メルセデス・ベンツEQE350 4MATIC SUVローンチエディション(4WD)
高級車であり続けるために 2023.10.18 試乗記 エンジン車の時代と電気自動車(BEV)の時代で高級車の定義は変わるか。同じかもしれないし違うかもしれないが、少なくともメルセデス・ベンツはすでに手を打っている。最新のBEV「EQE SUV」をドライブするとそれがよく分かる。SF映画の宇宙船のようだ
胴長のボディーに極端に短い前後のオーバーハング、そして巨大化したウリ坊のようにコロンとしたフォルム。「EVA2」と呼ばれるBEV専用プラットフォームを用いるメルセデス・ベンツEQE350 4MATIC SUVは、いかにもバッテリーを床下に敷き詰めるBEVらしいフォルムなのだった。
ここで、巨大化したウリ坊とは成長して大人になったイノシシと同じではないかと自分で自分に突っ込みを入れたけれど、成人(?)のイノシシにはウリ坊の愛らしさはない。やはりEQE SUVのスタイリングは巨大化したウリ坊だと納得しながら車体に近づく。すると、それまでボディーパネルに埋め込まれて一体化していたドアハンドルが、音もなくせり上がった。SF映画の宇宙船っぽい。
メルセデスがシームレスドアハンドルと呼ぶこのドアハンドルを引いて室内に入り、システムを起動すると、ディスプレイがきらきらと輝き、SFっぽさがいや増す。ドライバー正面の速度や運転支援装置の作動状況を表示するディスプレイが12.3インチ、運転席と助手席の間に位置してナビゲーションやオーディオのインターフェイスをつかさどるディスプレイが12.8インチ。サイズも立派であるけれど、特に後者は有機ELを採用しているせいか、はっきりくっきり映っているように感じる。
インテリアで目を引くのはセンターコンソールが浮いているように見えることで、センターコンソール下の空間は、そこそこの容量がある小物置きとして使える。1670mmという車高のおかげで頭上空間にも余裕があり、オフホワイトの内装色もあってか、車内の雰囲気は明るくて開放感がある。
総じて、内燃機関車に比べて部品点数を減らすことができるBEVのメリットを最大限に生かして設計しようという意志が、ひしひしと伝わってくる。
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モーターの存在を忘れてしまう
Dレンジを選んでアクセルペダルを踏み込むと、メルセデス・ベンツEQE350 4MATIC SUVは優雅に発進する。さすがはシステム最大トルク765N・m。「レンジローバー」の4.4リッターV型8気筒ガソリンターボの最大トルクが750N・mであることと比べると、このパワートレインのポテンシャルがどの程度のものなのかが、筆者のような昭和脳でも理解しやすい。
しかもモーターの場合は電気がピピッと流れた瞬間に最大の力を発生させられるから、発進加速になんのストレスも感じない。
不思議なことに、しばらく運転していると、加速がいいとかレスポンスが鋭いというように、パワートレインを意識することがなくなっていった。感じるのは「いいクルマだな」ということだけで、極端な話、BEVを運転していることも忘れてしまいそうになる。
これは、アクセルペダルの踏み加減に対してどれくらいアウトプットするかを綿密に練っているからだろう。そういえばメルセデス・ベンツの内燃機関車も、一部のスポーツモデルを除けばやはりエンジンの存在を意識しなくなる。電気になってもメルセデスはメルセデス。
ドンとアクセルペダルを踏み込んでも、目がまわるくらいに速いは速いけれど、むち打ちの恐怖を感じるほどではなく、加速はスマートで洗練されている。むち打ちになるぐらい激しい加速でBEVの優位性を示すこともできるはずなのに、あえてそれをしないのは、BEVであろうと内燃機関車であろうと、メルセデス・ベンツのなかで「いいクルマ」の基準がしっかり確立されているからだろうか。
あるいは、激しい加速は同時に日本に導入された「メルセデスAMG EQE53 4MATIC+ SUV」の役割なのかもしれない。こちらにはまだ試乗していないけれど、システム全体の最高出力は687PS(!)。ちなみに本日のEQE350 4MATIC SUVは292PSだから、倍以上の差があるのだ。
絶妙な設定のホイールベース
市街地から高速道路まで、速度域を問わず乗り心地は快適だ。タウンスピードではふんわり軽い乗り心地で、いっぽう、速度が上がると重厚で安定感に満ちた乗り心地になるところがおもしろい。
今回試乗した「ローンチエディション」にはエアサスペンションと連続可変ダンパーを組み合わせた「AIRMATICサスペンション」が標準で装備されるから、その効果もあるだろう。特に高速道路でのどっしり感は、この先進的なサスペンションシステムが自動で車高を下げることから生まれているはずだ。
