メルセデスAMG EQE53 4MATIC+ SUV(4WD)
新しい課題 2023.07.11 試乗記 「EQS」に始まり、短期間に新世代の電気自動車(BEV)を一挙投入して市場掌握を狙うメルセデス。最新の「EQE53 4MATIC+ SUV」は、メルセデスAMG初のBEVのSUVという触れ込みだ。国内導入を前に、アメリカで試乗した第一報をお届けする。忘れてました
メルセデスAMG EQE53 4MATIC+ SUV(以下、EQE53 SUVと略す)の試乗会はアメリカ・サンディエゴで開催された。ほぼ時期を同じくして、「メルセデスAMG S63 Eパフォーマンス」の試乗会がサンタモニカで開催されていたので、このクルマを試した後にS63の試乗会にもお邪魔した。果たしてこの順番がよくなかったのか、あるいはS63の出来がよすぎたからか、正直に言うとEQE53 SUVの印象のほとんどが忘却のかなたに消えうせてしまい、久しぶりにプレスリリースを最初から最後まであらためてじっくり読み込んで、記憶の糸をたぐり寄せた。
以前寄稿した、AMGではない「EQE SUV」の原稿に「極上の無難」と書いた。BEVらしさよりもメルセデスらしさに重きを置いた味つけは、人によって好き嫌いが分かれるような強いクセもなく、一台のクルマとしてバランスよくまとめられた出来栄えだったからだ。また、こんなことも書いている。「『EQE500』は少々パワフルすぎて、オーバースペックのような気がした」と。“500”でオーバースペックと感じたなら“53”はまともに扱える代物なのか、という懸念が試乗前にはあったのだけれど、実際にはそんなことはなくて、だからこそ余計に強い印象が残っていなかったのだと思う。果たしてせっかくAMGが仕立てたのにこんな感じでいいのだろうか?
くしくも、AMGの真骨頂である専用の内燃機を積んだS63と、内燃機を持たないBEVのEQE53 SUVを同時に試乗することで、昔流に言うところの“チューニングメーカー”の行く末みたいなものを考えざるを得なくなってしまったのである。
パワートレインはセダンと同一
「EVA2」と呼ぶBEV専用のプラットフォームを使うモデルを、メルセデスはEQSを皮切りに続々と登場させてきた。あまりにも短期間のうちにメルセデスのBEVがうようよと増殖していったので、自分でもたまにどれがどれだか見失うことがある。EQE53 SUVの資料に「AMG初のBEVのSUV」と書いてあって「ん? そうだっけ?」と思ってしまった。よく考えてみると、EQS SUVはメルセデス・マイバッハ仕様の展開はあったけれどAMGはないし、「EQA」「EQB」「EQC」もAMGのパッケージオプションはあるけれど車名の数字が2桁のAMGは確かに存在しない。
パワートレインは、すでに日本でも販売されているセダンの「EQE53」と同じと考えていい。前後に交流同期モーターを置き、「AMGダイナミックプラスパッケージ」のオプションを装着すると、最高出力は626PSから687PSに、最大トルクは950N・mから1000N・mへそれぞれ増強される。駆動形式は4MATIC+なので、前後駆動力配分は固定ではなく随時可変する。その頻度は最大で毎秒160回というから、もちろん運転中にはまったく分からない。分からなすぎて「本当に可変しているのか?」とちょっと疑いたくなる。ただし、一応ドライブモードによってパラメーターが異なっており、「コンフォート」では電気を必要以上に消費しない効率重視で、「スポーツ」「スポーツ+」では操縦性重視で基本的にリア寄りの駆動力配分となる。
なお、バッテリーはEQEセダンやノーマルのEQE SUVと同一で容量は90.6kWh。一充電走行距離は407~455kmと公表されている。EQE SUVは最大551kmなので、パワーアップしたぶんだけ航続可能距離は約100km少なくなっている。
AMG専用チューンの勘どころ
サスペンションもEQEセダンと基本的には同じ。つまり空気ばね+電子制御式ダンパー(伸び側と縮み側のそれぞれにアクチュエーターを有していて、減衰力の最大値と最小値の幅を広げている)を組み合わせたエアサスが標準となる。後輪操舵もやっぱり付いている。シャシー関連でセダンとの唯一の相違点は、EQE53 SUVの前後にアクティブスタビライザーが装着されている点である。旋回中のばね上の動きを抑えるには、ばねレートを上げて動きにくくする手法が一般的だが、これだと乗り心地が悪くなる。アクティブスタビライザーを使えば、ばね上の動きは同じようにコントロールできるし、乗り心地への影響も少ない。S63と同等のやり方がこのクルマにも採用されていた。また、ノーマルのEQE SUVと比べると、ホイールキャリア、サスペンションリンク、ベアリングなどがAMG専用に置き換えられている。
