ミニバンに大型サンルーフが設定されないのはなぜ?
2023.04.11 あの多田哲哉のクルマQ&A「パノラマルーフ」などと呼ばれる大型のサンルーフは、国産・輸入車を問わずさまざまなクルマに設定されるようになった印象ですが、なぜかミニバンではほとんどみられません。ルーフの面積が大きく、後席での開放感も重要と思われる車種なのに、なぜ積極的に設定されないのでしょう?
これはもう、理由は単純。重たいものが上にあるとロールオーバーの危険があるからですね。転倒防止の観点から、なかなか設定されず、普及しないわけです。
私自身、開発にたずさわった「トヨタ86」では、重心を1mmでも下げたいという考えがあったので、サンルーフを望む声も耳にはしていたものの「絶対に用意しない」と決めていました。
でも、ミニバンユーザーに大きなサンルーフに対するニーズがあるのはわかります。その期待にどう応えるかという技術も、実は進歩しています。
いまやVSC(ビークルスタビリティーコントロール)のような装備は標準になって、クルマが転倒するリスクは下がっていますね。そして、重いサンルーフの材質は、従来のガラスより軽量な樹脂ガラスに変わってきています。つまり、ミニバンにサンルーフが付く時代はもう目の前。少し待っていれば、どのミニバンを選んでもサンルーフが選べるというようになるでしょう。
サンルーフに限らず、将来的には、フロントガラス以外のクルマのガラスはどんどん樹脂化していくと思います。いずれはフロントガラスも、かもしれません。まだ衝突時の安全性や遮音ではガラスに分があるものの、なんといっても樹脂は軽いですから。(車重のかさむ)電気自動車の時代に移行するにあたって、少しでも車重を軽くしたいという考えも、その流れを後押しするでしょう。

多田 哲哉
1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。