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ケンメリ? チャレンジャー? 議論百出の「ミツオカM55コンセプト」のデザインモチーフを探る

2023.12.06 デイリーコラム 沼田 亨
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第一印象はダッジ・チャレンジャー

先日、ミツオカの創業55周年記念として発表された「M55コンセプト」。そのモチーフというかイメージをめぐって、世間では大いに盛り上がっているようだ。通称“ケンメリ”こと4代目「日産スカイライン」や「ダッジ・チャレンジャー」から初代「日産バイオレット」、初代「トヨタ・セリカ リフトバック」などなどさまざまな意見が飛び交っているようだが、webCGでも関連記事が週間アクセスランキングでしばし上位をキープ、フェイスブックやXなどSNSにも多くのコメントが寄せられているという。

そんな状況を見て、編集担当のF氏から連絡がきた。いわく読者はM55コンセプトそのものに興味があるのはもちろんだが、どうやら以前に筆者が寄稿した「みんなマッスルカーになりたかった!? 1970年代の国産車のデザイントレンド」のような、この手のデザインの話が好きらしい。よってM55コンセプトのモチーフをリアルタイマーの視点から考察せよ、というわけだ。

私自身がM55コンセプトの顔つきを見て、最初に似ていると思ったのはダッジ・チャレンジャーだった。といっても1970年代の初代ではなく、2008年に市販開始された3代目にして現行モデルである。そう記したところでデビューから15年の長寿車になりつつあることに驚くが、それはともかくチャレンジャーも現行「ホンダ・シビック」をベースとするM55コンセプトも、言うまでもなく現代車。安全対策などでボンネットが高く、マスクに厚みがある。そうしたことを含めて両車は似た印象を受けるのだ。

黒基調のグリルの中央部分にあしらわれたクロームのモールもチャレンジャーとM55コンセプトの共通点。そのいっぽうで、初代チャレンジャーやケンメリに見られるグリルを縁取るクロームのモールはM55コンセプトだけだ。

ミツオカM55コンセプト
ミツオカM55コンセプト拡大
1972年「日産スカイライン ハードトップ2000GT-X」。通称ケンメリのデビュー時のイメージリーダーたるトップモデル。
1972年「日産スカイライン ハードトップ2000GT-X」。通称ケンメリのデビュー時のイメージリーダーたるトップモデル。拡大
1970年「ダッジ・チャレンジャーR/Tハードトップ」。ケンメリが影響を受けたのではないか、といわれるモパー(クライスラー)の代表的なマッスルカー。
1970年「ダッジ・チャレンジャーR/Tハードトップ」。ケンメリが影響を受けたのではないか、といわれるモパー(クライスラー)の代表的なマッスルカー。拡大
2008年「ダッジ・チャレンジャーR/T」。初代をモチーフにして登場した3代目にして現行となるチャレンジャー。ボンネットが高いため、グリルが縦方向にふたつ収まるほどマスクに厚みがある。それは「M55コンセプト」も同様。
2008年「ダッジ・チャレンジャーR/T」。初代をモチーフにして登場した3代目にして現行となるチャレンジャー。ボンネットが高いため、グリルが縦方向にふたつ収まるほどマスクに厚みがある。それは「M55コンセプト」も同様。拡大
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正解は知る人ぞ知るワークスマシン!?

というわけで、顔つきについての第一印象はチャレンジャーだったのだが、SNSで「なるほど、それがあったか!」というコメントを見かけた。「丸みのあるフロントフェンダーの膨らみを含めて、『バイオレット ターボ』だろ」という意見である。

バイオレット ターボとは、初代「日産バイオレット ハードトップ(K710)」の前後フェンダーをブリスター化したボディーに、1.8リッター直列4気筒SOHCのL18型をベースにDOHC 16バルブヘッドを載せ、ターボチャージャーを装着したエンジンを搭載した日産のワークスマシン。1974年にサーキットデビューしたが、石油危機の直後で国内レース界が冷え込んでいたため、海外レースにしか参戦していない。よって一般的な知名度は高くないが、見た目のカッコよさからプラモデル化されたという、知る人ぞ知るモデルである。

筆者のコラム「曲線美の誘惑~1970年代前半の日産車に見る独特のデザイン」でも紹介した、初代バイオレットの曲線を多用したデザインをよりグラマラスにしたターボのフォルムは、確かにM55コンセプトに通じるものがあると思う。ありえない話ではあるが、もしバイオレット ターボのベースが2ドアハードトップではなく、クーペに近いファストバックのルーフラインを持つ4ドアセダンだったら、サイドビューもより似ていたかも、なんて気がしないでもない。

実際にはサイドビューはアレンジが難しいので、M55コンセプトではほぼシビックのままである。だがリアビューに関しては、マスクと同様に1970年代のスポーティーカー風に見せようとしている。リアエンドのマットブラックのガーニッシュはケンメリやセリカ リフトバックを連想させるが、見た瞬間に頭のなかに思い浮かべたのは、現行チャレンジャーと同様に初代をモチーフとして2005年に登場した5代目「フォード・マスタング」だった。

筆者が知る限りでは「ランボルギーニ・ミウラ」に端を発するリアウィンドウルーバーも、1970年代のスポーツ&スポーティーカーに好まれたアイテム。ファストバックのようにリアウィンドウが強く傾斜しているモデルに限られ、さすがに日本車では標準装着されたモデルはなかったが、純正オプションとしての設定は少なからずあり、社外品も多く出回っていた。

