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不正はビッグモーターだけじゃない! 悪徳業者を排除しマイカーを守るためにできること

2023.09.15 デイリーコラム 堀田 剛資

ちょっと冷静になりましょう

ビッグモーターによる、保険金の不正受給に端を発する問題が、芋づる式に広がりをみせている。同じ中古車販売大手のグッドスピードやネクステージでも、修理代の水増し申請が発覚し、ネクステージの社長(元はビッグモーターの人だそうな)が辞任することに。またそのちょっと前には、ビッグモーターと取引のあった損保ジャパンの社長も引責辞任を表明。金融庁も、ビッグモーターと損保ジャパンに立ち入り調査を行う方針を固めた。

現状では、大きく取りざたされている事案について、法的な被害者が誰となるのかいまいち判然としないが(この場合は保険会社になるのか?)、いずれにせよ、クルマ屋と保険会社の双方ともに、世間からの信頼を失ったのは間違いない。なにせ「お客のクルマをお店が壊して、詐欺に使っていた」なんて事例まであったのだ。その衝撃度を思えば、業界に向けられる目が厳しくなるのも仕方のないことだろう。

ただ一方で、過度に不安をあおったり、業界全体を悪の巣窟みたいに語ったりするのも、記者はちょっとどうかと思う。いや、それ統計的な証拠でもあるの?

確かに私も、「この業界はホワイトです」と胸を張れる根拠は持ち合わせていないし、SNS等では、今もひどいトラブルの体験談が散見される。しかし、例えば「中古車売買の何割でトラブルが起きていて、それは他の業界と比べて多い/少ない」といった調査報告などは、寡聞にして聞いたことがないのだ。

具体的に挙げられる数字といえば、関係各所に寄せられる消費者の相談の数ぐらいで、自動車公正取引協議会に寄せられるものがだいたい年間5000件、国民生活センターのデータベースに見る相談件数が、中古車関連のみでだいたい年間7000件となっている。国民生活センターでは、相談件数の統計をジャンル別にも公開しているが、それでも分母となる取引の数や商材の性質などが違うのだから、比較のしようがない。自動車業界が白いの黒いのとか、よそと比べてトラブルが多いとか少ないとか、一概には言えないだろう。

保険金の不正申請・受給が明るみになった中古車販売最大手のビッグモーター。他にも、街路樹を枯らしたり、販売や買い取りにおけるトラブルなども報じられているが……。
保険金の不正申請・受給が明るみになった中古車販売最大手のビッグモーター。他にも、街路樹を枯らしたり、販売や買い取りにおけるトラブルなども報じられているが……。拡大

遅れが目立つアフターサービスの透明化

それでも、この業界が常に疑惑の目で見られるのは、取り扱われる商材(自動車そのものや点検整備といったサービスの費用)が高額なのに、その内情が不透明で、消費者と業者の力関係があまりに不釣り合いだからだろう。現状では消費者は、お店の「これはこういうクルマです」「ここも壊れてました、直しました」という言葉を、ただ信じるしかない。

個人的に、今の自動車業界で一番改善しなければいけない点は、恐らくここではないかと思う。世のお店からは「例の事件が発覚してから、『整備作業に立ち合いたい』というお客さんが増えて困っている」などという声も聞かれるが、今後の信頼回復を思えば、むしろよい兆候なのではないか。

過去を振り返ると、業界の健全化へ向けた取り組みは、長年にわたり各方面で、間断なく進められてきた。JAAA(日本自動車鑑定協会)などの第三者機関の設立や、信頼に足る中古車査定システムの登場などは、その分かりやすい例だ。記者がかつて籍を置いていた中古車の広告業界でも、おとり広告やメーターの巻き戻しを撲滅すべく、大手メディアが車台番号(下3ケタ)の表示を義務化。近年では、車両価格に諸費用を含めた“支払総額”表示の普及も推し進めてきた。後者については、2020年ごろから自動車公正取引協議会も規約の改定に乗り出しており、2023年10月からは、価格表示が完全に支払総額に移行することとなる。

こうした流れのなかにあって、大きく取り残されているのがアフターサービスの分野だ。お店によっては、納車時に実車を前に施工箇所を説明したり、交換した部品や作業風景の写真を見せてくれたり……と、信頼獲得のためにあれこれ取り組んでいるところもある。しかし、今回のような事件をみると、“お店のささやかな善意”だけに頼るのもそろそろ限界ではないか。第三者機関の設置や評価制度の策定などが、必要となる頃合いなのかもしれない。

中古車の広告業界では、価格表示のあいまいさが以前から指摘されており、2023年10月1日より支払総額の表示が義務化されることとなった。
中古車の広告業界では、価格表示のあいまいさが以前から指摘されており、2023年10月1日より支払総額の表示が義務化されることとなった。拡大
マイカーを守れるのはオーナーのアナタだけ。生活の道具と割り切っている人も、多少は関心を持って保守にのぞんであげよう。写真はwebCG編集 藤沢の愛車「三菱アウトランダー」。
マイカーを守れるのはオーナーのアナタだけ。生活の道具と割り切っている人も、多少は関心を持って保守にのぞんであげよう。写真はwebCG編集 藤沢の愛車「三菱アウトランダー」。拡大

マイカーを守れるのはオーナーのアナタだけ

同時に、この場を借りて消費者たる皆さまにも、ぜひ一つ提案をしたい。クルマ好きの方には無用なお話でしょうが、それ以外の皆さまも、ちょっとは自分のクルマに関心を持っておいてください。なんなら、少しでいいからクルマの知識も持っておいたほうがいいと思う。「バッテリーはだいたい○年で寿命」とか、そんなレベルでいいので。

先日、webCGのメールマガジン(皆さんも登録してくださいね)でも書いたのだが、記者がビッグモーター事件で何に一番驚いたかというと、彼らがこれほどまでに長く、たくさんの悪事を重ねてこられたことだった。なにせ、不正は板金塗装を手がけるすべての店で行われ、その数は「少なくとも1275件」とされていた。つまりは、累計で1275台ものクルマが不正に使われたわけだ。それらのクルマのオーナーは、本当に誰も、何にも気づかなかったのだろうか?

保険を使うにしろ自費で払うにしろ、クルマを修理に出せば施工前に見積もりを見せられるし、施工後にも明細が出されるはず。そのとき、「あれ、自分がぶつけたのってここだったっけ?」と思う人はいなかったのだろうか。仮にいたにしても、さほど多くはなかったからこそ、ビッグモーターは不正を続けられたのだろう。利用者のマイカーへの無関心が、「どうせあいつら、分かんないから」と彼らを増長させた側面は、やはりあったのではないかと思う。

また、今回は保険金を多くせしめるのが目的の事件だったが、世のなかには「お客からお金をだまし取ってやろう」というよからぬお店もあるかもしれない。彼らからしたら、見積もりを見せても「よしなに」としか言わず、明細もろくに確認しないオーナーなどは、本当にカモだろう。

クルマに関心がない向きからしたらうっとうしい話だろうけど、マイカーを守れる、犯罪に使われるのを防げるのは、オーナーのアナタだけだ。自己防衛のためにも、どうぞご自身のマイカーに(ちょっとぐらいは)心を砕いて接してあげてください。

(文=webCGほった<webCG”Happy”Hotta>/写真=webCG/編集=堀田剛資)

 
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堀田 剛資

猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。

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