クルマ好きなら毎日みてる webCG 新車情報・新型情報・カーグラフィック

プジョー・リフター ロングGT(FF/8AT)

野生のミニバン 2023.03.07 試乗記 サトータケシ プジョーのマルチパーパスビークル「リフター」に追加設定された、3列シート7人乗りのロングボディーバージョン「リフター ロング」に試乗。その走りは、標準ボディー車をベースに全長とホイールベースを延ばしただけではない、骨太な魅力も兼ね備えていた。

ロングというよりセミロング

3列シートを備えた乗車定員7名のリフター ロングの日本導入を、今や遅しと待っていた方も多いのではないだろうか。SUV風味のヘビーデューティーなルックスと好ハンドリングで人気を博すリフターであるけれど、ミニバンとしての使い勝手を考えたら、「3列目のシートがあったらドンと背中を押されるのに……」と思うのは当然だ。

そこでついに出ました、リフター ロング。初対面の印象は、ロングというほど長くはない、というもの。2列シートの標準ボディー車との比較で言うと、ホイールベースは190mm長い2975mm、全長はプラス355mmの4760mm。355mmも長くはなっているけれど、例えばトヨタの「ノア/ヴォクシー」の全長は4695mmだから、ロングというよりセミロングぐらいか。1850mmの全幅は標準ボディー車と変わらず、20mm背が高くなって全高は1900mm。全体に、ノアヴォクよりひとまわりほど大きい。

運転席からのインテリアの眺めは、標準ボディー車と変わらない。小径ステアリングホイールの上からメーターパネルを見る、プジョー独自の「i-Cockpit」もそのまま。たとえ全高1900mmの3列シートのミニバンであっても、「ウチのクルマはこうやってスポーティーに運転してもらいます」という明快なメッセージが伝わってくる。そういえば、トヨタの新型「プリウス」もこのスタイルを採用していて、同じようなメッセージを発していたことを思い出す。

標準ボディー車と同じ1.5リッターの直4ディーゼルターボを始動、ダイヤル式のシフトセレクターでDレンジを選んでスタートする。「リフターGT」より50kg重くなったということをまったく感じさせずに、1700kgのライトヘビー級のボディーが力強く発進した。

2023年1月に国内導入が発表された「プジョー・リフター」のロングボディーバージョン「リフター ロング」。上級グレード「GT」をベースに、全長とホイールベースを延ばしたSUVテイストのMPVで、拡大されたキャビンに3列目シートが備わっている。
2023年1月に国内導入が発表された「プジョー・リフター」のロングボディーバージョン「リフター ロング」。上級グレード「GT」をベースに、全長とホイールベースを延ばしたSUVテイストのMPVで、拡大されたキャビンに3列目シートが備わっている。拡大
「リフター ロングGT」のボディーサイズは全長×全幅×全高=4760×1850×1900mm、ホイールベースは2975mm。先に導入された標準ボディー車よりも全長で355mm、全高で20mm、ホイールベースで190mm大きくなっている。
「リフター ロングGT」のボディーサイズは全長×全幅×全高=4760×1850×1900mm、ホイールベースは2975mm。先に導入された標準ボディー車よりも全長で355mm、全高で20mm、ホイールベースで190mm大きくなっている。拡大
搭載されるパワーユニットは標準ボディー車と同一。最高出力130PS/3750rpm、最大トルク300N・m/1750rpmの1.5リッター直4ディーゼルターボエンジンに8段ATが組み合わされる。
搭載されるパワーユニットは標準ボディー車と同一。最高出力130PS/3750rpm、最大トルク300N・m/1750rpmの1.5リッター直4ディーゼルターボエンジンに8段ATが組み合わされる。拡大
インテリアは、2列シートの「リフターGT」と基本的に変わらない。小径ステアリングホイールの上からメーターパネルを見るプジョー独自の「i-Cockpit」もそのまま採用される。
インテリアは、2列シートの「リフターGT」と基本的に変わらない。小径ステアリングホイールの上からメーターパネルを見るプジョー独自の「i-Cockpit」もそのまま採用される。拡大
プジョー リフター の中古車

フラットな姿勢で矢のように走る

市街地を走りだしてまず感じるのは、低回転域でのエンジンの扱いやすさだ。リッチなトルクを提供するだけでなく、ごくわずかなアクセル操作にも敏感に反応するレスポンスのよさが気持ちいい。アイシン製の8段ATとのマッチングも良好で、加速がほしいところでアクセルペダルを踏み込むと、「お待ちしていました」とばかりに、素早く、丁寧にギアを落として対応してくれる。老舗レストランのマネージャー並みに気の利くトランスミッションだ。

もうひとつ、タウンスピードでの乗り心地もいい。ただし、ネコ足と呼ばれるような、ふんわりしなやかな乗り心地とはひと味違う。そこそこのハーシュネスは伝えるけれどビシッと収束させる、淡麗辛口系の乗り心地のよさだ。これは推測であるけれど、大人を7人乗せて荷物も満載して高速道路をかっ飛ばす、というシチュエーションに余裕を持って対応することを想定したセッティングなのだろう。

