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SUV全盛のいま、特に“そのSUV”が売れるのはなぜか?

2023.04.17 デイリーコラム 玉川 ニコ

モテるからにはワケがある!?

国産・輸入車を問わず、いま最もポピュラーな車形はSUVである。では、なかでも商業的な“勝ち組”といえるのはどのモデルなのだろうか?

まずは2022年1月~12月のSUVカテゴリーにおける販売トップ5をリストアップしてみよう。

  • 1位:トヨタ・ライズ/8万3620台
  • 2位:トヨタ・ヤリス クロス/8万2680台
  • 3位:トヨタ・カローラ クロス/5万9070台
  • 4位:ホンダ・ヴェゼル/5万0736台
  • 5位:トヨタ・ハリアー/3万4182台

(※数値はいずれも登録台数。「ヤリス クロス」「カローラ クロス」の値はトヨタ自動車、それ以外は日本自動車販売協会連合会<自販連>による統計データ)

……このデータだけでは、「売れるSUVの条件」というのは、いまひとつ見えてこない。いや「トヨタだから売れている」「安いから売れてる」など身もふたもない答えは出せるわけだが、それではあまりにもアレというものであろう。

では逆に「SUV全盛の世にもかかわらず、あまり売れていない国産SUV」のランキングも見てみることで、何かがわかるのではないか?

  • ワースト1位:三菱エクリプス クロス/7693台
  • ワースト2位:マツダCX-3/8409台
  • ワースト3位:トヨタC-HR/1万1811台

(※いずれも自販連の登録台数データ)

……なんとなく“答え”は見えてきたような気がする。だが念のため、もうひとつのデータも見てみることにしよう。絶対数は少なめだが、「輸入SUVの2022年1月~12月における販売台数トップ3」である。

  • 1位:フォルクスワーゲンTクロス/6570台
  • 2位:ボルボXC40/5866台
  • 3位:フォルクスワーゲンTロック/5123台

……なるほど、やはり。3種類のデータから見えてきた「売れるSUVの条件」とは、おおむね以下のとおりであろう。

売れるSUV=(なんかいい感じの雰囲気+実用性も高そうなカタチ+低燃費なイメージ)×価格の手ごろさ

……あまりにも当たり前すぎる結論で大変恐縮ではあるが、下町のデータサイエンティストとして(?)近年の販売台数データを分析する限りでは、こう結論づけるほかないのだ。

2022年は8万3620台と、SUVのなかでは圧倒的なセールスを記録した「トヨタ・ライズ」。ちなみにダイハツの兄弟車「ロッキー」は2万2223台だった。
2022年は8万3620台と、SUVのなかでは圧倒的なセールスを記録した「トヨタ・ライズ」。ちなみにダイハツの兄弟車「ロッキー」は2万2223台だった。拡大
「トヨタ・ヤリス クロス」も2022年は8万3000台ほどと大人気。「ヤリス」シリーズ全体の半数(49%)を占めていた。
「トヨタ・ヤリス クロス」も2022年は8万3000台ほどと大人気。「ヤリス」シリーズ全体の半数(49%)を占めていた。拡大
SUVの販売ランキングでは、3位までがトヨタ車と、その強さが際立つ。「カローラ クロス」(写真)は、200万円を切るスタート価格も集客要素のひとつに違いない。
SUVの販売ランキングでは、3位までがトヨタ車と、その強さが際立つ。「カローラ クロス」(写真)は、200万円を切るスタート価格も集客要素のひとつに違いない。拡大
トヨタ勢の牙城に食い込んだのが「ホンダ・ヴェゼル」。2021年4月のフルモデルチェンジでスタイリッシュなSUVに生まれ変わった。
トヨタ勢の牙城に食い込んだのが「ホンダ・ヴェゼル」。2021年4月のフルモデルチェンジでスタイリッシュなSUVに生まれ変わった。拡大
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決め手はスペックだけではない

前述の公式(?)の「なんかいい感じの雰囲気」を【雰】、「実用性も高そうなカタチ」を【実】、低燃費なイメージを【燃】、「価格の手ごろさ」を【安】とするならば、売れてるSUV・売れてないSUVの、それぞれの内訳は下記のとおりとなる。

