ランドローバー・ディフェンダー130 X-DYNAMIC HSE D300(4WD/8AT)
レコードブレイカー 2023.05.27 試乗記 2023年モデルとして導入がスタートした3列シート8人乗りの「ランドローバー・ディフェンダー130」に試乗。5人乗りの従来型「90」や7人乗りの「110」との違い、そして330mm延長された全長がもたらす広々とした室内空間の特徴をリポートする。いちばん部屋の大きいディフェンダー
3列シート8人乗りのディフェンダーが“130”である。110のリアオーバーハングを33cm延長して、サードシートを2人掛けから3人掛けに変更している。
ディフェンダーのモデル名である90、110、130といった数字は、初代ディフェンダーではインチ表示のホイールベース長を表していた。しかし、現行モデルだとインチ(2.54cm)を掛け算してもホイールベース長とは符合しない。しかも110と130のホイールベース3020mmは同寸だ。
初代の130は110の後ろに荷台を増設した貨客両用車だったから、ラダーフレームのホイールベースを延長する必要があった。その点、こんどの130は3列目シートまわりの空間を増やすだけだから、モノコックボディーのホイールベースまで変えるには及ばずということだろう。110と130の違いに、新旧ディフェンダーのキャラクターの違いがはっきりみてとれる。
日本に導入される新型130は「D300」のみ。すなわち、マイルドハイブリッドの3リッター直列6気筒ディーゼル一択である。いちばん部屋の大きいディフェンダーだから、全グレード、オーバー1000万円で、電子制御エアサスペンション、スライディングパノラミックルーフ、11.4インチディスプレイ、4ゾーンクライメートコントロールなどを標準装備する。試乗したのは1142万円の「X-DYNAMIC HSE」である。
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サードシートへの出入りはタイヘン
分厚く重いドアを開けると、音もなく電動ステップが出る。足をかけて乗り込み、走りだせば収納される。停車時にステップを出しっぱなしにしたい時は「ルーフアクセス」の設定でできる。しかし、出し入れ可能な踏み台付きのクルマって、スゴイ。
3列シート車でも7人ではなく8人乗りというのは非常に珍しい。日本車のミニバンには稀にあるが、現行SUVで定員8名はディフェンダー130だけである。
シート配列は2+3+3。ヘッドレストも人数分付いている。肝心のサードシートは、いままで経験したSUVのどんな3列目よりも大きくて広い。なにしろ3人掛けは唯一なのである。
座面は高くないが、体育座りというほど低くはない。2列目をいちばん後ろまで下げられてしまうと、さすがに膝まわりの余裕はないが、左右の肘乗せにカップホルダーまで備わるところをみると、緊急時用とか短距離用とかいったオケージョナルシートではない。大きな可動式グラスルーフに加え、サードシートの頭上も日除け付きのガラス屋根だから、採光にすぐれ、閉所感はない。ただ、背の高いスライドドアのミニバンと違って、出入りはそれなりにタイヘンだ。
使わない時のサードシートは、前に倒して畳める。そうすると、奥行き1m以上のたっぷりした荷室になる。セカンドシートも倒せば、奥行きは1.8mまで広がる。荷室後部の側壁には後輪エアサスの車高を変えるボタンがある。押すとお尻だけが最大16cm(実測)も上下する。最低位置にすれば、重量物の積み下ろしの際に役立つ。
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剛性が高くキレのいいシャシー
110より33cm長いボディーは120kg重くなり、車重は2540kgに達する。だが、これくらい分母が大きくなれば関係ないと言わんばかりに、パワフルな動力性能は揺るぎない。2000rpmからグワッとくる力強さはマックス650N・mという大トルクのディーゼルならではだ。それに対して48Vマイルドハイブリッドのモーターはわずか42N・mだから、走行中に電動の実感はほとんどない。
この3リッター直6ディーゼルはマナーも優秀だ。車内で感じるエンジンの息づかいはなめらかで静か。車外騒音もディーゼルとしてはトップクラス超えの低さである。牧歌的だった初代ディフェンダーの4気筒ディーゼルがなつかしい。
エアサス、メカサスを問わず、快適でスポーティーな足まわりはディフェンダーの美点のひとつだが、130でもそれは変わらない。重い車重を額面通りには感じさせない、なんというかキレのいいシャシーの印象は、サスペンションもさることながら、モノコックボディーの鬼剛性からきているように思う。
