第257回:マッハ10への挑戦
2023.05.01 カーマニア人間国宝への道陸上のダークスター号
担当サクライ君より、「来週『ランボルギーニ・ウルス ペルフォルマンテ』にお乗りになりますか」というメールが来たときから、覚悟はできていた。いよいよマッハ10に挑戦するときがやってきたと。
おっさんのバイブル映画『トップガン マーヴェリック』の冒頭、トム・クルーズは「ダークスター号」でマッハ10に挑戦して墜落する。ウルス ペルフォルマンテのスタイリングは、陸上のダークスター号そのもの。私もマッハ10を出して墜落せねば男がすたるというものだ。
ちなみに現実世界では、NASAの無人試験機「X-43」が、ダークスター号と同じスクラムジェットエンジンによってマッハ9.68を出しており、それが航空機の世界最速記録だ。おっさんはマッハ10の有人飛行に挑まずにはいられないのである。
サクライ:墜落はやめてください。
オレ:ところでこれ、何馬力なの?
サクライ:ノーマルの650PSに対して666PSです。
オレ:えっ! (パワーアップ分は)そんなもんなんだ! そういえばナンバーが666だね!
サクライ:はい。馬力ナンバーです。
オレ:『オーメン』じゃなかったのね。
サクライ:僕も一瞬、ホラー映画のほうかと思いましたけど、違います。ちなみにルーフやボンネットなどカーボンファイバーの多用によって、47kg軽量化されてます。
オレ:えっ、(軽量化された)重さもそんなもん!? マッハ10はムリじゃん!
サクライ:はい。そんなに出ません。
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地上には制限速度がある
ミサイル発射ボタン風のスタータースイッチを押してエンジンに火を入れる。一瞬「ボボ~ン」という野太い音が響くがすぐに静かになり、オレンジ色のダークスター号は軽やかに発進した。
オレ:ものすごく静かで快適だね!
サクライ:はい。「ストラーダ」モードはこんな感じです。
こんな凶悪なクルマなのに、杉並区の路地を行くウルス ペルフォルマンテは、大変ジェントルで乗り心地がイイ。スーパーカーオーナーのお買い物用にピッタリンコって感じである。
いや、路地の走りなどどうでもいい。オレは首都高でマッハ10を出さねばならないのだから。
永福ランプのスロープ手前で操縦かん風のレバーを「スポーツ」モードから「コルサ」モードへとたたき込み、ETCゲート通過と同時に2速全開! うおおおおっ、速いっ!!
オレ:サクライ君、マッハ10行けそうだよ!
サクライ:普通のウルスより速いですか?
オレ:それはぜんぜんわかんない! 普通のウルスもメチャ速かったから!
サクライ:ですよね。首都高には制限速度がありますし。
そう。地上には制限速度があって、同時に乗り比べない限り、ノーマルとペルフォルマンテの違いは判別不能なのだった。
オレ:でもこのクルマは視界がいいからいいね! 「ウラカンSTO」は真後ろがぜんぜん見えなくてヤバかったよ!
サクライ:あれはチョンマゲがぐいーんと伸びてますからね。
オレ:いずれウルスにもチョンマゲがつくのかな? あれはやめてほしいなー。パトカーさんが見えないから!
サクライ:さいですね。
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踏みつぶさないようにご注意あれ
その瞬間、自分の右側から、デカいゴキブリのような物体が出現した。それは物陰から突然出てきたので、私は完全に意表を突かれてしまった。
オレ:えっ! 今の何?
サクライ:フェラーリですね。「F430」……いや「430スクーデリア」でしょうか。
オレ:ビックリしたー! だってぜんぜん見えなかったんだもん! そうか、このクルマ、車高が高いしウエストラインも高いから、右の低いところが見えないんだ!
SUVは視界がいいのが通例だが、ウルスは左ハンドルの運転席反対側真横から斜め前にかけて、低めの位置が死角になり、スーパーカーがいても見えない。追い越し車線にいるフェラーリを、いつのまにか踏みつぶしてしまっても不思議はないのだ。気をつけねば。
しかしその後は、死角からフェラーリが飛び出すこともなく、ウルス ペルフォルマンテはカイテキに走行した。カイテキすぎて何も起きず、スーパーなクルマに乗っている割に、物足りないドライブになった。
オレ:あっ、前にちっちゃいスポーツカーがオープンで走ってる。いいな~。
サクライ:かわいいですね。
オレ:(ダイハツの)「コペン」かな。
サクライ:いえ「マツダ・ロードスター」ですよ。
オレ:げっ、ホントだ! ロードスターがコペンに見えた。
サクライ:デカいクルマに乗ってると、縮尺が狂うのかもしれませんね。
というわけで、こういったスーパーSUVにお乗りの富裕層の皆さまは、車高の低いクルマや小さいクルマを踏みつぶさないようにご注意ください。
(文=清水草一/写真=清水草一、webCG/編集=櫻井健一)
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清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。