スズキ・ワゴンR ZL(FF/5MT)
目指せ1%アップ 2026.01.28 試乗記 スズキの「ワゴンR」がマイナーチェンジ。デザインを変更しただけでなく、予防安全装備もアップデート。工場設備を刷新してドライバビリティーまで強化しているというから見逃せない。今や希少な5段MTモデルを試す。廃止の議論もあったワゴンR
今回試乗したのは、昨2025年末に発売されたばかりの新しいワゴンRである。公式には“一部仕様変更”あつかいで、資料やカタログだけでは、なるほど、これまで「FX」「スティングレー」「カスタムZ」と3種類あったデザインが1種類に集約されて、フロントグリルとリアバンパーが化粧直しされた程度の変更にしか見えない。しかし、実際の変更点はかなり大規模だ。
通算6代目となる現行ワゴンRの発売は2017年2月だから、この2月でついに丸9年をむかえることになる。歴代ワゴンRは4~5年ごとに世代交代してきたので、明らかにこれまでとは事情がちがう。
もともとワゴンRが開拓した、非スライドドアのハイトワゴンというカテゴリーが、背高スーパーハイトワゴンを中心とするスライドドア車に取って代わられつつあるのはご承知のとおりだ。実際、ワゴンRだけでなく、「日産デイズ」や「ホンダN-WGN」も長寿化しつつあるし、「ダイハツ・ムーヴ」にいたってはスライドドアに転身してしまった。
スズキの開発担当者によると、従来どおりならフルチェンジの時期だった2022年ごろに、ワゴンRの将来について話し合われたという。それは“ワゴンRそのものの廃止”の可能性も含めた議論だったそうだが、「ワゴンRという名前はスズキの軽(自動車)でも圧倒的に認知度が高い」「ハイトワゴン需要は明確に減ってきたが、下げ止まり傾向もみられており、今後も一定の需要は残る」などの理由から、巨額なコストがかかるフルチェンジはしないが、改良すべき点は改良しつつも、無駄なコストを省いて延命することが決まった。
その決定を受けて、実際はハードウエアのすみずみにまで改良の手を入れて、再出発……を期するのが今回のワゴンRというわけだ。
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車体に構造用接着剤を採用
新しいワゴンRの主眼のひとつはリストラだ。前記のように、エクステリアデザインは1種類に統合となり、グレードも「ZX」と「ZL」の2つに整理された。フロントバンパーの開口が逆台形であることからお気づきのように、統合デザインのベースは、従来でいうカスタムZ。そういえば、ZXやZLと、頭にZがつく新グレード名も、カスタムZの名残といえる。
もうひとつはハードウエアの改良である。まず先進運転支援システム(ADAS)は、近年改良されたスズキ車の例にもれず、以前のステレオカメラ式から、ミリ波レーダー+広角単眼カメラによる最新の「デュアルセンサーブレーキサポートII」にアップデートされた。それ以外にも車体関連では構造用接着剤/構造用減衰接着剤の新導入、そしてエンジンのクランクシャフトやその支持剛性の強化など、ADASを含めて、普通に考えるとフルモデルチェンジ級の大がかりな改良の手が入っている。
とくに構造用の接着剤をこうした途中改良のタイミングで投入するのは、生産現場にとっては簡単ではなかったとか。ただ、今回のワゴンRの開発を担当した竹中秀昭チーフエンジニア(CE)は、振動騒音性能開発出身の技術者で、スズキで初めて構造用接着剤や減衰マスチックシーラーを採用した現行「ハスラー」のCEもつとめた人物だ。つまり、こっち方面の技術には非常にこだわりが強い。
そんな竹中氏は、ワゴンRと同じく昨2025年に改良された「アルト」や「ラパン」のCEも兼任しており、今回のタイミングで、これら3車種を生産する湖西第二工場のラインに構造用接着剤/構造用減衰接着剤の設備を入れることに成功した。最新のアルトやラパンがこの種の接着剤を使って剛性や静粛性が引き上げられたのも、こういう背景があったからだ。
コストと質感を巡る駆け引き
今回試乗したワゴンRは5段MT車だった。ワゴンRはこれまでも廉価な「FX」にMTを残していた。最大の理由は「免許取得してからMTしか乗ったことがない」という高齢ドライバーが今もおられるからだ。そうした声は着実に減少しているが、国内新車市場でのMTの選択肢はそれ以上のペースで減っている。
現在、スズキの乗用軽でMTが選べるのはワゴンRと「ジムニー」くらいで、直近でもワゴンRの販売全体の約7%をMTが占めていたという。このように意外に高い(?)MT比率に加えて、ここでワゴンRまでが手を引くと、いよいよ廉価な軽乗用MTが日本から姿を消す。ラインナップを大胆に整理した今回も、MT継続は社内的にも異論は少なかったらしい。
MTは手ごろなZLにのみ設定される。デザインが統合されたことで上級のZX同様のカスタム顔やLEDヘッドランプが標準となるが、ホイールが14インチのキャップ付きスチール(ZXは15インチアルミ)になるほか、フロントフォグランプやリアとサイドシルのスポイラーなどが省かれる。また、本来は現行ワゴンRのデザイン的特徴でもあったフロント三角窓部分やセンターピラー上部をブラックアウトするカッティングシートがZLで省かれるのは、コストを抑制するギリギリの努力のあとだろう。
