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ネットはクルマの買い方・売り方を変えるか? 台頭する自動車販売の電子化とその限界

2023.03.15 デイリーコラム 渡辺 陽一郎

変わらない販売店と変わる販売方法

家電製品などの販売方法は、量販店の台頭もあり、昔に比べると大きく変わった。しかしクルマの流通は、基本的に昔と同じだ。販売店はメーカーごとに系列化され、家電製品で言えば、“街の電気屋さん”の手法が今でも継続している。

クルマの量販店が一般化しない理由は、家電製品と違って定期的な点検や車検があり、ボディーを擦ったりすれば修理の必要も生じるからだ。さらにリコールも実施され、対応に高度な技術を必要とすることもあるため、販売店はメーカー別に専門化されて専用の修理工場を併設する。従ってクルマの流通は変えにくい。量販店でトヨタからスズキまで、全メーカーを扱うわけにはいかないのだ。もし自動運転の時代になった場合、交通事故は必然的に発生しなくなるのだろうが、クルマが高速で移動する以上は入念な点検は省略できない。そのためにはメーカー系列の施設が必要になる。

このように、量販店の在り方は変わらない一方で、販売方法は変わってきた。パソコンの普及で、オンラインによる商談、電子印鑑を使った押印も可能になった。購入の手続きに限れば、すべてをオンラインで済ませることも可能だ。最近はコロナ禍の影響で、過密な状態を避けるオンライン会議が普及しており、クルマの購入商談も同様に行える。

私たちの生活様式の変化により、急速に普及が進んでいるオンライン商談。一方、自動車メーカーは販売網の強化やCIに合わせたショールームのリニューアルなど、依然として販売店を重視する姿勢をとっている。
私たちの生活様式の変化により、急速に普及が進んでいるオンライン商談。一方、自動車メーカーは販売網の強化やCIに合わせたショールームのリニューアルなど、依然として販売店を重視する姿勢をとっている。拡大

それでも販売店がなくならない理由

またインターネットの発達で、販売店に出向かずに購入車種を決めるユーザーが増えた。以前はセールスマンと話をしたり、試乗したりして買うクルマを決めたが、今は試乗動画もある。ネットの口コミや動画で買うクルマを決めるなら、販売店に出かける必要はなく、オンライン契約で済ませられる。「新車を買う時、販売店の訪問は平均2回少々」というデータもある。

そこでトヨタが運営する定額制カーリースの「KINTO」などは、利用の申し込みをオンラインで可能にした。カーリースは販売とは異なるが、今の設備があれば、前述のとおり売買契約をオンラインで行うことも不可能ではない。

しかしKINTOでは、最終的な連絡までオンラインで行いながら、車両はユーザーが販売店まで受け取りに出向くシステムとなっている。スタッフが車両を自宅へ届ければ、ユーザーは販売店に出かける必要が一切なくなり、オンラインで販売が完結する。それなのに最後の納車で、ユーザーが販売店まで出かける旧来の方式を採用しているのだ。

これは、メーカーおよび販売会社と顧客の接点として、依然として販売店が大切な存在であることを示している。契約までは省力化できても、販売店の場所や雰囲気の把握、担当セールスマンとの面会は不可欠だとトヨタも考えているのだ。クルマを所有していると、トラブルを含めさまざまな事柄が発生する。その時にユーザーをサポートするのが販売店とセールスマンになるからだ。

いくら販売のオンライン化が進んでも、その先のカーライフにおいて、オーナーをサポートするのは販売店とそこのスタッフである。写真は「KINTO Unlimited」のハードウエアアップグレードのサービスに応じる、販売店のスタッフ(同サービスは2023年年央の開始を予定している)。
いくら販売のオンライン化が進んでも、その先のカーライフにおいて、オーナーをサポートするのは販売店とそこのスタッフである。写真は「KINTO Unlimited」のハードウエアアップグレードのサービスに応じる、販売店のスタッフ(同サービスは2023年年央の開始を予定している)。拡大

現物がある、現物に触れられることの大切さ

従って、点検や整備を行う修理工場を伴う販売店が、今後消滅することはない。一方で、時間やコストを節約する省力化は図られる。

そうなると、紙に印刷するカタログもコスト低減のために廃止される方向だが、これはユーザーによって受け止め方が異なる。車両の外観を美しく魅力的に見せるには、パソコンやスマートフォンの画面より、印刷された紙のほうが適するからだ。特に、今は半導体をはじめとする各種パーツやユニットの供給不足により、クルマの納期が長引いている。車種によっては1年にも達する。その間に美しいカタログを見てもらい、夢を膨らませてもらう配慮があってもよいだろう。

また洋服も試着して買うのだから、高額商品のクルマなら試乗するのが当然だ。試乗動画で納得できても、実際に自分で運転しないと分からないこともある。ドライバーと車両の相性は、それぞれ異なるからだ。

そうなると、結局のところクルマの売り方は、今後もあまり変わらないのではないか。電気自動車も、簡単に言えばエンジンをモーターに、燃料タンクをリチウムイオン電池に置き換えただけだ。ブレーキ、タイヤ、サスペンションなどはエンジン車と同じで、入念なメンテナンスを必要とする。

クルマは高速で移動する精密機械で、ひとつ間違えば深刻な交通事故を発生させる。メカニズムなどのハードウエアは専門スタッフのチェックが不可欠で、安全確保のために変えようがないのだ。

(文=渡辺陽一郎/写真=トヨタ自動車/編集=堀田剛資)

いざクルマを買うとなったら、ぜひ一度は試乗をするべし。こればかりはオンラインでは不可能だ。
いざクルマを買うとなったら、ぜひ一度は試乗をするべし。こればかりはオンラインでは不可能だ。拡大
渡辺 陽一郎

渡辺 陽一郎

1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年間務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向した。「読者の皆さまにけがを負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人の視点から、問題提起のある執筆を心がけている。特にクルマには、交通事故を発生させる甚大な欠点がある。今はボディーが大きく、後方視界の悪い車種も増えており、必ずしも安全性が向上したとは限らない。常にメーカーや行政と対峙(たいじ)する心を忘れず、お客さまの不利益になることは、迅速かつ正確に報道せねばならない。 従って執筆の対象も、試乗記をはじめとする車両の紹介、メカニズムや装備の解説、価格やグレード構成、買い得な車種やグレードの見分け方、リセールバリュー、値引き、保険、税金、取り締まりなど、カーライフに関する全般の事柄に及ぶ。クルマ好きの視点から、ヒストリー関連の執筆も手がけている。

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