筆者の家の車庫には大きすぎて預かれなかったため、今回は半日、オンロードのみ300kmの試乗にとどまったが、燃費は満タン法で9.3km/リッターを記録する。コンパクトカー2台分の重さの巨大四駆を1リットルの化石燃料(軽油)でこれだけ走らせるのはやはりディーゼルならではである。ちなみにディフェンダー110では、国内導入以来、販売の75%をディーゼルが占めている。
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裏路地には迷い込まないほうがいい
ディスプレイのホーム画面の「車両寸法」をタッチすると、ボディーサイズやアプローチアングルなどのデータが出る。カタログの全長は5275mmだが、フルサイズのスペアタイヤをリアに背負うと5.38mに延びるとか、全幅は1995mmが、ドアミラーまでだと2.11mに広がるとかいったことがわかりやすく図解されている。いざとなれば最大水深85cmの渡河をこなす特大SUVを乗りこなすには、まずボディーの大きさを理解すべし、ということか。
しかし、今回は裏路地に迷い込んだわけでもないので、全長4975mmの110と比べて、取り回しの印象はとくに変わらなかった。というか、110でも裏路地には迷い込まないほうがいい。ホイールベースは変わっていないから、内輪差も同じで、最小回転半径はともに6.1m。フルロックまできって曲がるような時に、130だとお尻の振れに少し余計に神経を使う必要があるくらいだろう。
90と110でスタートしたこれまでの販売構成比は、110が8割を占めるという。「ジープ・ラングラー」も、ホイールベースを延ばし、4枚ドアを与えた「アンリミテッド」で大ブレークしたが、ディフェンダーも日本では圧倒的に5ドアの大きいほうが売れるのだ。
かといって、駐車場の枠をかるくはみ出す130がそうそう売れるとは思えないが、多人数乗りSUVの記録を塗り替えるクルマであることは間違いない。“金持ち子だくさん”から、アラブの都市の砂漠ツアー用まで、待ってた人は確実にいそうだ。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
ランドローバー・ディフェンダー130 X-DYNAMIC HSE D300
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5275×1995×1970mm
ホイールベース:3020mm
車重:2570kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:300PS(221kW)/4000rpm
エンジン最大トルク:650N・m(66.3kgf・m)/1500-2500rpm
モーター最高出力:18PS(13kW)/5000rpm
モーター最大トルク:42N・m(4.3kgf・m)/2000rpm
タイヤ:(前)255/60R20 113H M+S/(後)255/60R20 113H M+S(グッドイヤー・ラングラー オールテレインアドベンチャー)
燃費:9.9km/リッター(WLTCモード)
価格:1142万円/テスト車=1381万0089円
オプション装備:ボディーカラー<アイガーグレイ>(10万1000円)/4ゾーンクライメートコントロール(5万7000円)/MERIDIANサラウンドサウンドシステム(30万3000円)/Wi-Fi接続<データプラン付き>(3万6000円)/ワイヤレスデバイスチャージング(2万8000円)/ClearSightインテリアリアビューミラー(11万9000円)/ヘッドアップディスプレイ(7万7000円)/プライバシーガラス(8万5000円)/ホイールロックナット(9000円)/コールドクライメートパック(10万9000円)/アドバンスドオフロードケイパビリティパック(20万1000円)/オフロードパック(20万4000円)/パネル<ライフカットウオールナット>(6万8000円)/ヘッドライニング<ライトオイスター、モルジヌ>(0円)/クロスカービーム<ダークグレイパウダーコートブラッシュドフィニッシュ>(3万5000円) ※以下、販売店オプション ドライブレコーダー(5万8080円)/ディプロイアブルサイドステップ(53万1025円)/アドベンチャーパック(28万6484円)/ディープサイドラバーフロアマット(8万2500円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:1584km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:292.4km
使用燃料:31.3リッター(軽油)
参考燃費:9.3km/リッター(満タン法)/9.2km/リッター(車載燃費計計測値)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
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