964型「ポルシェ911」のプロフェッショナル集団! シンガー・ビークル・デザインの仕事を知る
2023.11.20 デイリーコラムシンガーのファウンダーはシンガー
突然ですが筆者は大のアイアン・メイデン好き。初代ヴォーカリスト、ポール・ディアノの渋い歌声も好みだけれど、やっぱり今もフロントを務めるブルース・ディッキンソンのハイトーンでパワフルな歌いっぷりに“シンガー”としては憧れる。何度もコピーしては自分の才能のなさに落ち込んだものだ。(はい、ヘビーメタル好きですが、何か?)
コイツ何を言い出すんだ、いったい? と、さぞかしいぶかしんでおられる方ばかりとは思いますが、いま少しお付き合いのほどを。
ディッキンソンの従兄弟(いとこ)にロブ・ディッキンソンというヴォーカリスト、つまり“シンガー”がいて、キャサリン・ホイールというオルタナロックバンドで一時期活躍した。大のクルマ好き、「911」好き。そう、彼こそは今はときめく“シンガー”のファウンダー。ポルシェ911のレストアに始まった会社は今や世界のクルマ好きセレブリティーに拍手を持って迎え入れられる存在にまで急成長している。たった15年で!
彼自身“シンガー”だったから“シンガー”というブランド名を選んだ、というのは有名な話だけれど、ポルシェ狂のロブのことだから「935」や「956」といったレーシングカーを開発した伝説のエンジニア、ノルベルト・ジンガー(Singer)への敬意を評した名称でもあったに違いない。
ポルシェのクレストは外さない
以上のようなことを筆者はこの順番で知ったのではもちろんない。逆だ。シンガーという分かりやすい名のついたナローの存在を知って調べてみるとそういうことだったので驚き、興味を持った次第。なんといってもアイアン・メイデンの従兄弟が始めたブランドなのだから!
初めてシンガーを見たのはもうかれこれ10年以上も前のこと。シンガー史には2009年に会社を設立して初めてモントレー・カーウィークに出展となっている。筆者も1996年から毎年のようにかの地を訪れていたのでおそらくその年に初めて見たのだろう。カリフォルニア生まれのブランドだからモントレーイベントへの参加は当然のことだった。
泡沫(ほうまつ)ブランドかそうでないかを見極めるコツは、同じイベントに毎年参加し、展示車のクオリティーを上げてくるかどうかを観察することに尽きる。シンガーは毎年のようにザ・クエイルで開催されるモーター・スポーツ・ギャザリングの入り口付近に展示され、注目を集めてきた。それが今も続いているというのだから“本物”だ。
もっとも他のド派手なブースを構えるブランドとは違って、シンガー・ビークル・デザインはメーカーでもなければ販売会社でもない。あえてくくるとすれば“ポルシェ911専門のレストア&カスタマイズ”会社。見た目には911の歴史的デザインを尊重したオーセンティックなスタイルとし、パフォーマンスや内外装に顧客の好みを反映した世界に一台の嗜好(しこう)品を製作する。それがシンガーである。だから例えば独ルーフ社のようにポルシェのクレストを外すことはない。彼らはあくまでもポルシェ911を顧客のオーダーに沿ってカスタマイズしている。まさにシンガーによる911のリイマジンド=再構築であった。もっとも彼らもすでにTUVのメーカー認証を取得している。今後、また新たな展開もあるのだろうか……。それはさておき。
レストアプログラムは3種類
メーカーでもディーラーでもないシンガーの顧客になるためにはまずレストレーションに供する個体(彼らは1989年から1994年まで生産された964シャシーをベースにする)を用意しなければならない。それがカリフォルニアのファクトリー(今年トーランスに巨大なファクトリーを新築した)へと送られ、バラバラにされたのち、オリジナルのシャシーをベースに純正部品はもちろん、数々の専用パーツ(カーボンファイバーボディーパネルなど)を使って新たな911へと生まれ変わる。
現在、彼らがカスタマイズするのは964をベースに「901」風のスタイリングを与えた「クラシックスタディー」というモデル。450組限定で、今回日本に正規輸入された個体もその一台だ。搭載するエンジンに関しては、964用の3.6リッターフラット6をベースに3.8リッター版や4リッター版を選ぶことができる。残念ながらすでにオーダー枠は埋まっており、これからシンガーにカスタマイズを頼みたいという場合には次のモデル「ターボスタディー」となる。こちらは同じく964をベースに「930ターボ」風に仕上げるプログラムだ。
その他シンガーは英国にも拠点を持ち、そちらではよりヘビーなカスタマイズのプログラムを実施する。「DLS(ダイナミック&ライトウェイティングスタディー)」と呼ばれるもので、読んで字の如く軽量化とエアロダイナミクス、パワートレインをさらに進化させた。エンジンや空力の開発にはF1で有名なウィリアムズが協力している。こちらにもクラシックとターボという2種類のプログラムが用意される。
(文=西川 淳/写真=永三MOTORS/編集=藤沢 勝)

西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。
-
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える 2025.10.20 “ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る!
-
スバルのBEV戦略を大解剖! 4台の次世代モデルの全容と日本導入予定を解説する 2025.10.17 改良型「ソルテラ」に新型車「トレイルシーカー」と、ジャパンモビリティショーに2台の電気自動車(BEV)を出展すると発表したスバル。しかし、彼らの次世代BEVはこれだけではない。4台を数える将来のラインナップと、日本導入予定モデルの概要を解説する。
-
ミシュランもオールシーズンタイヤに本腰 全天候型タイヤは次代のスタンダードになるか? 2025.10.16 季節や天候を問わず、多くの道を走れるオールシーズンタイヤ。かつての「雪道も走れる」から、いまや快適性や低燃費性能がセリングポイントになるほどに進化を遂げている。注目のニューフェイスとオールシーズンタイヤの最新トレンドをリポートする。
-
マイルドハイブリッドとストロングハイブリッドはどこが違うのか? 2025.10.15 ハイブリッド車の多様化が進んでいる。システムは大きく「ストロングハイブリッド」と「マイルドハイブリッド」に分けられるわけだが、具体的にどんな違いがあり、機能的にはどんな差があるのだろうか。線引きできるポイントを考える。
-
ただいま鋭意開発中!? 次期「ダイハツ・コペン」を予想する 2025.10.13 ダイハツが軽スポーツカー「コペン」の生産終了を宣言。しかしその一方で、新たなコペンの開発にも取り組んでいるという。実現した際には、どんなクルマになるだろうか? 同モデルに詳しい工藤貴宏は、こう考える。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。