トヨタ・アルファード エグゼクティブラウンジ プラグインハイブリッド(4WD/CVT)
真打ちは遅れて現れる 2025.04.07 試乗記 トヨタを代表するLサイズミニバン「アルファード」に、プラグインハイブリッド車(PHEV)が登場。ショーファーカーのニーズに対応・進化させたというPHEVの走りと、装備や機能の充実がうたわれるラグジュアリーカーとしての仕上がりを、運転席と2列目の最上席で確かめた。アルファードのPHEVが狙うのは?
2023年に4代目へとバトンタッチが行われて以来、歴代モデルのなかでも圧倒的といえる人気を博しているのが現行のアルファード。初代誕生の当初は3列シートのどのポジションでも十分な居住スペースが得られる日本のLサイズピープルムーバーという性格が強かったこのモデルも、現在は“高級ミニバン”というカテゴリーを定着させた立役者として国内のみならず海外でも知られる存在となっている。
皮肉にも、そうした人気のほどが盗難率の高さとして証明されると同時に、公用でショーファーカーとして用いられる機会も大いに高まったことから、かつて需要の主流となっていた4ドアセダンをそうした用途から解放。現行の「クラウン」シリーズに大胆なモデルチェンジを許すことになった陰の功労者と深読みすることもできそうである。
今回紹介するのは、2025年になって一卵性の兄弟モデルである「ヴェルファイア」ともどもシリーズに加えられたプラグインハイブリッドシステム搭載車。興味深いことにその開発コンセプトは“快適な移動の幸せ”と明言される。
既存のエンジン車にどうしても及び難い航続距離の問題を筆頭に、ピュアEVのウイークポイント(とされていた事項)を補塡(ほてん)する策として認識されることの多いプラグインハイブリッドシステムだが、このモデルはそうしたまだポピュラーとはいえない特別なパワーパックを新たな目標達成のために活用したことが注目される一台である。
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日本初のショーファー向けミニバン型PHEV
アルファードのPHEVに搭載されたパワートレインは、端的に言ってしまえばすでに発売済みの「クラウン スポーツ」に搭載された外部充電が可能なハイブリッドシステムと同様である。すなわち、組み合わされるエンジンは筒内噴射とポート噴射を併用する“D-4S”のメカニズムを採用した2.5リッターの直4ガソリンユニット。現行モデルの骨格は当初からプラグインハイブリッドシステムの設定を想定して開発されたといわれ、容量18.1kWhの駆動用リチウムイオンバッテリーは室内スペースを浸食することなく床下へのレイアウトを実現。フロントに182PS、リアに54PSの最高出力を発生するモーターを搭載する4WD方式が採用されている。
クラウン スポーツに比べると400kg以上も上回る2.5tに迫る車両重量ともあって、WLTCモードによるEV走行距離は同車の90kmから73kmへと減少しているが、「ショーファーカーの日常移動の95%をEV走行でカバー」(トヨタの社内調査値)とうたわれており、東京都心を中心に動き回るショーファーユースを推測した際の肌感覚としても、なるほど確かに納得できるデータである。
それ以外にも早朝・深夜の住宅街への送迎をエンジン停止のままこなしたり、長時間に及ぶゲスト待ち時の空調使用をアイドリングなしで実現したりというメリットが考えられ、ショーファーカーならではといえるニーズに高い適性を備えることがうかがえる。
こうなると「ショーファーニーズにマッチした日本初となるミニバンのPHEV」というトヨタのうたい文句にも納得がいくというもの。床下スペースの争奪戦の結果か、実は燃料タンク容量が通常のハイブリッド車比で13リッター減の47リッターとなってしまっているが、それでもWLTCモード燃費と掛け合わせれば航続距離は780km超という計算。実際にはそれを7掛け程度と厳しく見積もっても、前出のEV走行距離も加味すれば600km程度は楽に超えそうだから大きなハンディキャップにはならないだろう。
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ショーファーカーならではの装備も充実
それにしても、乗れば乗るほどに「なるほどこれを知ってしまうともうクラウンには戻れないだろうな」と強く実感するのが、このモデル(の2列目シート)を使った際の印象だ。
まずは乗降性が圧倒的に優れている。実は今回の「エグゼクティブラウンジ」グレードの場合、3列目シートが“末席”の扱いとなる。「3列目に秘書を乗せる」というトヨタの想定によれば、いわゆる“助手席”に相当するのはドライバーサイドではなく最後列である。
空間的には長時間の使用に十分耐えられそうだが、そこに到着するまでがひと苦労である。2列目シートにウオークイン機構が備わるものの、手動のレバーを引いたりスライドさせたりの操作を行いながら3列目へとたどり着くのは意外に煩雑。そもそも、これら所作は主役のゲストが2列目シートに座っていたら成立しない。
一方で、ちょっと頭を屈(かが)めるだけで乗り降りできる2列目は天国。加えて、今回のテスト車にはスライドドアに連動して地上から220mmの高さに現れる“ユニバーサルステップ”がオプション装着されていたのでなおさらのこと。そんな2列目シートには当然のように、前後スライドやリクライニング角度はもちろん、クッション部前端の高さやオットマンの角度・長さなどのフルパワー調整機能も備わっている。
