トラックドライバーの疲弊が物流業界の崩壊を招く!? 日本を襲う「2024年問題」の衝撃
2023.04.14 デイリーコラムドライバーを救う法規制が、物流業界を破壊する?
仕事柄、工場の見学やら難しい事業関連の取材会・勉強会やらに参加する機会も多い記者だが、ここ最近、そうした取材でちょっと不安を覚えることがある。何についてかというと、このかいわいにおける人的資源の先細りについてだ。
大手自動車メーカーの完成車工場ですら、話を聞けば「募集しても人が集まらない」と青色吐息。各社が必死に設備のオートメーション化を進めているのは、生産の精度向上と高効率化に加え、「減少するマンパワーを機械で補うため」「高負荷労働を減らさないと、女性やセカンドキャリア層を工場に迎えられないから」という、切実な理由もあるのだ(参照)。これが日本のみならず、世界中で起きている課題なのは、救いなのか災いなのか。いずれにせよ、人的資源の確保とそのための雇用環境改善は、持続可能性に直結する産業界の大問題だと思う。そしてそれは、製造の分野だけでなく物流の分野でも言えることなのだろう。
去る2023年4月4日、記者は茨城某所にてUDトラックスの新型車「クオンGW 6×4トラクター」の発表会を取材したのだが、そこで「2024年問題」について考えるトークセッションが併催された。ここで言う2024年問題とは、いわゆる「働き方改革関連法」の施行がもたらす、物流業界の諸問題のことだ。
ご存じの方もおられるだろうが、2024年4月1日から「自動車運転業務における時間外労働時間の上限規制」が適用され、トラックドライバーの時間外労働は年間960時間に制限される。狙いはもちろん、ドライバーの待遇改善なわけだが、これがいい話ばかりではない。トークセッションに参加したNX総合研究所の大島弘明氏によると、この規制が施行されると、世の需要に対して約14%もトラックの輸送能力が不足するというのだ。また輸送コストの上昇が予想される荷主側はもちろんだが、実はトラックドライバーの間でも、多くの人がこの規制をネガティブに考えているという。
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一刻の猶予もないドライバーの待遇改善
自身の待遇改善のために策定された規制に対し、トラックドライバーは何を不満&不安に思っているのか? ジャーナリストで元トラックドライバーの橋本愛喜氏によると、皆が恐れているのは、労働時間の制限に伴う収入の減少だ。橋本氏のもとには副業に関する相談が多数寄せられており、その多くが運転代行、あるいは某フードデリバリーの“配送パートナー”を考えているという。労働環境改善のための法規制がこのような事態をもたらすとしたら、それはまさに本末転倒だろう。
とはいえ、この規制が今の時代に必要なものであることも論をまたない。UDトラックスの調査によると、新規就労者の不足もあって、過去5年で業務量が増えたというドライバーは約4割にものぼるという。ただでさえ長時間労働が問題視されてきたトラック業界、どこかで歯止めが必要だったのは間違いない。問題の解決には、業界の輸送能力を保ちつつドライバーの長時間労働を防ぐ必要があるわけで、要するに高効率化が必須となる。ここで解消すべき悪弊の筆頭として挙げられるのが、やはり物流業界で長く問題視されてきた「荷待ち」だ。
荷待ちとは、荷物の積み下ろしや指示待ちなどで、荷主や物流施設などがトラックドライバーに強いる待機時間のこと。やはりUDトラックスの調査によると、一日に発生する荷待ち時間は平均で約2.1時間と、長編映画一本分にも相当する。著しく非効率なのはもちろんだが、この間、ドライバーはトラックから離れることもできず、心的ストレスも相当なものとなるのだ。ちなみに当調査では、少数ながら「10時間以上」と答えたドライバーもおり、さらに橋本氏の話では「最長で21時間半(!)待たされたこともある」という話まであるのだとか。ここまでくると、業界の慣例がうんぬんというより、もはや人権問題だろう。
こうして話を聞いていると、「それは“2024年問題”とは関係なしに、解決されるべき問題だったのでは?」という気もしてくるが、いずれにせよ、日本の物流の現場は課題が山積みなのである。橋本氏はトラックドライバーの現状について、「トラックから寝台がなくなるのが理想。ドライバーにはやはり、四つ足のベッドで寝てほしい」と述べ、待遇改善の重要性を訴えた。
