デビュー40周年で伝説に!? トヨタの“ハチロク”はどんなクルマだったのか?
2023.11.06 デイリーコラムとにかくキレてる!
初めてAE86に乗った日のことは、昨日のことのように……と書くと大げさにすぎるけれど、はっきりと覚えている。
埼玉の新大宮バイパス沿い、大宮と上尾のちょうど中間にある中古車屋。大学1年生の1年間をバイトに明け暮れてお金をためたと記憶しているから、あれは2年生のときか。であれば1987年に、昭和59年型の「トヨタ・カローラレビンGTV」(型式名:AE86)を手に入れた。いまと違って当時は、元号で年式を表記するのが一般的だった。
値段はコミコミで100万円ぐらいだったか、当時の相場でも割安だったのは過走行の個体だったから。6万kmか7万kmほど走っていたと記憶している。
で、新大宮バイパスに乗り出して、びっくりした。シフトアップがうまくできない! クラッチを切った瞬間に、ストンとエンジン回転が落ちるから、素早くシフト操作をしないとスムーズにシフトアップできなかった。
でも、乗りにくいとは思わなかった。カミソリのような切れ味だと思った。実際、コツを覚えて上手にシフトできるようになると、めっちゃ楽しいエンジンだった。3000rpmを超えると、タコメーターの盤面を駆け上がる針のスピードが増して、パワーがもりもり湧いてくる。カキーンというソリッドな音もかっちょよかった。
低回転域では不機嫌だったけれど、扱いにくいとは思わなかった。低回転域での不機嫌さと、高回転域でのご機嫌さとのギャップに、「これがスポーティーなエンジンか」と感心した。なんせ初心者だったので。
いまになって思えば、前のオーナーが軽くチューンしていた疑惑もある。それでも、AE86の魅力のひとつは、4A-G型の1.6リッター直列4気筒16バルブエンジンにあったのは間違いない。
就職してから「ユーノス・ロードスター」に乗り換えたけれど、ユーノスのB6型1.6リッター直列4気筒16バルブエンジンは、なんてまったりしているんだろうと、がっかりした覚えがある。屋根が開くのはサイコーだったけれど、4A-G型の電光石火のレスポンスに比べると、B6型は気の抜けたコーラみたいだった。スカッと爽やかだった4A-Gが懐かしかった。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
クルマとヒトとのいい関係
内装はよく言えばシンプルというか、素っ気なくて安っぽかった。だから運転していると、クルマに乗っているというよりも、エンジンに乗っているような気分だった。にぎやかで、高回転域でクォーンと伸びて、だから街なかを走っているときも、無意味にブオン! と中ブカシを入れて、シフトダウンを繰り返した。加速を求めたりエンジンブレーキのためにシフトダウンしたりするのではなく、目的のない純粋なシフトダウン行為だ。特にトンネルの中ではワイルドな排気音が反響してキモチがよかった。
シフトフィールもまずまずだった。シフトレバーを東西南北、どの方向に動かしても節度があって、少なくともシフトミスのおそれは少ない。でも、シフトフィールに関しては、ユーノス・ロードスターが一枚も二枚も上手だった、と記憶している。ユーノスがスポーツカー的な心を震わせるシフトフィールだったのに対して、ハチロクはカチャコンカチャコンと、確実に作動はするものの、工作機械っぽかったのだ。
運転免許を取って間もないタイミングでハチロクに乗り始めたので、最初はFRがどうとか、よくわかっていなかった。けれども、クルマ好きの仲間とジムカーナごっこをやっているうちに、だんだん後輪をコントロールする感覚がわかってきた。GTVというグレードはノンパワーの重ステだったので、車庫入れには苦労したけれど、前輪がどんな状況で地面と接するかをダイレクトに伝えてくれた。
そうこうするうちに、山道ではちょこっとお尻を滑らせるようなこともできるようになった。テールスライドをお尻で感じながらカウンターステアをあてる、その一連の行為のタイミングがドンピシャで合うと、自分の手のひらでクルマを遊ばせているような達成感を味わえた。
エンジンにしろハンドリングにしろ、ハチロクの魅力をひとことで表現すればダイレクト感、ということになる。クルマと人間がタイマンを張っている。どっちがエラいわけでもなく、対等の関係にある。
いまは、クルマが随分とエラくなってしまった。安全を考えればそれは正常な進化であるけれど、技術を極めれば、もう一度タイマンを張っていると思えるクルマがつくれるのではないか。ハチロクのことを思い出しながら、そんなことをつらつらと考えるのである。
(文=サトータケシ/写真=トヨタ自動車/編集=関 顕也)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
-
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える 2025.10.20 “ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る!
-
スバルのBEV戦略を大解剖! 4台の次世代モデルの全容と日本導入予定を解説する 2025.10.17 改良型「ソルテラ」に新型車「トレイルシーカー」と、ジャパンモビリティショーに2台の電気自動車(BEV)を出展すると発表したスバル。しかし、彼らの次世代BEVはこれだけではない。4台を数える将来のラインナップと、日本導入予定モデルの概要を解説する。
-
ミシュランもオールシーズンタイヤに本腰 全天候型タイヤは次代のスタンダードになるか? 2025.10.16 季節や天候を問わず、多くの道を走れるオールシーズンタイヤ。かつての「雪道も走れる」から、いまや快適性や低燃費性能がセリングポイントになるほどに進化を遂げている。注目のニューフェイスとオールシーズンタイヤの最新トレンドをリポートする。
-
マイルドハイブリッドとストロングハイブリッドはどこが違うのか? 2025.10.15 ハイブリッド車の多様化が進んでいる。システムは大きく「ストロングハイブリッド」と「マイルドハイブリッド」に分けられるわけだが、具体的にどんな違いがあり、機能的にはどんな差があるのだろうか。線引きできるポイントを考える。
-
ただいま鋭意開発中!? 次期「ダイハツ・コペン」を予想する 2025.10.13 ダイハツが軽スポーツカー「コペン」の生産終了を宣言。しかしその一方で、新たなコペンの開発にも取り組んでいるという。実現した際には、どんなクルマになるだろうか? 同モデルに詳しい工藤貴宏は、こう考える。
-
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
NEW
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。 -
NEW
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える
2025.10.20デイリーコラム“ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る! -
NEW
BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ(FR/8AT)【試乗記】
2025.10.20試乗記「BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ」と聞いて「ほほう」と思われた方はかなりのカーマニアに違いない。その正体は「5シリーズ セダン」のロングホイールベースモデル。ニッチなこと極まりない商品なのだ。期待と不安の両方を胸にドライブした。