UDトラックス・クオンGW(4WD/12AT)
そのパワーには訳がある 2023.05.01 試乗記 UDトラックスから新型トラクター(トレーラーヘッド)「クオンGW」が登場。UDといすゞの記念すべき共同開発第1号車に課せられた使命とは? 圧倒的なパワーとハイテクが与えられた理由は? 物流の未来を担う、重要なニューモデルの走りを報告する。トラクターでは国内シェアNo.1
最高出力530PS、最大トルク2601N・mのディーゼルターボエンジンを搭載し、60t超の連結車両総重量(GCW)を誇る大型トラクター。読者諸兄姉の皆さまは、これを聞いてどんな運転感覚のクルマを想像するだろう? 今回のリポートは、メーカーが「国内でトップのパワー」と豪語する大型トラクターを取材したら、実車の印象も、誕生に至るいきさつも、想像とはずいぶん違っていた、というお話である。
あらためまして、皆さんはUDトラックスというメーカーをご存じだろうか? 「知っている」という方は恐らくトラック通か、物流あるいはトラックかいわいの業界関係者だろう。そして「知らない」という人も、実は結構な頻度でUD印のトラックを見かけているはずだ。
UDトラックスとは、1935年創業の日本の商用車メーカーである。記者より年上の方には、旧名の日産ディーゼルのほうが通りがいいかもしれない。来歴はいささかフクザツで、21世紀に入ってからも日産→ボルボ→いすゞと企業グループの間を流転。ボルボ傘下の2010年に、今日のUDトラックスへと社名を改めている。かねてマーケットで親しまれていたブランド名を社名とした格好で、“UD”とは「Ultimate Dependability(究極の信頼)」の意だそうだ(最初の由来は違ったそうです。詳しくは写真キャプションをどうぞ)。得意商品は伝統的に、タフでパワフルな大型トラック。特にトラクターについては、今も国内シェアNo.1を誇る。
今回取材した新しいクオンのトラクターは、そんなUDトラックスのど真ん中の商品といえる。坂道も重量物もどんとこいの強力なエンジンを擁し、また同社のトラクターとしては、実に13年ぶりに“6×4”(前1軸・後ろ2軸の2軸駆動)の「GW」が用意されたことも話題となっている。
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キーワードは“パワー”と“ハイテク”
……裏読みが得意な読者の方は、ここで「ん?」と思うことだろう。国内のトラクター市場でNo.1のメーカーが、なぜ13年もの間、6×4をラインナップしてこなかったのか? その理由を複数の関係者に尋ねたところ、おおむね「市場からの要望は多かったが、商品戦略の都合で……」という趣旨の回答が返ってきた。絶妙に明言を避けた格好だが、要するにボルボが自社製品とのバッティングを嫌がったのだろう。その親会社も2021年にいすゞに代わり、同社との共同開発第1号車として、晴れて6×4を擁するトラクターを上市できたというわけだ(参照)。双子の関係にあるクオンと「いすゞ・ギガ」のトラクターは、プロダクトにおける2社協業の象徴でもあるのだ。
そんなわけで、いろんな意味でただのニューモデルという以上の存在感を示している新型クオンGW。製品面でのその特徴を端的に言うと、冒頭で述べたハイパワーと、満載されたハイテクである。エンジンは排気量12.8リッターの直列6気筒ディーゼルターボ「GH13」で、最高出力470PS(GH13TA)と同490PS(GH13TB)、そして530PS(GH13TC)の3種類の仕様を用意。先述のとおり、530PS仕様は日本メーカーの国内向けトラクターではトップのアウトプットを誇り、連結車両総重量は62.2t、58km/hのNR(速度制限装置)付き車両では86.0tを実現している。
一方のハイテクに関しては、まずはより滑らかで素早い変速レスポンスを実現した、12段の電子制御式オートマチックトランスミッション「ESCOT(エスコット)-VII」を搭載。電動モーターによってステアリング操作を支援する、アクティブステアリングも標準装備される。全仕様にエアサスペンションが設定されるのもこのクルマの特徴で、特に第5軸荷重16tおよび18tクラスへのエアサスの採用は、国内ではこれが初となる。ブレーキも強力で、すべての車輪に放熱性に優れるディスクブレーキを装備。また多くの仕様に、3250N・mものブレーキトルクを発生する大容量流体式リターダーを用意している。
なんともはや。普段乗用車を相手にしている身からしたら、どこを取っても規格外だ。大型免許やけん引免許はもちろん、第2種の普通免許すら持っていない記者は、「こんなんインプレできるかしら?」と戸惑いながらキャビンによじ登った。