交通量の多い朝の首都高速を抜けて東関東自動車道に入り、ペースが上がるにつれて、負荷が高い状態のためのセッティングだという思いが強くなる。フラットな姿勢を保ち、矢のように直進する。このフラットな姿勢と直進性の高さは、ロングホイールベース化の恩恵だろう。

高速道路でも1.5リッター直4ディーゼルの力強さと、それをサポートする8段ATの連携は見事。巡航時には粛々とパワーを生み、加速した時にはキックダウンで必要にして十分なパワーで引っ張る。基本的には室内は静かなのに、80km/h付近でドアミラーかAピラーのあたりでなにかが共振しているような高周波のノイズが気になった。その速度域を外すときれいに音は消えたのだけど、あれは何だったのだろう? 残念ながら原因はわからずじまいだった。

「リフター ロング」のボディーカラーは6万0500円の有償色となる写真の「ディープブルー」を含め、「アイシーホワイト」と「ペルラネラブラック」の全3色をラインナップする。
「リフター ロング」のボディーカラーは6万0500円の有償色となる写真の「ディープブルー」を含め、「アイシーホワイト」と「ペルラネラブラック」の全3色をラインナップする。拡大
インテリアの仕立てはファブリックのブラウンツートンで、2列シートの「リフターGT」と同一のものとなる。助手席の背もたれには前方可倒機構が備わり、長尺物の収容にも対応する。
インテリアの仕立てはファブリックのブラウンツートンで、2列シートの「リフターGT」と同一のものとなる。助手席の背もたれには前方可倒機構が備わり、長尺物の収容にも対応する。拡大
2列目シートは3席が独立しており、いずれもワンアクションで折りたたむことができる。折りたたんだシートは床面とほぼフラットに格納される。
2列目シートは3席が独立しており、いずれもワンアクションで折りたたむことができる。折りたたんだシートは床面とほぼフラットに格納される。拡大
3列目シートは左右独立式。130mmの前後スライド機構が備わるほか、個別に取り外しもできる。2列シートの「リフターGT」に標準で装備される天井の半透明フローティングアーチやリアシーリングボックスは、「リフター ロングGT」には設定されていない。
3列目シートは左右独立式。130mmの前後スライド機構が備わるほか、個別に取り外しもできる。2列シートの「リフターGT」に標準で装備される天井の半透明フローティングアーチやリアシーリングボックスは、「リフター ロングGT」には設定されていない。拡大

夢が広がる荷室の余裕

撮影をしながらシートアレンジを試す。3列シートの構成は前から 2/3/2。2人掛けの3列目シートは、スペース的にも、シートのつくりとしても、大人が移動するのに耐え得るもの。ただしこのサイズの3列ミニバンあるあるで、ゆったり7人が座るとたくさんの荷物を積むことは期待できない。

びっくりしたのは、3列目シートの取り外しと装着が容易だったこと。前述したようにしっかりしたシートなので重いは重いけれど、操作自体は簡単で、カチッと外れて、パチンと装着できる。昔のヨーロッパ車でこういうことをやると、指がつったり爪がはがれたりしそうになったけれど、このクルマはそういう心配は不要だ。

こうして3列目シートを外して2列目シートを格納すると、運転席から後方の広大なスペースがほぼフルフラットになる。これは夢が広がる。もちろんキャンプ道具を満載してもいいし、マットレスを敷けば夜明けを待つサーファーや釣り人、スノーボーダーの仮眠所にもなる。これだけ広いと「エアウィーブ」とか「トゥルースリーパー」をフンパツしたくなる。

「リフター ロング」にはプジョーのSUV「3008」や「5008」と同じ「EMP2」プラットフォームが用いられている。手動式となる後部スライドドアやリアゲート開口部の大きさは、基本的に標準ボディー車に準じたものとなっている。
「リフター ロング」にはプジョーのSUV「3008」や「5008」と同じ「EMP2」プラットフォームが用いられている。手動式となる後部スライドドアやリアゲート開口部の大きさは、基本的に標準ボディー車に準じたものとなっている。拡大
3列目シートを使用した場合の荷室容量は約209リッター。3列目シートの背もたれを折りたたみ、前方に跳ね上げて固定することもできる。
3列目シートを使用した場合の荷室容量は約209リッター。3列目シートの背もたれを折りたたみ、前方に跳ね上げて固定することもできる。拡大
3列目シートを取り外した様子。タイヤハウスなどの凹凸がない、スクエアな空間が出現する。シートを取り外したことによってできる穴をふさぐカバーも付属している。
3列目シートを取り外した様子。タイヤハウスなどの凹凸がない、スクエアな空間が出現する。シートを取り外したことによってできる穴をふさぐカバーも付属している。拡大

リフター ロングのライバル車は?

