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メルセデスAMG S63 Eパフォーマンス(4WD/9AT)

「S」はひとつで十分 2023.06.28 試乗記 渡辺 慎太郎 メルセデスが誇るラグジュアリーサルーン「Sクラス」に待望のAMG版「S63 Eパフォーマンス」が登場。電気の力を主に動力性能に振り向けた、システム出力802PSを誇るプラグインハイブリッド車(PHEV)だ。国内導入に先がけ、米国カリフォルニアでステアリングを握った。
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ウルトラ富裕層の方に

自動車メーカーの広報の方にお目にかかると、世間話のひとつとして、直近に日本で販売が開始されたモデルについて「売れ行きはどうですか」なんて伺ったりする。現行Sクラスが発売されてから半年ぐらいたったころ、「Sはどうですか、やっぱり順調なんでしょ」とメルセデス・ベンツ日本の広報部の某氏に投げたら「うーん、まあまあですかね」とちょっと浮かない感じの答えが返ってきた。「え、なんで?」と問い詰めたら「買い控えている方が結構いらっしゃるんですよ、AMGが出るまで」と言う。

「Sクラスはいいと思うけどAMGが出るまで待とう」という思考は分からなくはないけれど、それができるのは主に経済的余裕がたっぷりある方で、なかには“AMGまでのつなぎ”として現行Sクラスを買い求める方もいらっしゃるらしい。自分のような庶民とはまったく違うところに広がる世界に暮らす、物価高だの不景気だのといった外的攻撃をもろともしない方々によって、日本経済は(部分的に)支えられているのだ。

そんな彼らにとってはお待ちかねの商品がようやく登場した。メルセデスAMG S63 Eパフォーマンスである。“Eパフォーマンス”とはAMGが独自開発したプラグインハイブリッドシステムを搭載することを示し、現時点ではS63のほかに「AMG GT63 S Eパフォーマンス」と「C63 S  Eパフォーマンス」もある。3台とも“63”を名乗っているけれど、AMG GTとS63は4リッターのV8ツインターボ、C63は2リッターの直列4気筒ターボである。

2022年12月6日に世界初披露された「メルセデスAMG S63 Eパフォーマンス」。「メルセデス・マイバッハSクラス」と並ぶもうひとつの頂点だ。
2022年12月6日に世界初披露された「メルセデスAMG S63 Eパフォーマンス」。「メルセデス・マイバッハSクラス」と並ぶもうひとつの頂点だ。拡大
フロントには「Sクラス」としては初めて「パナメリカーナグリル」を装備。ボンネットの先端にスリーポインテッドスターが備わらないのもSクラスとしては初だ。
フロントには「Sクラス」としては初めて「パナメリカーナグリル」を装備。ボンネットの先端にスリーポインテッドスターが備わらないのもSクラスとしては初だ。拡大
これ見よがしなリップスポイラーなどは備わっておらず、全体のフォルムはあくまでアンダーステイトメントだ。
これ見よがしなリップスポイラーなどは備わっておらず、全体のフォルムはあくまでアンダーステイトメントだ。拡大
「S63」のバッジは側面のみが赤く塗られている。
「S63」のバッジは側面のみが赤く塗られている。拡大
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電気の力をパフォーマンスに

Eパフォーマンスは「AMG GT 4ドア」とともに2022年にデビューした。一般的な後輪駆動のPHEVは、モーターをエンジンとトランスミッションで挟み込むタイプが主流だが、Eパフォーマンスはモーターをリアに配置する。このモーターは2段のトランスミッションやeデフと一緒にユニット化され、その上に駆動用バッテリーを載せた構造となっている。車名にはないけれど、Eパフォーマンスはすべて「4MATIC+」の駆動形式なので、エンジン稼働時には後輪のみにモーターによるパワーを上乗せする4WD、「エレクトリック」モード時には基本的に後輪のみが駆動するRWDとなる。

もうひとつ、Eパフォーマンスが一般的なPHEVと決定的に異なるのは、その主たる目的である。例えばメルセデスのPHEVはだいたい100kmのEV走行が可能で、つまり燃費の向上を狙ったシステムであるのに対して、Eパフォーマンスは燃費よりも動力性能の向上にモーターを積極的に活用するシステムである。実際、AMG GT63のEVモードの航続可能距離はわずか12kmだった。さすがにこれをそのままSに持ち込むのはマズイと思ったのか、バッテリー容量を6.1kWhから13.1kWhへ増量しEV走行換算距離が33kmとなった。このバッテリーの特徴は、電気をたくさんためるというよりも、すぐにためてすぐに使う“出し入れの速さ”にこだわったところ。2022年のAMG GTの試乗会ではサーキット走行も含まれていたのだけれど、ハードブレーキングの連続により、コースインのときよりも数周してピットに戻ったときのほうがバッテリーの残量は多かった。一般的なPHEVでサーキット走行したら、おそらく最初のラップでバッテリーはほぼ空になったままだと思う。