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いうなれば無憂無風のドライブフィール
同乗スタッフの「それでは出発です」の声に従い、シフトセレクターをDレンジに入れ、電気式の、なんの手ごたえもないパーキングレバーを下ろす。UDトラックスの自動トランスミッションにクリープはない。ブレーキから足を離し、恐る恐るアクセルを踏み込むと、クオンGWは「ゴゴ~」とエンジン音を高めてゆったり発進した。
カチカチに身構えていた記者は、拍子抜けした。荷物を連結した大型トラクターって、こんなにアッサリ走りだすものなの? 説明では「今日は20tの重りを積んだトレーラーを引っ張ってもらいます」とのことだったが、想像していたショックの類いも、後ろに引っ張られる感覚も、息苦しいエンジンのいななきもない。思わず「トレーラー置いてきちゃった?」と思ってサイドミラーをチラ見したほどだ。そうこうしているうちに、クルマはアクティブステアの利きを体験する片輪波状道へ。「ハンドルがガタつかないでしょう?」と語る同乗スタッフに「ソウデスネ~」と答えながらも、記者はキツネにつままれた気分だった。
国内最強パワーの大型トラクターなんていうものだから、こちとら恐竜のようなドライブフィールを想像していたのだ。さぞや盛大にごう音をまき散らし、ぶるんぶるるんと身もだえしながら走るものと思っていた。しかし、現実はあまりにあっけない。
変速にまつわる操作も、トランスミッションは全自動なのですべてクルマ任せ。ロボタイズドMTのエスコットは走りだし一発目の変速こそ失速感を覚えたものの、その後のシフトアップはスムーズそのものだ。くだんのアクティブステアも、緻密なセンサーとモーター制御で完全に外乱をシャットアウトしている。車速に応じて重さが変わるのにも確かに感心したが、記者はそれ以上に、その泰然自若っぷりに大いに驚かされた。
端的に言って、全方位的にドライブフィールが薄くて穏やかなのだ。路面からの入力をとことん丸めるサスペンション付きシートもあって、何重もの分厚いオブラートの中で運転している気分になる。エンジンにしても、底知れない膂力(りょりょく)に迫力こそ感じるものの、アクセルを踏み込んでも気分が上がるような演出はナシ。操舵も基本的にデッドフィールで、まさに運転“作業”である。
冷静に考えたら、そりゃそうだろう。仕事のクルマにエンタメなんてあったって疲れるだけだ。頼りがい以外のフィーリングは不要! この無憂無風っぷりこそが、延々とハンドルを握り続けるトラックドライバーの求める性能なのだろう。
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強烈なブレーキトルクがありがたい
舗装路での試乗を終え、取材陣一行はアップダウンのあるダートコースへ。巨大な工事現場や採掘現場などに見られる、未舗装路での走りを体験してもらおうというわけだ。クルマは先ほどと同じ530PS仕様のエアサス車だが、今度はトレーラーは無し。トラクターのみでの走行である。
ここでも、コースにはまず波状路が用意されていたのだが、やはりステアリングは太平にして安楽。同時に、ぼよんぼよよんと動くバネ付きシートが面白かった。……いや、面白いなんて言っちゃいけませんね。このシートとエアサスペンションがなければ、乗り心地は相当ワイルドなものになっていただろうから。
次いでクルマは、ちょっと急な登坂路へアプローチ。最初は2軸の車輪などが空転して立ち往生するが、全車装備のデフロックを作動させると、それまでの苦闘がうそみたいにアッサリ坂を上ってみせた。なるほど不整地で助かりそうな装備だが、こちとらボタンをポチっと押すだけなので、SUVでコースを踏破するような達成感はない。クオンの運転は一事が万事こんな感じで、大層なことをしているときにも、なにごとも印象に残らないのがむしろ印象的……という(ややこしい)、なんとも不思議な体験だった。
そんななか、唯一強く記憶に残ったのが補助ブレーキの強烈さだ。これはブレーキトルク1495N・mのエンジンブレーキと先述の流体式リターダーを協調制御するもので、ステアリングコラムの左レバーで強弱を調整する。で、制動力を最強にすると、某電動車のワンペダルドライブばりに制動がかかるのだ。開発メンバーいわく、「流体式リターダーのないクルマでは41回もブレーキを踏んだ碓氷バイパスの下りで、リターダー付きのクオンは5回しかブレーキを踏まなかった」というから恐れ入る。
