プジョーRCZ(FF/6MT)【試乗記】
飛ばして光るライオン 2010.12.14 試乗記 プジョーRCZ(FF/6MT)……466万円
スタイリングが個性的なプジョーのスポーツクーペ「RCZ」に試乗。6段MTモデルの走りを確かめた。
ミドシップ仕様を作ったらどうか
東京の街中で「RCZ」を見る。とても自己主張の強いスタイリングだ。この形は「308RCZコンセプト」として2007年秋のフランクフルトショーで公開されたのが最初と記憶している。筆者も実際、現地で見た。早いものであれからすでに3年が経過したわけだが、ほとんど“鮮度”が落ちていないように思う。道行く人たちもチラチラこちらを見ている。
そしてこの形、あらためて眺めてみると、けっこう風変わりなプロポーションを持っていることに気付いた。キャビンが相対的にボディの前方に寄っていて、そういう意味ではミドシップカー的な“偏り”があるが、フロントセクションのボリューム感はどう見たってFF的である(実際はFFレイアウト車だ)。
あるいはルーフには左右ふたつの盛り上がりがあり、ザガートが発案したとされる「ダブルバブル」(ヘッドクリアランスを捻出する意味があった)を思わせる形状になっている。しかし室内側から見ると特に盛り上がっているふうもなく、これは単にデザイン的なアクセントにすぎないらしい。つまり、形態は機能に従って“ない”のである。このひょうひょうとした姿勢に衒(てら)いがないぶん、筆者の目には現代的でクールに見える。
キャビン後方のトランクがいったいどうなっているのか。そこがずっと気になっていたのでまず最初に開けてみた。別にこれといって凝った工夫はなかったが、全長4.3m級の2+2クーペにしては、やはりトランクの前後長がとても長かった。
仮にリトラクタブルハードトップ仕様を作っても、畳んだルーフはここに余裕で収まりそうだし、それこそ「ルノー・サンク・ターボ」や「クリオV6」みたいにエンジンを詰め込んでも、レイアウト的に成立しそうな感じもある。本当にユニークなカタチだ。
スポーツカーかスペシャルティカーか
わが道をいくといえば、乗り心地もしかり。「RCZ」シリーズの中で6ATの方はともかく、6MT仕様車はいわゆる“ネコ足のプジョー”とはひと味違った、ゴツンとハードなセッティングの足まわりを持っている。ひと昔前、スペシャルティカーと呼ばれるカテゴリーがあったが、この乗り心地はそこに属さない。もはやスポーツカーと呼んでいいだろう。
それでいて、このクルマの操作系は、全体的にスペシャルティカーっぽいスマートなタッチで貫かれている。たとえば、ステアリングやクラッチペダルなど、“スポーツカーの感覚器”ともいえる部分の操作感が軽い。また、ブレーキがオーバーサーボ気味なのかイニシャルバイト(初期の食いつき)が実用ハッチバック車のようにやや強く、いわゆる踏力によるブレーキコントロールに若干の慣れを要したりする。
それと、MT車だというのに、スロットルペダルを踏み込んだ奥に、AT車キックダウンスイッチのようにペコンとへこむものがある。もしかして、キックダウンスイッチが残ってしまっている? まさかそんなことはないと思うが……。
細かなことだが、こういうところの“すり合わせ”がピタリと決まってくると、がぜん緊張感が高まって、凡百(ぼんぴゃく)のスポーティカーから抜け出た記憶に残るクルマになってくるのかと思う。いまどき、これほどスタイリッシュな専用ボディを持ちながら、MTなどという原理主義的(?)なバリエーションを用意してくれているクルマなどそんなにない。
いっそのこと、見てくれも手ごたえも、もっとスポーティ方向に振ってしまえばいいのに、などと考えながら箱根のワインディングロードに一歩踏み入れたところ、このクルマの本性が現れた。そんな心配をする必要など、全然なかったのである。
しかしてその実体はハンドリングマシン
まずエンジンが、高回転まで引っ張ってやると、がぜんいい調子になってきた。200psを発生させる1.6リッターターボユニットは、十分な低速トルクを備え、とても扱いやすい。しかしその真骨頂は、エンジンサウンドが快音に変わってくる中速から高速にかけての領域にあるのは明らかだ。4000〜6000rpmを維持しながら走ると、ホットハッチ的(と呼ぶにはボディがちょっと重い感じだが……)切れ味を見せるようになってきた。
そしてコーナリングが思いのほか速い。硬い足まわりのおかげで、ステアリングを切るとノーズがすっと、まるで平行移動するかのように曲がる。しかも235/40R19という立派なサイズのタイヤが路面をとらえて離さない。切り増せば切り増しただけノーズはぐいっとコーナーの内側を向き、ドライバーが望んだラインをたどることができる。
街中では硬さばかりが目立ったサスペンションも、よく観察しているとロールを拒んでいるのではなく、ゆっくりジワーッと姿勢を変化させていることもわかってきた。旋回中に路面のアンジュレーション(うねり)に遭遇しても、腰をへたり込ませるようなことはなく、ぐっとこらえて踏ん張ってくれる。
街中に生息している繊細な“ネコ足”というよりは、それなりに飛ばしてこそ光ってくる足腰の強い“ライオン足”といった感じか。このクルマを手にしたら、たまには本気で走らないともったいない。
(文=竹下元太郎/写真=荒川正幸)

竹下 元太郎
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