BMW 218iアクティブツアラーMスポーツ(FF/7AT)
近未来が詰まってる 2023.04.24 試乗記 最高出力156PSの1.5リッター直3ガソリンターボを搭載する、BMWのコンパクトハッチ「218iアクティブツアラーMスポーツ」。試乗したリポーターは、FF車のエントリーモデルながらBMWらしい伝統の味わいを感じると評価した。その理由とは?ド真ん中にして正統
昔ながらのクルマ好きにとってのBMWらしいBMWといえば、かつての「ノイエクラッセ」からの伝統を受け継ぐ「3シリーズ」か、あるいはそれを高性能化した「M3」か。そうでなければ“世界一美しいクーペ”と評された「6シリーズ」の系譜を継ぐラグジュアリークーペかもしれないし、イタリアとドイツを融合した「M1」を想起するエンスージアストもおられよう。いずれにしても、いかにも低くて鍛え抜かれた古典的で美しいハンサムカーだ。
しかし、今のBMWはそうした伝統的BMW像から、意図的に遠ざかりつつある。たとえば、BMWの近未来像を示すべき電気自動車の「iX」は背高クロスオーバーハイトワゴンだし、謹製スポーツブランドの今後を示唆する(M1以来47年ぶりの!)M専用モデルの「XM」もいわゆるSUVだ。そして、フラッグシップの「7シリーズ」はモデルチェンジごとに大型化と巨顔化(?)が止まらない。
この2シリーズ アクティブツアラーなどは冒頭の古典派エンスージアストの皆さんにとっては「もっともBMWらしくないBMW」かもしれない。しかし、実際には先代モデルは8年間で43万台を売り上げて、全体の8割が初めてのBMWとして購入した顧客だった……という事実を知れば、これを「らしくない」などといっている場合では、もはやない。それどころか、iXやXMが新しいBMWのメインストリームだとすれば、アクティブツアラーこそがド真ん中にして正統なエントリーモデルと捉えるべきだろう。
インテリアに目を移しても、水平基調のダッシュボードに突き刺さる「カーブドディスプレイ」をはじめ、アイランド型のシフトコンソールや薄型エアコンアウトレット、パンチングメタルのスピーカーネット……といったディテール群は、iX以降の新世代インテリアデザインそのものだ。同じ2シリーズでも、「グランクーペ」や「クーペ」のそれはいかにも古典的というほかない。
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「エクスクルーシブ」と「Mスポーツ」は正反対
そんな新型アクティブツアラーの日本仕様には、現在「エクスクルーシブ」と「Mスポーツ」という2グレードが用意される。エンジンは2リッター直4ディーゼルターボと1.5リッター直3ガソリンターボの2種類。どちらのエンジン搭載車にも前記2グレードがあるので、選択肢は都合4種類ということになる。
ちなみに、エクスクルーシブとMスポーツは同じパワートレインなら本体価格も同じで、どちらが上級というヒエラルキーはない。ただし、ご想像のとおり、前者が落ち着いたラグジュアリー志向、後者がスポーツ志向というキャラクターに分けられている。
新型アクティブツアラーについては、以前もwebCGで試乗記を書かせていただいており、そのとき試乗したのはディーゼルのエクスクルーシブだった。対して、今回の試乗車はエンジンもグレードも前回とは正反対(?)の内容ということである。
というわけで、このガソリンMスポーツのアクティブツアラーで走りだした瞬間、驚いた。まったくもって意外なことに、前回より乗り心地が明らかに快適だったからだ。先に乗ったエクスクルーシブがどちらかというパリッと引き締まったスポーツハッチ的な味わいだったのに、今回のMスポーツはしなやかで、細かい凹凸の吸収力でも上回る。
つまり、エクスクルーシブとMスポーツという2つのグレード名から一般的にイメージされる乗り心地と、実際のそれは正反対なのだ。もっとも、前回のディーゼルに対して今回のガソリンは車検証上の重量で70kg軽い。乗り心地のちがいもその車重のせいか……とも思ったが、両車の仕様内容を観察していくと、どうやらそうではないようだ。
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オーバーブーストでパワーを上乗せ
タイヤはエクスクルーシブとMスポーツで同サイズの17インチ。前回も含めた試乗車を見るかぎり、タイヤ銘柄もまったく共通である。ただ、サスペンションの仕様内容は異なっていて、エクスクルーシブは固定減衰ダンパーなのに対して、Mスポーツには「アダプティブMサスペンション」、すなわち電子制御可変ダンパーが標準装備される。
Mスポーツの乗り心地の秘密はこれだろう。そこに組み合わせられるコイルスプリングレートなど詳細情報は入手できなかったが、同じクルマに同じタイヤを履くのだから、大きく異なるとは考えにくい。実際、Mスポーツのバネがことさらハードな印象はない。