エアサスのおかげで車高調整が可能だから、スポーツとスポーツ+では停止状態から-15mmの車高となる。コンフォートを選ぶと120km/hからローダウンして80km/hまで減速すると標準の車高に戻る。EQE53 SUVの操縦性はこのエアサスをはじめ、アクティブスタビライザーや後輪操舵、4MATIC+などをAMGオリジナルの制御マップにより統合制御する。具体的にどうなるのかというと、ノーマルのEQE SUVよりもステアリングレスポンスがよくなってコーナリングスピードも上がり、でも乗り心地はいわゆるAMGらしい硬さはほとんどなく全速度域で悪くない。そういう乗り味である。
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味わいはパワーのみにあらず
EQE53 SUVの出力はドライブモードによって最高値が制限されている。「スリッパリー」は50%、「コンフォート」は80%、「スポーツ」は90%、「スポーツ+」でようやく100%、そしてダイナミックプラスパッケージを装着すれば、いわゆるローンチコントロールとブースト機能が働いて瞬間的に110%(=687PS)といった具合だ。つまりコンフォートで公道を法定速度で走行している範囲では、ノーマルのEQE SUVと動力性能に関しては大きく変わらないのである。だからといって、公道では結局のところこのパワートレインの110%を引き出すことはほぼ不可能だ。
802PS/1430N・mを発生するS63の大パワーだって同様なのだけれど、法定速度内でもノーマルの「S580」とは明らかに異なる。内燃機の息づかいというか呼吸みたいなものにAMG特有の着色が施されていて、われわれはそこにうれしさを感じるのだろう。いっぽうモーターは“無呼吸”なので、いかに出力やトルクが増強されていようと、そこに至る過渡領域はノーマルでもAMGでも大差がない。もうひとつはやはりエンジン音である。あえてAMGを選ぶ理由のなかには、独特の鼓動とサウンドに引かれるという人も少なくない。EQE53 SUVもAMGオリジナルのサウンドが仕込まれていてそれなりに勇ましい音色を聞かせるけれど、人工的なそれは「そうじゃないんだよなあ」とやっぱりどこか腑(ふ)に落ちない。
出力とトルクをアップしてサスペンションをスポーティーなセッティングにするやり方は内燃機でもBEVでも同じである。しかし、V8同士でありながらS580とS63の間にはみられる明確な差異が、ノーマルのEQE SUVとEQE53 SUVにはみられない。ここに、モーターという新しいパワートレインに対するチューニングの限界のようなものを垣間見た気がした。
(文=渡辺慎太郎/写真=メルセデス・ベンツ/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
メルセデスAMG EQE53 4MATIC+ SUV
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4879×1931×1672mm
ホイールベース:3030mm
車重:2690kg
駆動方式:4WD
フロントモーター:永久磁石同期モーター
リアモーター:永久磁石同期モーター
フロントモーター最高出力:--PS(--kW)
フロントモーター最大トルク:--N・m(--kgf・m)
リアモーター最高出力:--PS(--kW)
リアモーター最大トルク:--N・m(--kgf・m)
システム最高出力:687PS(505kW)
システム最大トルク:1000N・m(102.0kgf・m)
タイヤ:(前)275/40R21 107W XL/(後)275/40R21 107W XL(ミシュラン・パイロットスポーツEV)
交流電力量消費率:25.6-23.0kWh/100km(WLTPモード)
一充電走行距離:407-455km(WLTPモード)
価格:--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh
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渡辺 慎太郎
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