これがおすすめ! 月面探索車のリアル体験:夢は現実になりつつある【ジャパンモビリティショー2023】

2023.10.27 これがおすすめ! 青木 禎之
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月面探索車「ルナクルーザー」。写真はジャパンモビリティショー2023会場に飾られているミニチュア版。
月面探索車「ルナクルーザー」。写真はジャパンモビリティショー2023会場に飾られているミニチュア版。拡大

さまざまな未来のモビリティーの姿が示される、ジャパンモビリティショー2023。そのなかには、この地球を飛び出すことを前提に開発が進められているものも……! 見て、触って、感じられる展示の模様をライターの青木禎之がリポートする。

ブリヂストンが開発した、月面探索車用のスチールタイヤ。不整地への対応とトラブル対策のため、ダブルタイヤ(2連装着)になっている。
ブリヂストンが開発した、月面探索車用のスチールタイヤ。不整地への対応とトラブル対策のため、ダブルタイヤ(2連装着)になっている。拡大
タイヤの本体は、ゴム成形ではなくステンレスの糸をより合わせて構成されている。-170度~120度という300度近い気温幅に対応するための措置である。
タイヤの本体は、ゴム成形ではなくステンレスの糸をより合わせて構成されている。-170度~120度という300度近い気温幅に対応するための措置である。拡大
展示ブースでは、「ルナクルーザー」の車内が再現されている。いざ内部へ……。
展示ブースでは、「ルナクルーザー」の車内が再現されている。いざ内部へ……。拡大
アルミの骨格を持つ「ルナクルーザー」のシート。そのままベッドとしても使える。
アルミの骨格を持つ「ルナクルーザー」のシート。そのままベッドとしても使える。拡大
写真のように、今回のショーでは「ルナクルーザー」の運転シミュレーションも体験できる。
写真のように、今回のショーでは「ルナクルーザー」の運転シミュレーションも体験できる。拡大
「ルナクルーザー」の操作デバイスは、このジョイスティック付きレバー。右手側が操舵、左手側が視点の変更を担う。
「ルナクルーザー」の操作デバイスは、このジョイスティック付きレバー。右手側が操舵、左手側が視点の変更を担う。拡大
シミュレーションでは、前方のフロントスクリーンに通るべき道筋が示される。
シミュレーションでは、前方のフロントスクリーンに通るべき道筋が示される。拡大
「ルナクルーザー」の活躍イメージ。夢のようとはいいながら、こうした光景も現実味を帯びてきた。
「ルナクルーザー」の活躍イメージ。夢のようとはいいながら、こうした光景も現実味を帯びてきた。拡大

ガチの近未来車をドライブ!?

ブリヂストンのブースで「カーカス丸出しのダブルタイヤ!?」と思わせる不思議なタイヤを発見! 説明員の方に聞くと、「月面を走るクルマ用」とのこと。

月では重力が地球の6分の1。温度の変化は-170度(!)から120度にわたる。「高いほうはなんとかなりますが、極低温ではゴムがガラス化してしまいます」と説明員。そのためゴムの代わりにステンレスの糸をよって、タイヤを形成している。構造体そのもので路面の凹凸を吸収し、衝撃を和らげるという、昨今話題のエアレスタイヤと同じ考えを採っているわけだ。月には弾力に利用できる空気がありませんからね。

ダブルタイヤになっているのは、接地圧を低減させて不整地での走破性を向上させるほか、万が一片方が駄目になっても、残る一方でタイヤとしての機能を果たす“冗長性”確保の意味もある。

「これは2分の1サイズの展示品で、西ホールに原寸大があります」と教えていただいたので、早速「東京の未来」をテーマにした「トーキョーフューチャーツアー」エリアに行ってみる。ありました、ありました! JAXA(宇宙航空研究開発機構)が手がける月面探索車「ルナクルーザー」の展示模型の奥に、人間の胸ほどの高さがある月面ローバ用タイヤが。

「夢が膨らむなァ」とかつてのサイファイ(SF)少年(←ワタシです)が感心していると、模型の脇を通って来訪者が階段を上っていく。「なんだろう?」とついていくと、なんと! 実証試験に使っているルナクルーザーの与圧キャビン(本物)が公開されているではありませんか!! ジャパンモビリティショーのために、わざわざ東京・八王子の設置場所から分解して運んできたという。

順番に室内へ。SF映画でおなじみ、入り口直後の減圧室では、車外から戻ってきた隊員たちが、シャワーならぬ勢いよく吹き出すエアを浴びるそう。「人類がいまだ知らない病原体を吹き飛ばすため?」とチラリと思ったが、実は細かい砂をできるだけ払い落として車内に持ち込まないため。「月は空気がないので細かい砂はとがったカタチのまま。不用意に吸い込むと、乗員の呼吸系に障害を与える恐れがあります」。そうか。水や風で角が丸められないからか。いまさらながら、地球人にとって宇宙は過酷だ。

トイレの便座は引き出し式。月に持っていく水は「ダイヤモンドと同じくらいの価値がある」ので、人からの排出物の処理も一苦労。「『ウォシュレット』はないんですか?」という軟弱な質問に、意外にも「携帯式を検討しています」と真面目な答えが返ってきた。

順番を待って、運転席に座らせてもらう。航空機用シートの親戚のようなアルミ骨格のシートは、倒すとそのままベッドになる。月面より6倍の重力がある地球なので、強度や耐久テストが難しいのだとか。手順とスムーズさに課題があって、さらなるブラッシュアップが求められている。

さて、ルナクルーザーの運転は、スターターボタンを押してからジョイスティックを備えた左右のレバーで行う。右手が操舵、左手が視点の変更だ(左右の入れ替えが可能)。前方のフロントスクリーンに通るべき道筋が表示され、それに沿うように走らせる。ゲーム感覚、というかゲームそのものの操作だが、月に降り立つ本番では、(ほぼ)未知の土地を、高低差や路面の荒れ具合を慎重に考慮しながら行かなければならないのだから、さぞや緊張することだろう。

月世界では、水をはじめとした地球から持ち込んだ資源、スペース、そしてエネルギーなど、すべてが貴重で究極的に節約して使わなければならない。ステアリングホイールならぬジョイスティックを使っての運転もその一環。ルナクルーザーでは装備のそれぞれが意味を持っていて、説明されるたびに感心することしきり。体験できてラッキーでした。

前述のとおり、ルナクルーザーのタイヤはブリヂストン製。車両部分はトヨタ、与圧キャビンは三菱重工の協力を得て開発している。2030年までに、国際的な月面開発計画のひとつとして、アメリカのロケットで月に打ち上げられる計画となっている。夢のようですね!?

(文=青木禎之/写真=青木禎之、峰 昌宏/編集=関 顕也)

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