プジョーRCZ R(FF/6MT)
対話できる「R」 2014.04.17 試乗記 プジョースポールが手がけたハイスペックな「RCZ」に試乗。270psを生み出す1.6リッターターボユニットを搭載する「RCZ R」は、ドライバーに何を語りかけてくるのか? 箱根のワインディングロードを行く。これぞプジョーの操縦安定性
初期の「RCZ」にはあまりいい印象をもてないでいた。外観スタイリングはともかく、太く重いタイヤとホイールは乗り心地を悪化させているだけだった。
だから今回「R」の文字が追加されたとはいえ、乗り心地の悪いプジョーなんて……と思いつつ、あまり期待せずに乗り込んだ。
ところが乗り心地は大幅に改善されており、足まわりの華奢(きゃしゃ)な印象は払拭(ふっしょく)され、きちんと追従して接地しつつ、路面からの入力に対して適切なダンピングも確保されている。良路では無用な上下動なしでフラットに移動するプジョー感覚も戻っている。ま、当然といえば当然な話、あのままでプジョーの開発陣がヨシとしておくわけがない、と安心した。
最も好印象だったのが操縦安定性だ。プジョーはFRの時代からステア特性はニュートラルなものを志向してきた。旋回中心が全長のほぼ真ん中あたりにあって、ドライバーは自分を中心軸として回っていく感覚を味わえた。FFの時代になって、他の多くのFF車は旋回中心をずーっと後方(後軸あたり)にもち、前輪だけで回頭させて後輪はただ後をついていくだけ。それを安定性の高さとして評価する傾向もあった。FRにあっては、そんなFF的特性を今になって追尾しているところもある。
ところがプジョーは違った。FFでもニュートラルな特性を実現し、ドライバー中心の旋回感覚を楽しめる。筆者の耳には、かつてシトロエンの技術者から聞いた「アレはやりすぎだよ」という言葉が強く残っている。これは「206RC」の話の中で出た言葉で、筆者はステア特性としては206RCこそベストだと今でも思う。長いホイールベースを特徴とする直進安定性重視のシトロエン側から見れば、あそこまでNS(ニュートラルステア)化すると危ないと思ったのだろう。
操縦安定性の要素はステア特性だけではない。この種のスポーティーカーにとってステアリングの切り始めのレスポンスは重要。それは重いとか軽いとかの操舵(そうだ)力などを論じる前に、まずピッとノーズが反応するかどうかが問題。これも単にギア比を小さくとって前輪だけグイッと切れるレスポンスを言っているのではなく、剛性を上げただけでも駄目。もっと微細な領域の話で、切り始める最初の手首の感触や、旋回を開始するヨー発生の立ち上がりなどを問題とする。「406クーペ」の時にも同様の感触を味わえたが、フロントよりリアのトレッドを広げると、この初期旋回開始感覚を大いに助ける。
この辺の話はこれくらいにしよう。実はもっと「RCZ R」について書いておきたいことがあるのだ。
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LSDがもたらす快感のハンドリング
今回「ん?」と思って何度か確かめたのはLSD(リミテッド・スリップ・ディファレンシャル)感覚だ。乗り始めた時点ではまだスペックなど見てもいなかったから、このRCZ RにはLSDが装着されているなんてことを知らなかった。ハイパワーの後輪駆動車ならLSD装着は常識であるが、FFではほとんど装着例がない。
後輪駆動車は前輪に重心が移って荷重が減り、後内輪が空転する機会は多い。だからLSDは必需品でもある。FFは駆動輪荷重も大きく、それほどハイパワーなエンジンを搭載する例も少ない。
また一般的にFFはアンダーステアが強く、大きく舵角(だかく)が当たった状態でLSDでさらに駆動力を増すと、タックインとおなじ原理でスピンを招きやすい。また低速では、よりアンダーステアを強めると考えられていた。
筆者の記憶をたどると、FF車のLSD付き仕様に乗った経験は、「ホンダ・シティ ターボ」のレース仕様車しかない。アレは鈴鹿サーキットのプレス試乗会で乗せてもらったのだが、第1・第2コーナーへの進入など高速域でのパワーオンで絶大な駆動力を発揮した。前輪が舵角通りにグイグイと引っ張られてゆく特性は初めての経験で、ストレートの最高速のまま1コーナーに進入できたが、2コーナー入り口でちょっと戻したらすかさずスピンしてしまった。2周目はその轍(てつ)を踏まないようにラインを変えて踏みっぱなしで抜けた。あの時のLSD体験は強烈な印象として今でも少し覚えている。
