「シビック タイプR」が記録を更新! 自動車メーカーがニュルにこだわるのはなぜか?
2023.05.03 デイリーコラム延々と続くガードレール付きの峠道
現在では多くの自動車メーカーが動的性能の評価としてこの場を用い、場合によっては“車両開発の聖地”などと紹介されることも少なくないのが、ご存じドイツ・ニュルブルクリンクの旧コース。
あえて“旧”と注釈が付けられるのは1927年に竣工(しゅんこう)という長い歴史を持つこちらに対して、1984年にはそれに隣接する新しいグランプリコースがオープンしたため。
それでも一般に「ニュル」と表記した場合、近代的なサーキットとして設備の整ったグランプリコースではなく旧コースを思い浮かべる人のほうが多そうなのは、前述した歴史の長さや20kmを上回るという他に例を見ないその1ラップの長さ。そして、かつてそこでF1レースが開催されていたとはにわかには信じられないほどに起伏に富んだそのコースのつくりや、路面状況が部分ごとに多彩に変化するといった、やはり通常のサーキットではなかなかお目にかかれない場面など、何もかもが規格外の大きな特徴を持つことによるものだろう。
見方によっては、延々と続くガードレール付きの峠道……、そんなキャラクターの持ち主でもある旧コースだけに、操る人にとってもクルマにとってもそこを攻略するのがとてつもなく高いハードルなのは自明というもの。
最近では、ドライビングシミュレーターによってあらかじめコースレイアウトを学んでおくといった技も一般化しているが、そんなものはまだなかった今から20年以上も前となる当時、20~30周も走ってようやく次のコーナーがどちらに曲がっているのかが分かるようになってきた……というのは個人的な実体験。
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タイプRの記録はどれだけすごいのか?
クルマにとっても、単にエンジンパワーだけを高めても、それをさまざまな路面に対してきちんと伝えることができる脚を備えていないとラップタイムの向上にはつながらないし、ボディーにも大きな負荷がかかるため高い剛性で仕上げられることが求められる(かつてある日本のメーカーがこのコースに試作車を持ち込んだところ、ジャンピングスポットを通過した折にドアが開いてしまった、という話を聞いたことがある!)。
そんな過酷な舞台から最近届いたのが「『ホンダ・シビック タイプR』が市販FFモデルの最速ラップタイムを記録」という一報。それは2019年に制定されたニュルブルクリンク公式ルールに基づく測定値で7分44秒881とされ、具体的には同じ計測法によって「ルノー・メガーヌR.S.トロフィーR」がマークした7分45秒389という記録をコンマ5秒ほどしのいだということになる。
実は、そんな新記録を樹立したシビック タイプRにはオプションタイヤの「ミシュラン・パイロットスポーツ カップ2コネクト」が装着されていたことに加え、使用された車両は欧州市場のみに設定されるエアコンなどを装着しない軽量化バージョンだったという後日談も耳に届いてはいるが、それでもやはりとんでもなく速いタイムであることは疑いなし。
前述のように計測法の見直し等もあって完全な直接比較はできないのだが、おおよそのところでは最新のシビック タイプRと同等のラップタイムを掲げているのは、997世代の「ポルシェ911 GT3」や「フェラーリ430スクーデリア」など、いわゆるスーパーカー級のモデルたち。もはやこの先FFレイアウトを備えた純エンジン搭載のスポーツモデルが新たに誕生する可能性は低く、これまで「ニュルブルクリンクでのFF車最速」を競ってきた前出のメガーヌR.S.や「フォルクスワーゲン・ゴルフGTI」も、この先再度の挑戦を行ってくる可能性が考えにくいことを思うと、今回のシビック タイプRの記録は“最終的”なものとして残されていくのかもしれない。
(文=河村康彦/写真=本田技研工業、ルノー/編集=藤沢 勝)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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