まずバカ売れしている上位3傑(ライズ、ヤリス クロス、カローラ クロス)は、【雰】においてミドルクラス以上のSUVと比べれば劣っているものの、それぞれのベースモデルと比べれば【雰】もまずまずであり、【実】も、四角いカタチゆえに高そうに見える。そしてハイブリッド車の【燃】は抜群で、【安】については言わずもがな。つまり若干劣る【雰】を補って余りあるだけの【実】【燃】【安】があるゆえに、バカ売れしているのだ。

トヨタ・ヤリス クロスとおおむね似たようなボディーサイズである「マツダCX-3」が、2022年中はヤリス クロスの1割以下となる8409台しか売れなかった理由は、「登場年次が古いから」「トヨタとマツダでは販売力が違うから」というのも当然ある。だがライズがデビュー3年目の2022年に8万台以上を売ったのに対し、CX-3は3年目の2017年に1万3108台しか売れなかったという事実は、販売力の差だけで説明できるものでもあるまい。

要するにCX-3は【実】と【燃】の領域において弱かったのだ。【雰】はなかなかしゃれているのだが、その反作用として【実】がなんとなく低そうに見える。実際はボディーサイズも室内寸法もヤリス クロスと似たようなものなのだが。そしてそれに加えて「ハイブリッドじゃない」ということで、【燃】も相対的に「良くないのではないか?」とイメージされてしまったのだ。

実際の「CX-3 XD」のWLTCモード燃費は、「ヤリス クロス ハイブリッド」のそれと大差があるわけでもないのだが、世の中というのは“事実”よりも“イメージ”がモノを言う。「ハイブリッド=なんかものすごく燃費がいいらしい」というお茶の間のイメージに、ディーゼルターボエンジンは歯が立たないのである。

「マツダCX-3」の販売が振るわないのは、「古いから」とも言い切れないものがある。実力はそのままに「デキる」イメージをもっと与えられたなら、状況はずいぶん違ってくるのではないか。
「マツダCX-3」の販売が振るわないのは、「古いから」とも言い切れないものがある。実力はそのままに「デキる」イメージをもっと与えられたなら、状況はずいぶん違ってくるのではないか。拡大

結局は「イメージの総合力」

バカ売れ中の上位3傑に続いてよく売れた「ホンダ・ヴェゼル」も、【雰】【実】【燃】のイメージにおいて優れるSUVだ。いや流麗系なフォルムゆえ【実】はちょっと弱いかもしれないが、【雰】と【燃】のイメージは非常に高い。そして比較的【安】でもある。

ヴェゼルとは少し異なるものの、おおむね似たようなボディーサイズである「三菱エクリプス クロス」は思いっきり下位に沈んでいるが、「SUVとしての実力」だけで考えるなら、ヴェゼルよりもエクリプス クロスのほうが上なのでは? と個人的には思っている。

だが「SUVとしての実力」なんてものは、一般的なセールスにおいては、アイドル歌手の歌唱力と同様に「本質的な問題」とは認識されにくいものだ。

そのため、「おしゃれなライフスタイル」と「抜群の燃費性能」みたいな部分を打ち出せていない(または打ち出していない)三菱エクリプス クロスは、2022年だけでなくデビューイヤーの2018年からずっと、販売台数としては低迷を続けているのである。

結局のところ、「なんかおしゃれで(=それを買えばすてきな毎日が始まりそうな予感がして)」「でも実用性もそれなりに高そうで」「燃費が良くて」「そんなに高くはない」というのが、いま売れるSUVの条件なのだ――と、販売にかかわる数字からは答えるほかない。

もしも「良いSUVの条件とは?」という設問であったなら、答えはまったく別モノになったはずだが、それはまたの機会に。

(文=玉川ニコ/写真=トヨタ自動車、本田技研工業、マツダ、三菱自動車/編集=関 顕也)

セールス的にはいまひとつな、三菱のSUV「エクリプス クロス」。SUVとしての実力は、なかなかのものとは思うが……。
セールス的にはいまひとつな、三菱のSUV「エクリプス クロス」。SUVとしての実力は、なかなかのものとは思うが……。拡大
玉川 ニコ

玉川 ニコ

自動車ライター。外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、自動車出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。愛車は「スバル・レヴォーグSTI Sport EX」。

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