駆動用モーターのエネルギー源はF1由来のテクノロジーを採用したという「AMGハイパフォーマンスバッテリー」。容量は13.1kWhで、EV走行換算距離は33km。
駆動用モーターのエネルギー源はF1由来のテクノロジーを採用したという「AMGハイパフォーマンスバッテリー」。容量は13.1kWhで、EV走行換算距離は33km。拡大
フロントに積まれる4リッターV8ツインターボエンジンは最高出力612PSを発生。「ワンマン、ワンエンジン」のモットーに従って一人の職人によって組み上げられるが、果たしてモーターはどうなのだろうか。
フロントに積まれる4リッターV8ツインターボエンジンは最高出力612PSを発生。「ワンマン、ワンエンジン」のモットーに従って一人の職人によって組み上げられるが、果たしてモーターはどうなのだろうか。拡大
バンパーの開口部やドアミラーなどはグロスブラックで仕立てられる。
バンパーの開口部やドアミラーなどはグロスブラックで仕立てられる。拡大
タイヤ&ホイールは20インチが標準で、今回の試乗車の21インチはオプション。
タイヤ&ホイールは20インチが標準で、今回の試乗車の21インチはオプション。拡大

拍子抜けするほどおとなしい

S63のパワースペックは最高出力802PS、最大トルク1430N・m。ちょっとデンジャラスな数値が並んでいるけれど、これこそが動力性能に特化したEパフォーマンスの真価ともいえる。参考までに、1430N・mはモーターをブースト的に使うと約10秒間だけ発生する値。近くのコンビニへ行くときでも常に一緒についてくるわけではないのでご安心を。そもそもそれくらいの距離であれば、S63はおそらくEVとして立ち居振る舞うはずである。

実際にS63を運転してみると、パワースペックから想像する凶暴性や獰猛(どうもう)性みたいなものは(公道を常識的に走行する限り)ほとんど感じられない。それどころか、局面によってはノーマルのSクラスよりもSクラスらしいと思わせることさえあった。

ノーマルのSからS63にするにあたり、AMGは主にボディー前後のアクスル付近に補強を追加したという。おそらくその効果もあって、ボディーの剛性感は明らかにS63のほうが高い。V8+AMGスピードシフトMCT 9Gのパワートレイン由来によるNV(騒音/振動)も見事に抑えられていて、これはアクティブエンジンマウントのおかげと推測できる。EVモードで静粛性が高いのは当たり前だけど、エンジンが始動した後でも2000rpm以下であればエンジン音はほとんど気にならない。100km/hの回転数が1500rpmくらいだったので、今回の試乗会でも意図的にアクセルペダルを深く踏み込んだりしない限り、勇ましいサウンドとは無縁だった。

足まわりにはエアサスをベースにした「AMGライドコントロール+サスペンション」を採用。120km/h以上で自動的に車高が10mm下がる(任意の操作も可能)。
足まわりにはエアサスをベースにした「AMGライドコントロール+サスペンション」を採用。120km/h以上で自動的に車高が10mm下がる(任意の操作も可能)。拡大
この試乗車は赤いレザーとカーボンパネルを組み合わせたレーシーな仕立てだったが、レザーはホワイトやタンも選べるほか、パネルはストライプ入りのウッドも選べる。
この試乗車は赤いレザーとカーボンパネルを組み合わせたレーシーな仕立てだったが、レザーはホワイトやタンも選べるほか、パネルはストライプ入りのウッドも選べる。拡大
シートはヘッドレストにAMGエンブレムが型押しされる。表皮はナッパレザー。
シートはヘッドレストにAMGエンブレムが型押しされる。表皮はナッパレザー。拡大
後席は2人乗りの「ファーストクラスパッケージ」のみの設定。リアに座りながらのシステム出力802PSはどういう味わいだろうか。
後席は2人乗りの「ファーストクラスパッケージ」のみの設定。リアに座りながらのシステム出力802PSはどういう味わいだろうか。拡大

いつでも使えるという“余裕”