ミツオカM55コンセプト
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1975年4月に筑波サーキットで行われたレースの際に、高橋国光選手がステアリングを握りデモランを披露した「日産バイオレット ターボ」。
1975年4月に筑波サーキットで行われたレースの際に、高橋国光選手がステアリングを握りデモランを披露した「日産バイオレット ターボ」。拡大
ミツオカM55コンセプト
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1972年「日産スカイライン2000GT」。マットブラックのリアガーニッシュは、当時のスポーティーカーの間ではよく見られる意匠だった。
1972年「日産スカイライン2000GT」。マットブラックのリアガーニッシュは、当時のスポーティーカーの間ではよく見られる意匠だった。拡大
2012年「フォード・マスタングBOSS 302」。1969年に登場した初代マスタングの競技用ホモロゲーションモデルの復刻版。
2012年「フォード・マスタングBOSS 302」。1969年に登場した初代マスタングの競技用ホモロゲーションモデルの復刻版。拡大
純正オプションのリアウィンドウバイザーを装着した1971年「三菱ミニカ スキッパーGT」。スポーティーカーにふさわしいアイテムとして、軽スペシャリティーカーにまで用意されていた証拠である。
純正オプションのリアウィンドウバイザーを装着した1971年「三菱ミニカ スキッパーGT」。スポーティーカーにふさわしいアイテムとして、軽スペシャリティーカーにまで用意されていた証拠である。拡大

ハトメ付きシートに見るミツオカのこだわり

そのほかエクステリアでは、ホワイトレター入りのタイヤは1970年代のアメリカンマッスルカー風だ。TWS製ホイールはいかにも現代風なので、クラシックなデザインの選択肢はなかったのかとは思う。

いっぽうインテリアに目を向けると、ミツオカのほかのモデルと同様にベース車と大きくは違わない。エアバッグのほかにもさまざまなスイッチやセンサーが内蔵されているため、ステアリングホイールの交換さえままならない現代車となれば、致し方ないところだろう。

ただしハトメ(鳩目)を使ったシートの表皮は、いかにも当時風である。1960年代のコンペティション用バケットシートから始まったと思われる、通気をよくするためにハトメをあしらったシートは、1970年代の国産スポーティーカーにもけっこう装着されていた。

【写真A】は1970年に日産初のFF車としてデビューした初代「チェリー」の高性能グレード「X-1」。型式名TE27こと初代「カローラレビン/スプリンタートレノ」や初代「マツダ・サバンナ」、初代「ホンダZ」などの一部グレードでも見た覚えがあったのでカタログなどで確認したところ、珍しく記憶は正しかった(笑)。もちろん、これらのほかにも存在していたはずである。

といった具合で、簡単ではあるがM55コンセプトのモチーフを筆者なりに探ってみた。それらのオリジナルをほぼリアルタイムで眺めてきた私としては、正直言ってM55コンセプトに引かれることはない。とはいうものの、否定するつもりもない。SNSに寄せられたコメントを見れば分かるように、その時代の空気を知らない世代にとっては新鮮に感じられたり、魅力的に映ったりすることは理解できるからだ。なので、これはこれでありだと思う。

編集担当のF氏が「シビックをベースとして1970年代の国産スポーティーカー風に、とAIに命じて生成されたような感じですかね?」と冗談交じりに語っていたが、まさにそうしたことに抵抗のない世代には、M55コンセプトは素直にカッコイイと認識され、受け入れられるのではないだろうか? と価値観が凝り固まった前期高齢者は思ったのだった。

(文=沼田 亨/写真=光岡自動車、日産自動車、ステランティス、日産モータースポーツ&カスタマイズ、フォード、三菱自動車、ゼネラルモーターズ/編集=藤沢 勝)

「M55コンセプト」のホワイトレタータイヤ。銘柄がミシュランではなくアメリカンブランドだったらと思うが、タイヤの性能や日本での入手の容易性などを考えたら、ないものねだりなのだろう。
「M55コンセプト」のホワイトレタータイヤ。銘柄がミシュランではなくアメリカンブランドだったらと思うが、タイヤの性能や日本での入手の容易性などを考えたら、ないものねだりなのだろう。拡大
1973年「シボレー・コルベット スティングレイ」。当時のアメリカンブランドのタイヤといえば、グッドイヤー、ファイアストン、BFグッドリッチ、そしてこのユニロイヤルなど。
1973年「シボレー・コルベット スティングレイ」。当時のアメリカンブランドのタイヤといえば、グッドイヤー、ファイアストン、BFグッドリッチ、そしてこのユニロイヤルなど。拡大
座面、背面の表皮にハトメをあしらった「M55コンセプト」のシート。
座面、背面の表皮にハトメをあしらった「M55コンセプト」のシート。拡大
【写真A】1970年「日産チェリーX-1」のシート。フロントは当時はやったヘッドレスト一体式のハイバックシートである。フロント、リアともにハトメ付きだが、TE27「カローラレビン/スプリンタートレノ」ではフロントのみがハトメ付きだった。
【写真A】1970年「日産チェリーX-1」のシート。フロントは当時はやったヘッドレスト一体式のハイバックシートである。フロント、リアともにハトメ付きだが、TE27「カローラレビン/スプリンタートレノ」ではフロントのみがハトメ付きだった。拡大
沼田 亨

沼田 亨

1958年、東京生まれ。大学卒業後勤め人になるも10年ほどで辞め、食いっぱぐれていたときに知人の紹介で自動車専門誌に寄稿するようになり、以後ライターを名乗って業界の片隅に寄生。ただし新車関係の仕事はほとんどなく、もっぱら旧車イベントのリポートなどを担当。

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