「日産キューブ」が令和に復活!? 日産の新たな中古車販売の取り組みを探る
2024.02.22 デイリーコラム中古車に新たな魅力をプラス
絶版になったモデルをより良いコンディションで、しかも新車時にはなかったカスタマイズが施された状態で手に入れられるとしたら? そんなカーマニアの興味を引きそうなトライアル販売が行われている。「CUBE Retro Renovation(キューブ レトロリノベーション)」(参照)と呼ばれるそれは、日産自動車と販売会社の奈良日産自動車(以下、奈良日産)が共同で実施。2020年に販売終了となった3代目「日産キューブ」をベースに、内外装や部品のリフレッシュとカスタマイズを施した認定中古車の開発・販売施策である。
簡単に言えば、日産の正規ディーラーである奈良日産が中古車のメンテナンスとリフレッシュを行い、ついでにオシャレなカスタマイズも行い付加価値を高めて販売するというものである。ユニークなのは、このコンセプトを立ち上げたのが日産本体であるということと、絶版車であるキューブがベース車として選ばれたということである。
日産自動車のグローバルアフターセールス商品開発&エンジニアリング事業本部本部長 初鹿野久美氏は、「日産では、初めてクルマを購入する若年層などをターゲットに中古車の内外装をメンテナンスしてより良い状態にリフレッシュすることや、好みに応じてカスタマイズを行うことができる、魅力的な中古車プログラムの開発を推進しています。東京オートサロン2023に参考出品した『キューブ リフレッシュド&レトロコンセプト』(参照)はその一環で、新車販売が終了したキューブの中古車をリフレッシュし、さらにレトロ感を演出した専用カスタマイズを施しました。実車の公開後にとても多くの反響が寄せられたことを受け、今回はそのコンセプトをベースに認定中古車を開発。トライアル販売することにしました」と、新しい取り組みへのきっかけを語った。
3代目キューブが選ばれたのは、「現行ラインナップにないキャラが立ったユニークなモデルであり、中古車マーケットにおいて高い人気を誇っているから」とのこと。同車は2008年に登場し、12年の長きにわたり販売されてきた。2代目から引き継いだ四角をモチーフとした特徴的なハイトワゴンデザインや左右非対称の横開きバックドアを採用するなど、いま見てもユニークな存在だ。
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リフレッシュとカスタムを同時に実施
キューブ レトロリノベーションは、日産の中古車販売の活性化と、商品力向上が主目的とされる。「もともとが中古車で楽しい提案をしようという企画の一つで、初めから販売する予定ではありませんでした。もちろん下心はありましたが(笑)、東京オートサロンでの反響は想像以上でした」と、初鹿野氏は続けた。
日産が実現に向けて検討に入ったとき、奈良日産が「ぜひうちで製造・販売を」と手を挙げ、今回のプログラムが本格的にスタート。キューブ レトロリノベーションのコンセプトや内外装デザインは東京オートサロンの出展車と同様に日産のアクセサリーを手がける部門がプロデュースする。いっぽうパーツの開発や発注、車両整備、施工は奈良日産が行う。
奈良日産はユーザーのリクエストに応え、自社で製作したカスタマイズカーを販売してきた実績があった。初鹿野氏は「奈良日産さんはカスタマイズへの理解とノウハウが他の販社さんとはまったく異なっていました」と当時を振り返った。
キューブ レトロリノベーションには「リフレッシュパッケージ」と「カスタムパッケージ」という2つのパッケージがある。リフレッシュパッケージは経年変化や使用によって劣化した部品を交換し、内外装の更新を図るもの。いっぽうのカスタムパッケージには、外板の2トーン化と専用のグリルやホイールカバーの装着、専用シートカバーやインテリアの加飾などでレトロモダンな雰囲気を演出する内容が盛り込まれている。
リフレッシュパッケージとカスタムパッケージのいずれにも「エントリー」「スタンダード」「プレミアム」という3つのパックメニューが用意される。前者のエントリーにはワイパーリフィルやバッテリーなどの消耗品交換とカーペット交換などが含まれており概算7万4835円(税・工賃込み、以下同)、スタンダードには、エントリーパックにコーティングパック、ワイパーアーム交換、ガラスランラバー交換などが加わり概算27万2595円、プレミアムはそれら2つにヘッドランプ交換、運転席スイッチ類交換、カウルトップ交換などが加わり概算39万1776円となる。
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トライアル販売は20台の限定
レトロ感を演出するカスタムパッケージには、ホイールカバーとシートカバーが装着される10万6430円(税・工賃込み、以下同)のエントリーと、エントリーに加え2トーンボディーステッカー(上部がグレー色)と専用グリルが装着される57万3698円のスタンダード、これら2つのパックにプラスしてリアサイドウィンドウ、ボディーサイドのステッカー2種類、インテリア加飾が加わる75万0764円のプレミアムが設定される。さらにオプションとしてベースキャリア&ルーフラック(13万9800円)もラインナップしている。
リフレッシュパッケージについては、ベースとなる中古車のコンディションも関係するのであくまで概算となるが、カスタムパッケージの価格はおおむねこのとおりになるという。ベース車両は奈良日産の下取りや日産の中古車販売ネットワーク、オークションなどを通じて確保。認定中古車の条件に見合った車両だけをキューブ レトロリノベーションのベース車両として活用し、一台一台を手作業で仕上げていく。
ボディーカラーは「ビターショコラ」をメインに、ベース車両の在庫によってはブラックやホワイト、グレーの車体色にも対応。ユーザーとの相談による仕様の決定後に施工され、早ければ3週間程度で納車される。
専用パーツの供給事情もあって、今回のトライアル販売は20台の限定となる。日産のオフィシャル中古車サイトには2024年2月20日現在、キューブ レトロリノベーションのコンプリートモデルが1台(車両価格:229万1000円)と、ベース車両が2台(車両価格は80万円前後)掲載されていた。
絶版になった車両を詳しく知らない人にとっては新鮮で、他人とかぶらない自分だけの一台が欲しい人にとっては、メーカーが手がけたカスタマイズカーは安心できる選択肢になりそうだ。自分の気に入ったものを、自分らしく長く使うというサステイナブル志向のライフスタイルにも合致するだろう。日産は今回のトライアル販売の結果をもとに、他車への拡大展開を検討するという。
いずれにせよ、絶版になった個性派モデルに再度スポットライトが当てられ、ディーラークオリティーのカスタマイズが施されたリフレッシュ車両を購入できるというのは悪くないハナシである。クルマの話題がSUVとEVばかりという現状に投じられた一石……と言っては少し大げさだろうか。
(文=櫻井健一/写真=日産自動車、webCG/編集=櫻井健一)
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櫻井 健一
webCG編集。漫画『サーキットの狼』が巻き起こしたスーパーカーブームをリアルタイムで体験。『湾岸ミッドナイト』で愛車のカスタマイズにのめり込み、『頭文字D』で走りに目覚める。当時愛読していたチューニングカー雑誌の編集者を志すが、なぜか輸入車専門誌の編集者を経て、2018年よりwebCG編集部に在籍。
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