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自動運転の未来はここに! ホンダとGMの次世代タクシーサービスはうまくいくのか?

2023.11.22 デイリーコラム 渡辺 敏史
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国内でもすでに始まっている

道交法の改定によって2023年4月、日本でのレベル4の自動運転車の公道走行が解禁となりました。レベル4とは車両自体のドライバーレスでの走行は可能ながら、万一の事態に備えて車両を安全に御する人的な遠隔監視機能等を要するものです。

この解禁に向けて長年準備を重ねてきた福井県永平寺町では、同年5月からレベル4車両の事業運用が始まっています。周辺状況に加えて自動運転車両から送られてくる映像や音声データを、1人のオペレーターが最大4台まで監視しつつ、永平寺口駅と永平寺門前とを結ぶ参道のうち約2kmをドライバーレスで走行。最高速は12km/hというから、軽~く漕(こ)いでる自転車くらいの感じでしょうか。日本の過疎地のラスト1マイル的な移動を考えるうえでも重要な実証のひとつとなるはずです。

と、その永平寺の自動運転車両が10月29日、事故を起こしてしまいました。といっても路上に停車された自転車のペダル部に、4km/h程度で接触したという話。乗客にもけがはなかったそうですが、オーバーライドの有無や作動なども含めて原因が究明するまでは運行停止となっているようです。降雪や氷結のある冬季はもともと運休想定だったので、再開は来春になるのかもしれません。何より、新聞やニュースで「レベル4初の事故」なんてまくし立てられたもんですから、なんか相当やらかした的な印象が植え付けられました。

2023年4月の「自動運転レベル4」解禁を受けて、同年5月21日に、福井県永平寺町で国内初となる自動運転移動サービスが開始された。写真は、それに先立ち行われた記念式典の様子。
2023年4月の「自動運転レベル4」解禁を受けて、同年5月21日に、福井県永平寺町で国内初となる自動運転移動サービスが開始された。写真は、それに先立ち行われた記念式典の様子。拡大
永平寺町で運用された自動運転車。ヤマハ発動機と産業技術総合研究所、三菱電機、ソリトンシステムズが開発した、ゴルフカートタイプの移動用車両である。
永平寺町で運用された自動運転車。ヤマハ発動機と産業技術総合研究所、三菱電機、ソリトンシステムズが開発した、ゴルフカートタイプの移動用車両である。拡大
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「柔軟な判断」が未来を決める

と、そこで考えなければならないのは、一体どこの誰が自動運転を欲しているのかということ。一にも二にも優先されるべきは社会ですよね。高齢化の最先端をいく日本では物流と同じく、旅客業の側も人手不足が深刻です。平日の昼間なのになんでバスがこんなに混み混みなわけ? タクシー全然捕まらないのどういうこと? ……的な経験をされた方もこのところは多いのではと思いますが、これ、コロナ禍によって減った運転手が戻らず、リバウンドした需要に対応できていないというのも大きな一因です。

とにかく足りない人手をどう補うか、いろんな業界が苦戦しているなか、運輸業界も物流の連結トラックやらタクシー配車のAI予測やらと、ハード的にもソフト的にも効率向上をひっちゃきになって考えています。そんななかで、運行現場に人員を必要としない自動運転がもたらす利はいかばかりか。それは事業者の都合だけではなく、回り回ってわれわれの移動の自由が将来的に適価で担保されるか否かという話にも関わってきます。人手の足りない盆暮れにバスに乗ると料金2倍、タクシーなら5倍……なんて理不尽な事態が起こり得る、その時は近づいているわけです。

と、そういう背景を認識したうえで自動運転の必要性をどう考えるか、そして普及までの過程で機械相手にどこまで粗相を許すことができるのか、そういう受容性をいよいよ社会全体で熟考すべき時にきているのではないでしょうか。事故に程度の大小なしという原理原則は理解する一方で、粗相に対してはおのおのの状況に応じた柔軟な判断ができるか否か。ITによってさまざまな曖昧が可視化された揚げ句、融通の利かない白黒判定が日々の暮らしを息苦しくしているなか、清濁併せのむ大人の社会にならなければ、自動運転のブレークスルーは起こらないのかもしれません。

