのが基本。また、日本では「レクサスLS」が「トヨタ・セルシオ」として売られた時期もあったが、そのときもセルシオと共通のV8エンジンを積む「クラウンマジェスタ」を用意して、クラウンがトヨタブランド最高級車のひとつであるという車格を守っていた。
そんな定番の高級車として、2022年までの67年間にわたって伝統的な4ドアセダン(それベースのクーペやステーションワゴンが用意された世代もあった)というスタイルを守ってきたクラウンが、この16代目にしてクロスオーバーという新ジャンル商品に生まれ変わったのはご承知のとおりだ(参照)。しかも、初代以来のエンジンを縦置きするFRレイアウトも捨てて、エンジン横置きFFレイアウト(厳密には、それベースの4WD)を採用。さらに“事実上の日本専用車”というコンセプトも変えて、海外でも売られるグローバル商品となるなど、これまでの伝統をことごとく覆して、賛否両論を呼んだ。
もっとも、新型クラウンはまったくの別種に変異したわけではない。今回のクロスオーバーのほかに、背高SUVの「エステート」やカジュアルな「スポーツ」など、新型クラウンは最終的に計4車種の一大シリーズになる予定とされている。そしてそのなかには、これまでの歴史を守る4ドアの「セダン」も含まれるのだ。
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【ラインナップ】
豊富な「G」グレードのバリエーションに注目
クラウン クロスオーバーに搭載されるパワートレインは2種類で、ともにハイブリッド4WDとなる。ひとつは、すでに多くのトヨタ車で実績のある2.5リッターエンジンベースの「シリーズパラレルハイブリッド」。もうひとつは、最新の高出力ハイブリッドとなる2.4リッターターボエンジンベースの「デュアルブーストハイブリッド」だ。
売れ筋と見込まれているのは前者のシリーズパラレルで、「X」と「G」という2種のグレードが用意される。後者のデュアルブースト搭載車は、先代クラウンでも上級スポーツグレードと位置づけられていた「RS」を名乗る。そして、グレードによっては「アドバンスト」や「レザーパッケージ」というパッケージのトッピングも可能となっている。
アドバンストは、「デジタルキー」や「ハンズフリーパワートランクリッド」「イージークローザー(ラゲージドア&リアドア)」「おくだけ充電」などの便利装備(Gの場合はさらに「ドライブレコーダー」や「パノラミックビューモニター」なども設定)が追加となる。
レザーパッケージでは、その名のとおりシート表皮が本革になるほか、21インチホイール&タイヤや4眼LEDヘッドランプ、後席から助手席のポジションを操作できるスイッチ、ステアリングヒーターなども含まれる。ただし、RSグレードでは本革シートなどは最初から標準装備なので、レザーパッケージがオプションとして用意されるのはシリーズパラレルのGグレードのみとなる。
【主要諸元】
グレード名 | クロスオーバーX | クロスオーバーG | クロスオーバーG “アドバンスト” |
クロスオーバーG “レザーパッケージ” |
クロスオーバーG “アドバンスト・レザーパッケージ” |
クロスオーバーRS | クロスオーバーRS “アドバンスト” |
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基本情報 | 新車価格 | 435万円 | 475万円 | 510万円 | 540万円 | 570万円 | 605万円 | 640万円 |
駆動方式 | 4WD | 4WD | 4WD | 4WD | 4WD | 4WD | 4WD | |
動力分類 | ハイブリッド | ハイブリッド | ハイブリッド | ハイブリッド | ハイブリッド | ハイブリッド | ハイブリッド | |
トランスミッション | CVT | CVT | CVT | CVT | CVT | 6AT | 6AT | |
乗車定員 | 5名 | 5名 | 5名 | 5名 | 5名 | 5名 | 5名 | |
WLTCモード燃費(km/リッター) | 22.4 | 22.4 | 22.4 | 22.4 | 22.4 | 15.7 | 15.7 | |
最小回転半径 | 5.4m | 5.4m | 5.4m | 5.4m | 5.4m | 5.4m | 5.4m | |
