トヨタ・アルファード/ヴェルファイア 開発者インタビュー
優しさと感謝を 2023.08.06 試乗記 トヨタ自動車CVカンパニー
CV製品企画
ZH2チーフエンジニア
吉岡憲一(よしおか けんいち)さん
トヨタ車体
デザイン部
平松宏波(ひらまつ ひろなみ)さん
「トヨタ・アルファード/ヴェルファイア」がフルモデルチェンジ。ニッポンが誇る高級ミニバンはどこがどう進化し、そこにはどんな思いが込められているのか。チーフエンジニアの吉岡憲一さんとデザインを取りまとめた平松宏波さんに話を聞いた。
30系から主役がアルファードに
30系の発表が2015年1月というから、約8年半ぶりの全面刷新となる新型=40系アルファード&ヴェルファイア。異例の長寿となった理由、それはコロナ禍からの半導体不足によるバックオーダーの積み上げなど複合的に考えられるが、ひっくるめて筆頭に挙げられるのは他社銘柄を圧するすさまじい人気がゆえだろう。
国内販売台数的には初代の10系から2代目の20系での伸長ぶりも相当なものだったが、この際の立役者はネッツ系販売店で取り扱うヴェルファイアの人気沸騰によるものだった。が、20系から30系の数的伸長はむしろアルファードによるところが大きい。
そして特徴的だったのは2018年以降、アルファードがヴェルファイアを販売台数で逆転。その後、このフルモデルチェンジ直前に至るまでアルファードが数を伸ばし続ける一方で、ヴェルファイアはグレード整理も始まるなど、明らかに終売の兆しが見え始めたことだ。その背景には国内販売チャンネルの統合があり、アルファードに車種の一本化が図られている……と、ここ1~2年はそうとしか見えない動向だった。
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ヴェルファイアを延命させた「AT」のサイン
「確かにチャンネル統合などの理由で、国内市場はアルファードに一本化するという流れはありました。でも、当時の豊田社長が『ヴェルファイアを指名で買ってくださる、そんなお客さまの気持ちも大切にしてくれるとうれしい』と言われて、ヴェルファイアのお客さまの動向や嗜好(しこう)をさまざまな方向から検討したんですね。するとスポーティーさやオリジナリティーに対するこだわりが明確であることが分かりました」
と、答えるのは40系アルファード&ヴェルファイアの開発を指揮した吉岡憲一チーフエンジニア。氏は20系が登場して間もない2010年からこのモデルの開発に携わる手だれも手だれだ。
「当時、アルファードの基準車と並行してエアロバージョンを開発してまして、2つの仕様から選択してもらおうというのが既定路線だったんです。でも、ヴェルファイアの継続を模索すると、どうもこのエアロバージョンがお客さまの求める姿に近いのではないかと思うようになって、豊田社長にはこの仕様を元にヴェルファイアをつくることにしますとリポートを提出しました。すると後日、『AT』のサインとともに赤丸が入って戻ってきましたね(笑)」
直近のアルファード/ヴェルファイアのセールスはざっくり年15万台程度の台数規模で動いていた。内訳は10万台が日本、5万台がアジア圏を中心とする海外で、うち3万台前後が中国だ。40系では中南米への輸出も始まるということで海外の比率が伸び、さらに多国籍化することも予測される。とあらば仕向け地の嗜好に対する配慮とともに、ますます大切になってくるのはアイデンティティーだ。
闘牛の力感を表現したかった
「高級車はこの先、どう進化していくのだろうという思いを元に、取りかかりとしてサイドビューのレンダリングは軽く100種類以上は書きましたね。その過程でしっくりとくるイメージを模索していくわけですが、そんななかでモチーフとして定まってきたのが『闘牛』だったんです」
トヨタ車体のデザイン部に所属する平松宏波さんは、直近では300系「ランドクルーザー」など、トヨタの厚顔もののデザインを手がけている。氏は闘牛の写真を指しながら説明を続ける。
「厚い体躯(たいく)のなかで隆々とした筋肉が力感をしっかり示している。この強い存在感を表したいと思いました」
聞きながら闘牛の写真を見ると、確かに40系のデザインと相通じるところがあるなと感じられた。逆スラント感を強めた顔まわりは前屈しながら取っ組み合うそれを思わせる。そして特徴的なスライドドアまわりから後端にかけての下がり基調のラインも背筋から大腿(だいたい)筋にかけての肉感を思わせなくもない。聞けばリアフェンダーまわりから後端にかけては、凹凸や伸びやかさをしっかり表現できるように設計や生産技術とギリギリのところまで折衝を重ねたという。
「海外輸出という点で言えば、40系は中国のCIASIが行う受動安全テストを満たすうえで、新たに始めた25%オフセット衝突の要件を織り込む必要がありました。それに今までの技術で対応すると、正直、あんまりカッコよくないんです。だからフロントガラスを受けるピラーはクラッシャブル構造にして本来のAピラーの仕事はドア側で担うという二重構造にするなど、このデザインを成立させるために設計面では相当頑張ってもらいましたね」
と、続けて話す吉岡さんに、40系で最も重視した項目は何かと問うてみたところ、何の迷いもためもなくすぐに返事が返ってきた。
アルヴェルの本質
「動的質感ですね。乗って、乗せられて進化をどう受け止めてもらえるか。30系で高級車における大空間の価値というのはある程度認知してもらえたのではと自負しています。が、一方で他銘柄や輸入車などに乗られていた、目の肥えたお客さまにもたくさんご愛顧いただきまして、とにかく乗り味・乗り心地に対するご不満を多くいただいたのも事実です。今回はプラットフォームの刷新という好機でもありましたから、とにかくここを徹底的にやろうと」
30系では床面まわりを中心に15Hz程度の低周波の共振がたまりやすいことが、車内の音・振動環境を阻害していた。ある意味大箱ものの宿命ともいえるそこに、40系では徹底的に取り組んだという。ボディー側はもちろんのこと、トヨタとしては初となるシートマウントの一部ラバー化や、「エグゼクティブラウンジ」の2列目シートには特別なフォームを使用するなど、小技も織り込んで快適性を高めている。
「アルファード&ヴェルファイアをつくるうえで常に考えていることは、人に対する優しさや社会への感謝の気持ちを培ってくれる、そんな移動体でありたいということですね」
世間で思われているアルファード&ヴェルファイアのイメージといえばドヤ系の総代だが、何代にもわたってこのモデルを手がけてきた吉岡さんの言葉には重みがある。そのように気持ちを整えて新しいアルファードに乗ると、そのたゆたうような乗り味に、なるほどささいなことなど気に留めないおおらかさがこのクルマの本質なんだなあと思い直すことになるだろう。
(文=渡辺敏史/写真=山本佳吾/編集=藤沢 勝)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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