“技術による解決”を提案する自動車メーカー
こうした現状に対して、各界の動きはどうなのか? とりあえず記者にとって身近な(?)自動車メーカーの発表を掘り返してみたところ、以前からずっと、コネクテッド技術の社会実装による解決が提唱されていた。荷物の集積状態やトラックの位置情報などを、リアルタイムで収集してデータ化。必要な時間に、必要な場所に、必要な分のトラックを導くことでムダをなくすというわけだ。今風に言うところの、スマート物流(の一端)である。
例えばトヨタは、過去に日野とIoTの実証実験を行ったこともあり、直近では先日の新体制方針説明会でも、さらりとだが中嶋裕樹副社長が物流の知能化に触れていた(参照)。トヨタは運送業の課題解決に取り組むCJPT(Commercial Japan Partnership Technologies)の盟主なので、その指針や取り組みが業界にもたらす恩恵は大きいものとなるはずだ。
ただ、そのトヨタを含む各社の発表内容を見るに、この手のシステムはいまだ実装の段階にはなく、2024年4月までに大々的に導入されて荷待ちの解消に寄与する……とは、ちょっと思えない。
他方で、トラックドライバーと同じ物流の当事者である荷主企業はどうかというと……。トークセッションで交通コメンテーターの西村直人氏が語ったエピソードは、いささかゲンナリさせられるものだった。
業種を問わず、あまたの工場を取材している西村氏だが、ここ数年で「門外に締め出されているトラックの数がずいぶん増えた」というのだ。工場長などに話を聞いたところ、「敷地内にトラックの休憩所はない。工場を低炭素化するうえで、うちの敷地で荷待ちのトラックに二酸化炭素を出されては困る」と言われたという。法規制や環境バッシングの矢面に立つことのないワタシが何か言っても無責任なだけかもしれないが、それでもさすがに言わせてもらおう。その対応は本当にどうなのよ? これが一般的な荷主企業の意識ではないことを祈るばかりだ。
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2024年には間に合わないだろうけど……
最後に、行政の取り組みについても紹介したい。政府は2023年3月31日、「2024年問題」を主題とした関係閣僚会議を初開催。その席で岸田文雄総理は、「荷主・物流事業者間等の商慣行の見直しと、物流の標準化、DX(デジタルトランスフォーメーション)、GX(グリーントランスフォーメーション)などによる効率化の推進により、物流の生産性を向上するとともに、荷主企業や消費者の行動変容を促す仕組みの導入を進める」と述べ、同年6月上旬をめどに対策をまとめるよう関係閣僚に指示したという。
DXについては先ほど触れたとおりだが、物流の標準化や商慣行の見直しなども、あと1年でホントに間に合うの? ちょっと無理じゃない? というのが記者の率直な印象だ。
それでも2024年問題を契機に、物流業界の課題が広く認知されたこと、行政府がその解決に乗り出したことは、業界に差した曙光(しょこう)と言っていいだろう。
根拠のない話で恐縮だが、恐らく諸々の取り組みは2024年4月1日に間に合わず、荷主もトラックドライバーも、ひいては産業界全体も相応にダメージを負うことになると思う。なので行政府には、問題解決に向けた施策とともに、おのおのが負うダメージを抑える取り組みについても、今のうちに検討しておいてほしい。そしてそこから回復を果たし、物流業界の課題を克服した先に、荷主もドライバーも幸せになれる仕組みが構築されることに期待したい。
(文=webCGほった<webCG”Happy”Hotta>/写真=webCG、トヨタ自動車、首相官邸/編集=堀田剛資)
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堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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