エンジン | 形式 | 直列4気筒DOHC | 直列4気筒DOHC | 直列4気筒DOHC | 直列4気筒DOHC | 直列4気筒DOHC | 直列4気筒DOHC | 直列4気筒DOHC |
排気量 | 2393cc | 2393cc | 2393cc | 2393cc | 2393cc | 2487cc | 2487cc | |
最高出力 (kW[PS]/rpm) | 137[186]/6000 | 137[186]/6000 | 137[186]/6000 | 137[186]/6000 | 137[186]/6000 | 200[272]/6000 | 200[272]/6000 | |
最高トルク (N・m[kgf・m]/rpm) | 221[22.5]/3600-5200 | 221[22.5]/3600-5200 | 221[22.5]/3600-5200 | 221[22.5]/3600-5200 | 221[22.5]/3600-5200 | 460[46.9]/2000-3000 | 460[46.9]/2000-3000 | |
過給機 | なし | なし | なし | なし | なし | ターボチャージャー | ターボチャージャー | |
燃料 | レギュラー | レギュラー | レギュラー | レギュラー | レギュラー | ハイオク | ハイオク | |
フロントモーター | 最高出力 (kW[PS]) | 88[119.6] | 88[119.6] | 88[119.6] | 88[119.6] | 88[119.6] | 61[82.9] | 61[82.9] |
最高トルク (N・m[kgf・m]) | 202[20.6] | 202[20.6] | 202[20.6] | 202[20.6] | 202[20.6] | 61[82.9] | 61[82.9] | |
リアモーター | 最高出力 (kW[PS]) | 40[54.4] | 40[54.4] | 40[54.4] | 40[54.4] | 40[54.4] | 59[80.2] | 59[80.2] |
最高トルク (N・m[kgf・m]) | 121[12.3] | 121[12.3] | 121[12.3] | 121[12.3] | 121[12.3] | 169[17.2] | 169[17.2] | |
寸法・重量 | 全長 | 4930mm | 4930mm | 4930mm | 4930mm | 4930mm | 4930mm | 4930mm |
全幅 | 1840mm | 1840mm | 1840mm | 1840mm | 1840mm | 1840mm | 1840mm | |
全高 | 1540mm | 1540mm | 1540mm | 1540mm | 1540mm | 1540mm | 1540mm | |
ホイールベース | 2850mm | 2850mm | 2850mm | 2850mm | 2850mm | 2850mm | 2850mm | |
車両重量 | 1750kg | 1760kg | 1770kg | 1780kg | 1790kg | 1900kg | 1920kg | |
タイヤ | 前輪サイズ | 225/55R19 | 225/55R19 | 225/55R19 | 195/60R17 | 225/45R21 | 225/45R21 | 225/45R21 |
後輪サイズ | 225/55R19 | 225/55R19 | 225/55R19 | 195/60R17 | 225/45R21 | 225/45R21 | 225/45R21 |
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【パワートレイン/ドライブトレイン】
同じハイブリッドでも性格はまったく違う
前項でも触れたとおり、クラウン クロスオーバーのパワートレインには2種類のハイブリッドが用意され、全車がリアにモーターを配した4WDとなる。
このうち、XとGに搭載される2.5リッターのシリーズパラレルハイブリッドは、最近まで「トヨタハイブリッドシステムII(THS II)」と呼ばれていたもので、すでにトヨタやレクサスで幅広く使われている、おなじみのシステムである。クルマによって微妙にチューニングが異なるが、トヨタでいうと「カムリ」や「ハリアー」「RAV4」、レクサスだと「ES300」に搭載されているものと基本的に同じと考えていい。ただ、リアに40PS、121N・mという比較的高性能なモーターを配する点では、ハリアーやRAV4などのそれに近い。システム出力は234PS。この車格で22.4km/リッター(WLTCモード)という燃費は良好である。