でもだからといって、加速感やパワーデリバリーに不満があるわけではない。EVモードにしろハイブリッドモードにしろ、出力/トルクの立ち上がりはきれいな線形を描くから加速は極めてスムーズだし、それでいて芯のある圧倒的な力強さをどの速度域においても感じる。普段は千円札1枚で足りるくらいの買い物しかしないのに、いざというときのためにお財布にはこっそり一万円札が10枚入っているみたいな、そんな“余裕”を常に実感できる動力性能なんだなと思った。

ハンドリングはゲインが高く必要以上に向きを変えたがる味つけではない。でもレスポンスがよく限りなく正確無比。それよりも、まるで磁石でタイヤと路面がくっついているかのような驚異的な接地感に驚かされた。ロングボディーをベースにしているが、後輪操舵によってそのネガな部分は相殺されているし、前後に標準装備するアクティブスタビライザーが、ロール方向の動きを最適な量と速度で管理する。このほかにも、エアサスやeデフや4MATIC+なんかが状況に応じていいあんばいで介入し、結果的に何をやっても何も起こらない盤石な安定感の操縦性を形成しているのである。乗り心地に硬さはほとんどなく、速度や路面の状況を問わず、しっとりとした極上の快適性が供される。

総じてS63は、“Sクラス”であることをかなり意識したセッティングであり、その部分に関してはおそらく歴代のAMG Sクラスのなかで一番ではないだろうか。サーキットでもガンガン走れるAMG GTやC63の車名はAMG GT 63 S EパフォーマンスとC63 S Eパフォーマンスだが、このS63はEパフォーマンスの前に“S”が入らない。スポーティーさをあえて少し抑えたテイストの63であることを表しているのだろう。

(文=渡辺慎太郎/写真=メルセデス・ベンツ/編集=藤沢 勝)

最高速はリミッターによって250km/hに抑えられているが、オプションで290km/hに引き上げることも可能。
最高速はリミッターによって250km/hに抑えられているが、オプションで290km/hに引き上げることも可能。拡大
ツインスポークタイプの「AMGスポーツステアリング」を装備。この試乗車のように全周をアルカンターラ巻きにしてもいいし、上下をカーボンにしてもいい。シートなどと同色のレザーにもできる
ツインスポークタイプの「AMGスポーツステアリング」を装備。この試乗車のように全周をアルカンターラ巻きにしてもいいし、上下をカーボンにしてもいい。シートなどと同色のレザーにもできる拡大
ドライブモードは「エレクトリック」「コンフォート」「バッテリーホールド」「スポーツ」「スポーツ+」「スリッパリー」「インディビジュアル」の全7種類。
ドライブモードは「エレクトリック」「コンフォート」「バッテリーホールド」「スポーツ」「スポーツ+」「スリッパリー」「インディビジュアル」の全7種類。拡大
「エレクトリック」モード選択時は基本的にリアモーターのみによるドライブとなるものの、後輪のスリップを検知するとプロペラシャフトを介して前輪を駆動する。
「エレクトリック」モード選択時は基本的にリアモーターのみによるドライブとなるものの、後輪のスリップを検知するとプロペラシャフトを介して前輪を駆動する。拡大
現地での取材内容を含めたさまざまな情報から推測すると、日本には2023年内の導入が濃厚だ。
現地での取材内容を含めたさまざまな情報から推測すると、日本には2023年内の導入が濃厚だ。拡大

テスト車のデータ

メルセデスAMG S63 Eパフォーマンス

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5336×1921×1515mm
ホイールベース:3216mm
車重:2595kg
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
モーター:永久励起同期式モーター
トランスミッション:9段AT<エンジン>+2段AT<モーター>
エンジン最高出力:612PS(450kW)/5500-6500rpm
エンジン最大トルク:900N・m(91.8kgf・m)/2500-4500rpm
モーター最高出力:190PS(140kW)
モーター最大トルク:320N・m(32.6kgf・m)
システム最高出力:802PS(590kW)
システム最大トルク:1430N・m(145.8kgf・m)
タイヤ:(前)255/40ZR21/(後)285/35ZR21(ミシュラン・パイロットスポーツ4 S)
ハイブリッド燃料消費率:4.4リッター/100km<約22.7km/リッター>(WLTPモード)
EV走行換算距離:33km
充電電力使用時走行距離:33km
交流電力量消費率:21.4kWh/100km
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--

テスト車の年式:2023年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

メルセデスAMG S63 Eパフォーマンス
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