狙ってそうなったわけではないけれど、スケジュールの都合で、このクルマで新型「ルノー・カングー」の試乗会に行くことになった。で、ほぼ同条件で乗り比べて、リフター ロングに3列シートが備わること以外にもわかったことがある。

乗り心地のよさ、静粛性の高さ、パワートレインの滑らかさなどは、やはり新しいぶんだけカングーに軍配が上がる。ひとクラスとは言わないまでも、0.5クラスぐらいカングーが上質だと感じた。

けれどもじゃあリフター ロングの完敗かというと、そうはならないところがクルマのおもしろいところ。リフター ロングのいきいきとしたハンドリングや活発なエンジンをコントロールしていると、元気が湧いてくる。小径のハンドルを操舵すると背高ミニバンボディーがクルッと曲がり、アクセルペダルを踏み込むと小気味よく反応してくれる。野生のミニバン、という印象だ。

もうひとつ、何事があっても大丈夫だと思わせる骨太な魅力もリフターならではのものだ。雪や砂地など、路面状況に応じてトラクションを適切に制御する「アドバンスドグリップコントロール」は、未舗装路に入ったときや突然の降雪でも安心だし、臆することなく行動範囲を広げることができる。こうした機能をフル活用する、アドベンチャーファミリーはすてきだ。

フランス生まれのミニバンということでカングーとリフターは比べられることが多いけれど、意外とキャラはかぶっていなかった。3列シートの利便性と、どこへでも行ける機動力、そしてパワフルな動力性能と絶大な安心感。このクルマのライバルは、世界広しといえども、「三菱デリカD:5」ぐらいだろう。

(文=サトータケシ/写真=花村英典/編集=櫻井健一)

リアゲートにはガラス部分だけが開くリアオープニングガラスハッチが組み込まれている。狭い場所などで荷物を出し入れする際に便利だ。
リアゲートにはガラス部分だけが開くリアオープニングガラスハッチが組み込まれている。狭い場所などで荷物を出し入れする際に便利だ。拡大
3列目シートを取り外し、2列目シートを格納した様子。床面はほぼフラットになる。この状態の荷室容量は約2693リッターで、助手席を最も前方にスライドした状態での最大荷室長は2230mmとなる(欧州計測値)。
3列目シートを取り外し、2列目シートを格納した様子。床面はほぼフラットになる。この状態の荷室容量は約2693リッターで、助手席を最も前方にスライドした状態での最大荷室長は2230mmとなる(欧州計測値)。拡大
トランスミッションはアイシン製の8段ATで、センターコンソールのダイヤル式シフトセレクターでドライブレンジを選択する。シフトパネル左上には路面状況に合わせて5つの走行モードを切り替えることができる「アドバンスドグリップコントロール」のダイヤルが設置される。
トランスミッションはアイシン製の8段ATで、センターコンソールのダイヤル式シフトセレクターでドライブレンジを選択する。シフトパネル左上には路面状況に合わせて5つの走行モードを切り替えることができる「アドバンスドグリップコントロール」のダイヤルが設置される。拡大
「リフター ロング」のサスペンションはフロントがマクファーソンストラット式、リアがトーションビーム式。これは標準ボディー車と同じだが、高速域でのよりフラットな姿勢と直進性の高さにロングホイールベース化の恩恵を感じる。
「リフター ロング」のサスペンションはフロントがマクファーソンストラット式、リアがトーションビーム式。これは標準ボディー車と同じだが、高速域でのよりフラットな姿勢と直進性の高さにロングホイールベース化の恩恵を感じる。拡大

テスト車のデータ

プジョー・リフター ロングGT

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4760×1850×1900mm
ホイールベース:2975mm
車重:1700kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:130PS(96kW)/3750rpm
最大トルク:300N・m(30.6kgf・m)/1750rpm
タイヤ:(前)215/60R17 96Q/(後)215/60R17 96Q(ダンロップ・ウインターマックス03)
燃費:18.1km/リッター(WLTCモード)
価格:455万円/テスト車=491万4485円
オプション装備:ボディーカラー<ディープブルー>(6万0500円)/ナビゲーションシステム(26万6860円)/ETC+取り付けブラケット(1万5125円)/1・2列目フロアマット(1万2870円)/3列目フロアマット(9130円)

テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:1444km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:225.4km
使用燃料:14.5リッター(軽油)
参考燃費:15.5km/リッター(満タン法)/16.1km/リッター(車載燃費計計測値)

プジョー・リフター ロングGT
プジョー・リフター ロングGT拡大
 
プジョー・リフター ロングGT(FF/8AT)【試乗記】の画像拡大
サトータケシ

サトータケシ

ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。

車買取・中古車査定 - 価格.com

メルマガでしか読めないコラムや更新情報、次週の予告などを受け取る。

ご登録いただいた情報は、メールマガジン配信のほか、『webCG』のサービス向上やプロモーション活動などに使い、その他の利用は行いません。

ご登録ありがとうございました。

プジョー リフター の中古車
関連キーワード
関連記事
関連サービス(価格.com)

webCGの最新記事の通知を受け取りませんか?

詳しくはこちら

表示されたお知らせの「許可」または「はい」ボタンを押してください。