低速域でのアシさばきも、可変ダンパーをもつMスポーツのほうが明らかに柔らかい。それでいて、速度が上がってもロールが目立って大きくならないのは、可変ダンパーならではの美点だろう。
Mスポーツはしなやかだが、安定して正確。速度を問わず姿勢変化や上下動が少なく、いかなる評価基準をもってしてもエクスクルーシブより快適というほかない。逆にいうと、乗り心地が少しばかり硬めでも、パリッと俊敏なハンドリングを所望するマニア筋はエクスクルーシブのほうを好むかもしれない。
このアダプティブMサスペンションに加えて、Mスポーツ特有の機能装備がもうひとつある。シフトパドルだ。アクティブツアラーのシフトパドルは普通のマニュアル変速を可能とするほかに、ダウン側のパドルを長引きすると「スポーツブースト」なる機能が起動して、アクセル開度85度以上で最大10秒間のオーバーブーストがかかり、パワーが上乗せされるという。実際には高速道での合流や、郊外路での速やかな追い越しなどを想定した機能である。日本の交通環境ではさほど意味がなさそうだが、速度の高いドイツのアウトバーンなどでは役立つのかもしれない。
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モード設定がこれまでとはちがう
今回の試乗車がガソリンだったことも、前回よりあからさまに快適な理由のひとつかもしれない。新型アクティブツアラーのガソリンエンジンは3気筒ということもあり、車検証の前軸重でもディーゼルより50kg軽く、それは実際に運転感覚においてもわりあい明確に体感できる。
また、BMWの1.5リッターはアイドリング振動こそ強めだが、回転の上昇につれて目に見えて滑らかになる。高回転域の生音はビーンという3気筒特有のものでも、シフトパネルにある「MY MODE(マイモード)」で「スポーツ」を選ぶと、疑似エンジン音によって3気筒らしからぬ快音に変わる。アクティブツアラーのガソリンはハンドリングだけでなく、パワートレイン自体も軽やかなのだ。こうして、乗り味だけでいえばガソリンのほうが好印象だが、燃費経済性ならやはりディーゼルに軍配で、実際に購入するとなると、なかなか悩ましいことになりそうだ。
マイモードはかつてのドライブモードとは一線を画すもので、iXや「i7」にも同様のもの(より複雑・高度だが)が搭載されている。そこに用意されるモードは従来の「エコ」や「コンフォート」ではなく、「パーソナル」「エフィシェンシー」「エクスプレッシブ」「リラックス」といった耳慣れないものだ。モードごとにパワステやパワトレのほか、ACC制御やエアコン、画面表示に間接照明、さらに疑似エンジン音などが異なり、“空気感”みたいなものも含めてクルマの味わいを変える。
先述のように「スポーツ」というモードもあるが、パワステやアクセルの反応が良くなり、エンジン音も変わるのに、可変ダンパーの制御は変わらず俊敏性や乗り心地はそのままなのだ。同じスポーツモードでも、その解釈もこれまでとはちょっとちがう。
これも新しいBMW像ということか。新型アクティブツアラーは、現在もっとも手ごろで便利なBMWであると同時に、そこにはBMWの近未来も詰まっている!?
(文=佐野弘宗/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
BMW 218iアクティブツアラーMスポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4385×1825×1565mm
ホイールベース:2670mm
車重:1530kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:156PS(115kW)/5000rpm
最大トルク:230N・m(23.5kgf・m)/1500-4600rpm
タイヤ:(前)205/60R17 97W/(後)205/60R17 97W(ハンコック・ヴェンタス プライム3)
燃費:14.1km/リッター(WLTCモード)
価格:447万円/テスト車:549万円
オプション装備:ボディーカラー<ストームベイ>(16万円)/ヴァーネスカレザー<オイスター/ブラック>(0円)/テクノロジーパッケージ(41万円)/ハイラインパッケージ(27万9000円)/電動パノラマガラスサンルーフ(17万1000円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:2114km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(6)/山岳路(3)
テスト距離:514.5km
使用燃料:36.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:14.2km/リッター(満タン法)/13.1km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。