2021年に開催された東京オリンピック・パラリンピック競技大会では、トヨタの自動運転車両「e-palette」が運用され話題となったものの、同年8月26日、選手村で歩行者と接触する事態に。その後、歩行者の移動ルールや車両オペレーション、誘導員を含むインフラの見直しが行われ、5日後の8月31日に運行が再開された。
2021年に開催された東京オリンピック・パラリンピック競技大会では、トヨタの自動運転車両「e-palette」が運用され話題となったものの、同年8月26日、選手村で歩行者と接触する事態に。その後、歩行者の移動ルールや車両オペレーション、誘導員を含むインフラの見直しが行われ、5日後の8月31日に運行が再開された。拡大
「トヨタe-palette」車内からの風景。同車は自動運転で走行できるが、マニュアル操作による加減速や停止にも対応している。
「トヨタe-palette」車内からの風景。同車は自動運転で走行できるが、マニュアル操作による加減速や停止にも対応している。拡大

まずは商用での成功から

ホンダは提携先のゼネラルモーターズ(GM)およびGMクルーズと合弁会社を立ち上げて、レベル4以上を前提とした自動運転専用車両の「クルーズ・オリジン」を用いたタクシーサービスを2026年以降に開始する予定です。その覚書を交わしたことがさる2023年10月19日に発表され、話題になりました。

が、その1週間後にはクルーズが米国のカリフォルニア州で先駆けて展開していたタクシーサービスの営業許可停止が、管理局から言い渡されました。

歩行者事故を巡る車両制御の不具合や事故報告の過少申告を指摘されてのものです。クルーズはこの夏にも複数の自動運転車が1カ所に集まって渋滞をつくるなどのトラブルが連続していましたが、この許可停止を契機に他地域での運行も取りやめ、現在はソフトウエアの改修に着手しています。

ホンダにとってはなんとも間の悪い話なわけですが、社会実装のためのトライ&エラーに対する、かの地の人々の寛容さは、やはり国民性などに起因するものなのでしょう。自動運転の話になると、とかくトロッコ問題(どのような操作・選択をしても被害が出るという状況でAIはどう判断するのかという議論)が取り沙汰されますが、利便のための失敗を前向きに理解しようとする精神性は日本には求めがたいものです。自動運転の普及には地域の倫理観が深く関わるとするならば、ホンダはGMと組むことで多様な価値基準や経験値を共有できるという、そこに学びを求めているのかもしれません。

と、各国事情がどうであれひとつ言えるのは、レベル4以上の自動運転はまず旅客事業の継続や安定という公益のために普及すべきであって、大富豪がお座敷列車みたいに乗り回すエゴな話はその後についてくるべきものということです。商用車から自家用車へと普及の広がったクルマの歴史がそうであったように、まずはその利便が社会に浸透、認知されることが大事なのだと思います。

(文=渡辺敏史/写真=ヤマハ発動機、トヨタ自動車、本田技研工業/編集=関 顕也)

本田技研工業とGMクルーズホールディングス、ゼネラルモーターズの3社は、日本での自動運転タクシーサービスを担う合弁会社の設立に向けて、2023年10月19日に基本合意書を締結した。写真は、ホンダの三部敏宏社長(左)とGMクルーズのカイル・ヴォクトCEO(右)。
本田技研工業とGMクルーズホールディングス、ゼネラルモーターズの3社は、日本での自動運転タクシーサービスを担う合弁会社の設立に向けて、2023年10月19日に基本合意書を締結した。写真は、ホンダの三部敏宏社長(左)とGMクルーズのカイル・ヴォクトCEO(右)。拡大
ホンダとGMクルーズ、GMが共同開発した自動運転専用車両「クルーズ・オリジン」。配車から決済までの手続きは、すべてスマートフォンのアプリで完結。指定場所までの送迎は自動運転で行われる。
ホンダとGMクルーズ、GMが共同開発した自動運転専用車両「クルーズ・オリジン」。配車から決済までの手続きは、すべてスマートフォンのアプリで完結。指定場所までの送迎は自動運転で行われる。拡大
「クルーズ・オリジン」の車内は、ご覧のとおり。対面の6人乗りとなっている。
「クルーズ・オリジン」の車内は、ご覧のとおり。対面の6人乗りとなっている。拡大
ホンダが発表した自動運転タクシーサービスは、2026年初頭に東京都心部で始められる見込み。日本で最も交通量が多く、最も多彩で走行難易度の高い場所において、まずは数十台でスタート。500台規模でのサービス運用が予定されている。
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渡辺 敏史

渡辺 敏史

自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。

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