今回の試乗で発見したことなのだが、重量物をけん引するトラクターを運転していると、ブレーキを踏むという行為はそれだけでもしんどい。精神的負担になる。物理的にも、連続してのブレーキングはフェードを招く恐れがあるし、ブレーキパーツの摩耗を思えばシクシク胃も痛むだろう。記者のような素人が短時間のクローズド走行でも感じたのだから、プロドライバーの心労はいかばかりか。クオンGWに装備されるような補助ブレーキの存在は、本当にありがたいものなのだろう。
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日本の物流の未来がかかっている
以上が、記者が新型クオンGWの試乗で感じたインプレッションである。運転前にはどんなにたけだけしいヤツかと思っていたが、その実は全然違い、広大な手のひらを持つおしゃかさまのようなクルマだった。その懐の深さたるや、該当する免許も持たない記者ですら「これなら自分にも運転できるかも」と思ったほどだ。そして恐らくは、それこそが同車を開発したUDトラックス(といすゞ)の狙いなのだろう。
以前にコラムで紹介したとおり(参照)、今、日本の物流業界はいささか危機的な状況にある。ドライバーの過酷な労働環境と、新規就労者の減少により、重度の担い手不足に陥っているのだ。そこに折あしく「2024年問題」が重なり、このままいくと「2030年には日本全国で約35%の荷物が運べなくなる」という試算まで出ている。
UDトラックスによると、新型クオンGWは、そうした課題の解決に寄与すべく開発されたクルマだという。530PSのハイパワーは、一度に運べる荷物の量を増やすため。快適さと運転のしやすさは、ドライバーの負担を減らし、就労のハードルを下げて担い手を増やすためというわけだ。マッチョなエンジンと豪華装備で、トラック界の“ダンナ仕様”を狙ったクルマではないのである。
正直なところ、ずぶの素人で門外漢の記者には、このクルマがホントに諸問題の解決に寄与するものなのかは分からない。実感がない。ただ、晴れの新車発表会&試乗会で、わざわざ憂鬱(ゆううつ)な2024年問題のトークセッションを開いたUDトラックスの憂慮は、さすがにただのポーズではないだろう。……物流で禄(ろく)を食(は)む当事者なんだから、当たり前か。
ドライバーの待遇改善に、人手不足の解消、加えて環境負荷の低減と、取り組むべき問題が山積みとなっている日本の物流業界。その克服にプロダクトの側から臨むメーカーの取り組みを、畑違いのメディアだけど応援したいと思う。
(文=webCGほった<webCG”Happy”Hotta>/写真=webCGほった<webCG”Happy”Hotta>、UDトラックス/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
UDトラックス・クオンGW
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=6915×2490×2975mm
ホイールベース:4520mm(3150+1370mm)
車重:9070kg(第5輪荷重18t車)
駆動方式:4WD
エンジン:12.8リッター直6 SOHC 24バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:12段AT
最高出力:530PS(390kW)/1431-1700rpm
最大トルク:2601N・m(265.2kgf・m)/990-1431rpm
タイヤ:(第1軸)295/80R22.5 153/150J/(第2軸)295/80R22.5 153/150J/(第3軸)295/80R22.5 153/150J(ブリヂストンV-STEEL MIX M888)
燃費:(アイドリングストップ付き)2.38km/リッター/(アイドリングストップ無し)2.34km/リッター(JH25モード)
価格:2726万9000円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:357km
テスト形態:トラックインプレッション/オフロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター
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堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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