さらに、シート側面にもスライドスイッチがあることはもとより、ドライバー席側ドアトリムにもゲスト降車後の2列目シートをワンタッチでニュートラル状態へと戻すスイッチが設けられているのはショーファーカーならではといえそう。そして、至れり尽くせりの快適・エンタメ装備が満載なのは、すでに同グレードのハイブリッド車でも報告されているとおりである。
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納得できるプライス設定
車両重量が2.5t近いと聞けば一瞬身構えるものの、いざ走り始めればその加速は思いのほか軽やか……というよりも、アクセルを踏み込むほどに十分な動力性能を有していると教えられるのがこのモデルだ。
実際、7.1秒というフル加速時の0-100km/hタイムは既存のハイブリッド車の8.8秒を大幅にしのぐばかりか、ヴェルファイアに設定される2.4リッターターボの8.3秒をも上回るのだからさもありなん。エンジンの始動が気づかない間に行われるという滑らかさは「THS(トヨタハイブリッドシステム)」の常だが、充電状態が良好ならば約120km/hまでのEV走行が可能で、常用シーンでは低いエンジン回転数が多用されるというこのモデルではより“EV濃度”の高い走りのテイストが鮮明だ。
ただし、街乗りシーンでのそうした印象に慣れてしまうと、相対的に高速道路へと進入した際の、特に荒れた路面で急増するロードノイズが気になることに。もっとも、実はそんな印象というのは多くのピュアEVにも共通する事柄ではあるわけだが。
床下に重量物である駆動用バッテリーをレイアウトした結果、既存のハイブリッド車比でマイナス35mmという低重心化がもたらす走りへの好影響は、決定的な差とはいえないものの、それなりに実感できる。端的に言えば、ワインディングロードを「もし大切なゲストを乗せていればこんな勢いでは走らないだろう」といったペースで駆け抜けたとしても、その安定感や姿勢の変化は全高が1.9mを超えたモデルのそれとは到底思えない。ひと昔前のミニバンの走りを思い起こせば、これは隔世の感そのものだ。
こうした運動性能面以外でも、最短距離にセットすると前車の追従に不安を感じさせない一方で、左右から割り込みさせにくい絶妙な車間をキープするACCや、過剰なおせっかいと感じさせないで操舵や減速のアシストを実現する「プロアクティブドライビングアシスト(PDA)」など、いかにも「走りながらプログラムをつくり込んだ」と実感させるADASの仕上がり具合にも感心させられる部分が多かった。
ピュアEVの時代への“つなぎの技術”といわれがちなプラグインハイブリッドシステムの特性を、ショーファーカー向けへと磨き上げたこのモデルの1000万円を超えるプライスタグには、十分納得できるという人は少なくなさそう。現行型デビュー後の熟成期間も含め、「後から現れた真打ち」とも表現できそうなアルファードなのである。
(文=河村康彦/写真=佐藤靖彦/編集=櫻井健一/車両協力=トヨタ自動車)
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テスト車のデータ
トヨタ・アルファード エグゼクティブラウンジ プラグインハイブリッド
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4995×1850×1945mm
ホイールベース:3000mm
車重:2490kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.5リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:177PS(130kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:219N・m(22.3kgf・m)/3600rpm
フロントモーター最高出力:182PS(134kW)
フロントモーター最大トルク:270N・m(27.5kgf・m)
リアモーター最高出力:54PS(40kW)
リアモーター最大トルク:121N・m(12.3kgf・m)
システム最高出力:306PS(225kW)
タイヤ:(前)225/55R19 103H XL/(後)225/55R19 103H XL(ダンロップSP SPORT MAXX 060)
燃費:16.7km/リッター(WLTCモード)
価格:1065万円/テスト車=1095万4700円
オプション装備:ボディーカラー<プレシャスレオブロンド>(5万5000円)/ユニバーサルステップ<スライドドア左右・メッキ加飾付き>(6万6000円)/ITSコネクト(2万7500円)/充電ケーブル(8800円) ※以下、販売店オプション フロアマット<エグゼクティブ、エントランスマット付き>(13万2000円)/ラグマット(1万5400円)
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:1225km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(6)/山岳路(3)
テスト距離:475.6km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:13.4km/リッター(車載燃費計計測値)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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