楽しいエンジン車に未来はない? 内燃機関の一歩先を考える
2023.06.19 デイリーコラムBEVよりもPHEVが合理的
自動車、なかでも内燃機関の未来について日々考えさせられる時代になった。2023年5月には、G7サミット開催に合わせ、広島で日本自動車工業会がカーボンニュートラル(CN)達成に向けた取り組みを積極的に世界へと発信したばかり。いい意味でも悪い意味でもCN戦略をリードする欧米に対して、日本の実績と考え方を明解にアピールした。
日本のクルマ好きが特にセンシティブに反応する欧州(EU)も、これに先駆けて、EU理事会において乗用車および小型商用車の新車の二酸化炭素排出に関する一段と厳しい規則を新たに採択している(大型車についても追って採択された)。
詳しい情報に関しては駐日欧州連合代表部の公式サイト(日本語)に詳しいのでそちらを参照してほしいが、要点をまとめると、
- 2030~2034年にかけてCO2の排出量を2021年比で55%削減する(乗用車)
- 2035年以降、新車のCO2排出量を100%削減する
ということで、2050年の気候中立を目指すEUの揺るぎない姿勢を内外に示している。また2025~2029年末まではゼロ・低排出車(ZLEV、エミッションビークル)の販売量に対して規制上のインセンティブも与えられるという。ここで言うZLEVとはBEV、FCV、水素エンジン車、PHEVを指す。
そもそもEUにおいても委員会と議会、閣僚会議とで思惑がすれ違っており、合成燃料(e-fuels)の言及に関しても今後の展開を注視する必要がありそうだ。現状の“二酸化炭素中立燃料のみ”という高いハードルがこれからどうなっていくのか……。
地球規模で考えた場合、自工会が広島でアピールした「限りある資源をできるだけ多くの機会に分配する」というカップヌードル理論(肉や小麦粉を高級料理<=大容量バッテリー>を積むBEVとして提供するのではなく、もっと多くの人の胃袋を満たすインスタントラーメン<=例えばPHEV>に配分したほうが飢餓<=CO2>は減る)が最も合理的であることは間違いない。それこそG7以外の地域ではまだまだICE(純内燃機関)が主流であり続けるのだから。
「効率のいいエンジンがベスト」でもない
未来のエンジンはどうなるか? 合成フューエルや水素といった燃料側の革新もさることながら、そもそも低い熱効率をいかにして高めていくか、悲願ともいうべき“熱効率50%”をどうやってさらに超えていくのか、エンジン側での開発余地はまだまだありそうだ(困難な課題であり、時間はかかるだろう。そのうちレアメタル問題をはじめとする資源対策も進むかもしれない)。
ハイブリッドとの相性であったり、トランスミッションの進化であったり、はたまた運動エネルギー伝達系の改善であったりと、取り組むべきポイントはエンジン単体以外にも多岐にわたっている。けれど、“エンジン好き”としてひとつだけ覚悟していることがある。それは、今後の一層の効率化は、20世紀的なエンジン車の運転を好む者の興味をそぐ結果になるだろうということだ。
大好きなエンジンの魅力をそれぞれ思い出してみてほしい。メカニカルノイズであったりバイブレーションであったり、補機類の作動フィールであったり、エキゾーストノートに代表されるサウンドであったり。けれどもそれらは皆、“エネルギー浪費の産物”だ。
そもそも大好きなクラシックモデルのドライブフィールだって、個性とか味わいなんていうものは、すべて工業製品としての“未完成”や“未成熟”の裏返し。つまり、なんなら欠点の結果でしかなかったわけで、工業製品の権化というべきエンジンもそんな“反比例の呪縛”から逃れることはできない。ポルシェのフラット6がどのように進化し、「911」として発展してきたか、なぜにポルシェ好きは911や「356」に回帰するのかを考えてみれば、よくわかると思う。
要するに、効率化の極まったエンジンは、性能や燃費はいいかもしれないけれど、決して操って楽しいものや操りがいのあるものにはならないということだ。
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行き着く先はサーキット!?
では“エンジン車の運転好き”の一縷(いちる)の望みを、一体どこに託せばいいのだろうか?
筆者は、トラック専用マシン用エンジンの開発に尽きると思っている。公道では世間の目もあって、どうせむちゃはできない。クルマの運転を心から楽しむならサーキットやそれに準じた施設で走るほかないというのが現状だ。ならば、ナンバーの付かないエンジン車を楽しむことが一番理にかなっている。
今はまだハイパーカークラスでしかそんなクルマは出ていない。もしくはヴィンテージのコンティニュエーションか。いずれも1億円以上の価格帯で、甚だ非現実的だ。
筆者としては、もう少しリーズナブルに、しかもとことんエンジンの回転フィールを楽しむことのできるマニュアル車を、トラック専用モデルとして出してもらえることを期待するほかない。トラック専用なら、キャブだって、自然吸気の12気筒だって、何だってやり放題だ。
一般道でエンジン車に乗ることは、旧車にしたところでいずれは部分的に制限されるだろう。それでも操って気持ちのいいエンジン車をつくり続ける理由があるとすれば、それはエンジン車を「移動の手段」という最大の役目から解き放ち、専用の場所で楽しむものにするほかないと思っている。それがビジネスとして成り立つかどうかは、わからないが。
(文=西川 淳/写真=トヨタ自動車、日産自動車、ポルシェジャパン、webCG/編集=関 顕也)
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西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。
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