対して、上級グレードのRSに搭載されるのが、パワフルな2.4リッターターボをベースとするデュアルブーストハイブリッドだ。上述のシリーズパラレルより納車開始が少し遅れたことからも分かるように、これが初採用となる新開発のパワーユニットである。
デュアルブーストはハイブリッド部分も既存のシリーズパラレルとは別物。272PSの最高出力を発生する2.4リッターターボエンジンは、最高出力82.9PS、最大トルク292N・mのモーターを内蔵した6段ATを介して前輪を駆動する。対して後輪を駆動するのは、最高出力80.2PS、最大トルク169N・mの水冷モーター。システム出力は2.5リッターシリーズパラレルより100PS以上高い349PS。リアモーターを水冷化したことで、走行中も大きな制限なく後輪を駆動させることが可能となり、これまでのハイブリッドにはないスポーツ4WD的な走りを実現したという。
デュアルブーストのフロントモーターは、純粋な電気走行、エンジンの駆動アシスト、停止時の発電、減速時の回生充電などの役割を担う。デュアルブーストという呼称も、エンジンをターボチャージャーとモーターの2つ=デュアルでブーストするという意味らしい。
とはいえ、ハイブリッド部分はあくまで1モーター方式なので、エンジンで発電しながらモーターで駆動する“シリーズハイブリッド走行”はできない仕組みだ。電動四駆のクラウン クロスオーバーであれば、フロントで発電しながらリアモーター単独で走ることもできそうなものだが、今回はそういう走行パターンは用意されない。そんなデュアルブーストハイブリッドのクラウンの燃費は15.7km/リッター(WLTCモード)となっている。
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【ボディーサイズ/デザイン】
大きくなっても取りまわしのしやすさはそのまま
最終的に4車種が用意される新型クラウンシリーズだが、その第1弾としてクロスオーバーが選ばれたのは、話題性のある新ジャンルであることに加えて、従来のクラウンオーナー(とくに先々代まであった「ロイヤルサルーン」を好むような顧客層)からの乗り換え需要に最適なモデルという判断もあったという。
まずは車体形式だ。リフトアップされた地上高やファストバックスタイルもあって見過ごされがちだが、新型クラウン クロスオーバーの車体そのものは、伝統的な3ボックスセダンの構造を受け継いでいる。
さらにスリーサイズ。新型クロスオーバーは先代クラウンセダン比で全長が20mm、全幅が40mm拡大している。全幅が1.8mを突破したことは日本の交通環境下でデメリットになる面はあるものの、今日におけるこの車格でのフルモデルチェンジとしては、その拡大幅は大きくはない。
1540mmという全高だけは先代比で85mmのアップとなるが、それでも一般的な立体駐車場に入れるサイズは維持。FFレイアウトは基本的にFRより舵角が小さくなるが、後輪操舵を標準装備することで、最小回転半径も5.4mと先代(5.3~5.5m)同等におさめた。つまり、実用シーンにおける使い勝手や取りまわし性はそのままで、しかも新型では、乗降性の向上や室内空間の拡大というメリットを享受できるというわけだ。
「自然体で乗れる新しいクルマのカタチ」、そして「新しさと品格」をテーマとしたエクステリアの造形は、歴代クラウンの具体的なデザインモチーフをほぼ受け継いでいない。キモはこれまでにない大径タイヤで、とくに21インチの足まわりは、可能なかぎり大きく見栄えがするように、ショルダー部が角ばったタイヤをミシュランとダンロップが新開発したそうだ。
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【インテリア/荷室/装備】
大人数でゴルフに行く人はトランクを“要確認”
FFレイアウトベースながら、新型クラウン クロスオーバーはキャビン中央に大きなセンターコンソールを貫通させたタイトなコックピット空間となっている。そこかしこにソフトパッドやレザーを使っており、さすがに質感は高い。また、カッパー風の金属調加飾が随所にインサートされるのも、クラウン クロスオーバーのインテリアの特徴といえる。