コーナリングはまさにオン・ザ・レール。AIRMATICサスペンションがロールを丁寧に整えることと、4MATICが4輪に緻密にトルクを配分することがあいまって、スマートに曲がっていく。このクルマのコーナリングを表現する言葉としては、「よく曲がる」とか「速く曲がる」よりも、「正しく曲がる」という言葉がふさわしいように感じた。
冒頭に記したEVA2というプラットフォームは、大型BEVのために開発されたもので、「EQS」と「EQS SUV」、そして「EQE」とこのEQE SUVに使われている。おもしろいのは、EQSとEQS SUVのホイールベースが3210mmと共通なのに対して、EQE SUVは3030mmと、EQEの3120mmから90mm短縮されているのだ。
つまりEQE SUVはEQEのSUV版であるけれど、同時にショートホイールベース(SWB)版でもあるのだ。EQE SUVをSWB化した理由はよく曲がるようにするためだったとのことだけれど、セダンのEQEよりEQE SUVの「曲がり」にこだわるあたりがおもしろい。以前とは逆だ。
あるいは、重心が高くなるSUVのほうが曲げることに注力する必要があるのかもしれないけれど、現代におけるSUVのあり方、使われ方が伝わってくる。
BEV時代の高級車
びっくりしたのは、撮影中に狭いパーキングスペースでUターンを試みたときのこと。間違いなく切り返しが必要だと思っていたら、あっけなくUターンできてしまった。資料をあたると、ローンチエディションはAIRMATICサスペンションだけでなく、メルセデス・ベンツが「リアアクスルステアリング」と呼ぶ後輪操舵の機能も標準装備とされていた。
この仕組みは、約60km/h以下のスピードだと後輪が前輪と反対側に切れて、取り回しのよさに貢献する。約60km/hを超えると、前輪と同じ方向に後輪をステアして、安定性を高める。コーナーで正しく曲がると感じたのには、このリアアクスルステアリングも貢献していたかもしれない。
いいクルマとはすなわち、いいキモチにしてくれるクルマであり、インテリアの明るい雰囲気といい、滑らかな加速といい、快適な乗り心地と好ハンドリングの両立といい、メルセデス・ベンツEQE350 4MATIC SUVはとてもいいキモチにしてくれた。
ただしモーターはエンジンほど走りの質感の違いを出せないから、内燃機関車に比べてBEVはいいキモチにしてくれる要素がひとつ減る。だから高級車が高級車であり続けるためには、内装のしつらえや、快適な乗り心地を今まで以上に磨き込んでいかないといけないわけで、このクルマはそこに留意して、きちんとBEV時代の高級車を表現していると感じた。
(文=サトータケシ/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
メルセデス・ベンツEQE350 4MATIC SUVローンチエディション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4880×2030×1670mm
ホイールベース:3030mm
車重:2630kg
駆動方式:4WD
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流同期電動機
フロントモーター最高出力:96PS(71kW)
フロントモーター最大トルク:251N・m(25.6kgf・m)
リアモーター最高出力:196PS(144kW)
リアモーター最大トルク:514N・m(52.4kgf・m)
システム最高出力:292PS(215kW)
システム最大トルク:765N・m(78.0kgf・m)
タイヤ:(前)265/40R21 105H XL/(後)265/40R21 105H XL(ピレリPゼロ エレクト)
交流電力量消費率:208Wh/km(WLTCモード)
一充電走行距離:528km(WLTCモード)
価格:1369万7000円/テスト車=1395万円
オプション装備:ボディーカラー<アルペングレー[ソリッド]>(14万3000円)/21インチAMGマルチスポークアルミホイール(7万7000円)/本革シート<ネバグレー×ビスケーブルー>(3万3000円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:868km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:283.0km
消費電力:--kWh
参考電力消費率:5.2km/kWh(車載電費計計測値)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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