で、今回このRCZ Rで久々にあの時のLSD感覚を思い出した。もとよりプジョーはニュートラルステアで、スロットルオフにしてもタックインはほとんどない。だからオン/オフしても姿勢変化のないまま駆動力が制動力に変わるだけ。そしてスロットルを踏み続けると旋回態勢はそのままで速度だけが上がってゆく。よりNS感覚が強まったともいえる。コレは面白い。快感以外の何物でもない。
LSDといってもいろいろなタイプがあり、クラッチ・オン/オフで空転を制限するだけのものも多いけれども、このトルセンLSDはウォームギア特有のねっとりしたフリクション感覚ゆえ、歯車同士の当たり面が長い(点接触ではなく線接触の)感じで、作動感は唐突でなくジワーッが持続する。だからLSDというより、ディファレンシャルなしのソリッドドライブのようにさえ感じる。
MTでエンジンと向き合う
エンジンも多少パワーアップされて270psと330Nm(33.7kgm)を発生する。前輪駆動車でこれだけあるとジャジャ馬的な挙動を連想するが、パワーを路面に伝えるシャシーの包容力やタイヤグリップはそれを上回り、何ら気兼ねなくフルスロットルを与えてもそう簡単にホイールスピンなどしない。
これはMTゆえに、路面とのコンタクトが繊細に観察できるからでもある。ATに乗るとどうしてもスロットルを雑に扱う習慣がついてしまう。精緻な踏み方をせず多少雑に扱っても、今のATは機械がうまく処理してくれるから破綻などしない。そんなある意味いい加減な操作で速く走れたって面白くもなんともない。だから正確な運転操作を楽しむにはMTに限る。
このMTは6段のギア比も見直されたようで、2速のレシオが1.92から2.04に下げられ、より1速に近づきステップアップの段差が少なくなった。個人的にはもっとクロスさせて、さらに3速も下げていいとさえ思うが、3速以降は変更なしで普通にクロスしている。
エンジンの出力特性は普段使いでもまったく問題ないほど実用的で、トップ6速ですら1500rpmあたりでトロトロ流せるほどだ。現代の電子制御技術はスゴイと思う反面、シフトレバーをかき回してギアポジションを選びながら、トルクの盛り上がり箇所を楽しむような面白みを奪ってしまっている。それでもMTで各ギアに固定して、エンジン回転の上げ下げで加速・減速感覚をダイレクトに楽しむことは、コーナーをより楽しいものにしてくれる。
今ではATでもギア固定が可能になっているものもあるが、場合によってはエンジンストップするほどのダイレクトさを伴うものではなく、ロックアップされていても、やはりオイルが介在する間接感覚はぬぐえない。またMTの面白さは、エンジンの高回転付近を楽しむのにも適している。タコメーターを注視しながらリミットぎりぎりまで使い切るとき、エンジンと対峙(たいじ)して勝ったような征服感というか快感を得る。
もっともRCZ Rのエンジンは、個人的にはあまり高回転域の感触に信頼をもてないでいる。今回ピストンを新設計したり、コンロッドのビッグエンドに世界初のポリマーコートを施したりした。プジョーとしても、決してあのままで満足しているわけではない、ということはわかったけれども、依然として腰下の剛性が弱い感触まではぬぐえない。
とはいえRCZ Rは、久々にプジョーらしく操縦して面白いクルマに仕上がっていた。
(文=笹目二朗/写真=峰 昌宏)
テスト車のデータ
プジョーRCZ R
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4295×1845×1350mm
ホイールベース:2610mm
車重:1340kg
駆動方式:FF
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:270ps(199kW)/6000rpm
最大トルク:33.7kgm(330Nm)/1900rpm
タイヤ:(前)235/40R19 92Y/(後)235/40R19 92Y(グッドイヤー・イーグルF1)
燃費:--km/リッター
価格:540万円/テスト車=540万円
オプション装備:なし
※価格は8%の消費税を含む。
テスト車の年式:2014年型
テスト車の走行距離:3911km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(5)/山岳路(4)
テスト距離:328.5km
使用燃料:30.3リッター
参考燃費:10.8km/リッター(満タン法)/12.3km/リッター(車載燃費計計測値)

笹目 二朗
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