ホイールベースは先代比で70mmほど短くなっているが、横置きエンジンのパッケージレイアウトの恩恵で、室内は逆に拡大。前後席のタンデムディスタンスも先代より50mm広くなったという。
しかし、クロスオーバー化による最大の機能的メリットは、乗降性の向上だろう。新型クラウン クロスオーバーのヒップポイントは前席で630mm(先代比+80mm)、後席で610mm(同じく+60mm)。これは一般的な体格の大人なら、従来型セダンのように腰をかがめたり逆に伸び上がったりする必要のない高さで、お尻をそのまま横にずらす感覚で乗り降りできる。また、ドア開口部のサイドシルが最低限の高さまで削られているのも好印象。中高年ユーザーが非常に多いクラウンなので、乗降性の向上は先代や先々代から乗り換えた瞬間に即座に理解できる恩恵として歓迎されそうだ。
トランク容量も、額面的には450リッターと先代より74リッター拡大している。ただし、その内部は奥まった位置では左右から壁が迫るような形状になっており、9.5インチのゴルフバッグはヘッド部分を互い違いにすることで3個積めるというあんばいだ。先代では4個のゴルフバッグを飲み込んでいたので、大人数でゴルフに出かける機会がある場合は要注意。ゴルフをやらないなら、トランク容量は確かに拡大しており、使い勝手も向上している。
今日では必須の装備となったドライブレコーダーも、Xグレード以外なら標準もしくはメーカーオプションで用意されるのはうれしい。前方録画は「トヨタセーフティセンス」用カメラ、後方録画はスマートルームミラー用カメラが担うので、後づけ感が皆無なのも自慢である。
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【バイヤーズガイド】
オススメは「G」グレードのパッケージ盛り
新型クラウン クロスオーバーの本体価格は、2.5リッターシリーズパラレルハイブリッドの2グレード=XとGで400万円台。Gにアドバンストやレザーパッケージといったパッケージを1つ(もしくは2つ)トッピングすると、500万円台となる。さらに、2.4リッターデュアルブーストハイブリッドを搭載する高性能なRSの本体価格は、600万円台である。
実際に乗り比べればRSが圧倒的にパワフルで、可変ダンパーによるハンドリングも俊敏だが、このクルマ本来の“ロイヤルサルーンの新解釈”というコンセプトに忠実なのは、2.5リッターのXやGだろう。市街地での乗り心地やハンドリングは、RSより穏やかで快適。動力性能はRSほどではないが必要十分以上で、22.4km/リッターとカタログ燃費が良好なだけでなく、燃料がレギュラーガソリン(RSはハイオク指定)なのもありがたい。
装備も見ていくと、キック操作だけでトランクリッドが開閉できるハンズフリーパワートランクリッドやドライブレコーダーも装備されて510万円という「G“アドバンスト”」あたりが、内容的に買い得感が高い。ただ、エクステリアデザインのハイライトとなっている大径21インチタイヤは、同じGでも“レザーパッケージ”か“アドバンスト・レザーパッケージ”でないとつかないのが迷いどころだ。純正アクセサリーでも21インチのホイール&タイヤセットは用意されるが、その費用は50万円弱。そうであれば、いっそのこと570万円の「G“アドバンスト・レザーパッケージ”」を選んでしまったほうが、さらに装備も充実して買い得感が高い。
デビュー当初は「G“アドバンスト”」と「G“アドバンスト・レザーパッケージ”」の生産からスタートして、追って「RS“アドバンスト”」、そしてその他のグレードは2023年以降の生産とされ、ここにあげた3グレードの納期が比較的短いとされていた。しかし、実際には予想を上回るオーダーが集まり、生産開始が遅れていたグレードも2023年4月には順次生産が開始されるもようだ。現在ではすべてのグレードが「納期は販売店にお問い合わせください」となっている。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏、郡大二郎、花村英典、トヨタ自動車、webCG/編集=堀田剛資)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。