インテリアでもステアリングホイールがウレタンになる以外、マルチファンクションのカラー液晶ディスプレイが組み込まれたメーターパネルもZXと共通で、エントリーグレードだからといって安っぽさを感じさせない。ここはグレード数を極限まで整理したことが逆に奏功している。ただし、ZLのみ、サイド&カーテンエアバッグが非装備となるのは残念だ。もちろん法規上は問題ないのだろうが、今は軽といっても、安全装備にグレード間で差をつける時代ではないと思う。
このようにフロントシートからの眺めには安っぽさを感じさせないZLだが、試乗車の、昔からほとんど変わっていないフロアシフト周辺を見ると、なんともほほ笑ましい気分になる。
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英断に感謝
MTによるパワートレインはすこぶるあつかいやすい。ZXのようなマイルドハイブリッドは備わらず、ヒルスタートアシストも付かないが、とにかく粘り強いエンジン特性に加えて、750kgという軽い車両重量が効いている。速さは皆無(!)でも、5速1500rpmくらいでもアクセルを踏めばトコトコ走ってくれるので、シフトを少しくらいサボっても問題ない。
ただ、フロアから生えたシフトレバーは高めのヒップポイントに合わせて長く、レバーの剛性も高くはない。スポーツカーのそれのようにギュッと横から握って強引に押し込む操作では、ゲートに入りにくい。そうではなく、シフトノブを上から軽くつまんで、フワッと放り込むようにあつかうと具合がいい。
……といったMT操作のコツもどこか懐かしいワゴンRだが、走って気づくのは静粛性の進化だ。凹凸路面でのボコボコという“ドラミング音”があからさまに小さくなったのは、構造用減衰接着剤に加えて、吸音型エンジンアンダーカバーや、リアトーションビーム内側のスタビライザー振動を抑制するストッパー(なにげにスズキ初)も効いているらしい。
クランクシャフト周辺の剛性を高めたエンジンは、音量自体はともかく、MTをいいことに高回転まで引っ張っても、音が荒れないので不快感は少ない。シャシーも基本的に快適志向だが、構造用接着剤の採用とパワステ制御の見直しで、より軽く、すっきりとした操舵感になったのはウソではない。
見た目はあまり変わっていないワゴンRだが、“軽くて背丈もちょうどよく運転しやすい”というハイトワゴンの美点をあらためて引き出す地道な改良には好感がもてたし、なにより貴重なMTを残してくれた英断にはクルマ好きとしては感謝しかない。デザイン統合のおかげで、必然的にちょいスポーツ風味のカスタム顔となったMTについて、「クルマ好きのお客さまにも選ばれやすくなって、できればシェアも上乗せして8%くらいになってほしい」とはワゴンRの営業担当者のささやかな野望である。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝/車両協力=スズキ)
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テスト車のデータ
スズキ・ワゴンR ZL
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1650mm
ホイールベース:2460mm
車重:750kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:5MT
最高出力:49PS(36kW)/6500rpm
最大トルク:58N・m(5.9kgf・m)/5000rpm
タイヤ:(前)155/65R14 75S/(後)155/65R14 75S(ダンロップ・エナセーブEC350+)
燃費:25.1km/リッター(WLTCモード)
価格:143万円/テスト車=176万0704円
オプション装備:バックアイカメラ・スズキコネクト対応通信機装着車(4万4000円) ※以下、販売店オプション スタンダードプラス8インチナビセット(21万1024円)/8インチオーディオ交換ガーニッシュ(5500円)/フロアマット<ジュータン>(1万5840円)/ETC車載器(1万5400円)/ドライブレコーダー(3万8940円)
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:0.2km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:456.0km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:19.4km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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