第84回:「このクルマは誰のデザイン?」
2018.04.03 カーマニア人間国宝への道留学時代は猛勉強の日々
自動車デザイナー・中村史郎氏に、自動車デザインの真実を単刀直入に聞いてみた! の第2回。カリフォルニアのアートセンター・カレッジ・オブ・デザインに留学した、いすゞ自動車の中村史郎青年(29歳)は、クラスメートにクリス・バングル氏もいる中で、首席で卒業するのだが……。
清水(以下 清):アートセンター・カレッジ・オブ・デザインには、1年間留学したんでしたよね。
中村(以下 中):そうです。
清:1年で卒業できるんですか?
中:アートセンターは卒業まで8学期なんだけど、僕らのような企業留学生はそのうちの最後の3学期だけなんですよ。それまで誰も卒業証書もらってないし、いすゞの留学した先輩も「デザインでトップは当たり前だから、卒業証書でももらってこい!」って言ってるしね。一般教養の単位も必要なので、武蔵野美術大学で取った単位を申請したり、上級クラスの学生は取らない歴史とか論文の書き方なんかも受講したりして。普通の学生の倍ぐらいやって最優秀の卒業証書もらってきました。
清:アメリカの大学はキビシイと聞きますが。
中:もうむちゃくちゃカリキュラムが詰め込まれてました。でも、そもそもプロを養成するところなんで、みんな学ぶ意識が高いしお互い競争だし、だから面白いんですよ。日本の大学にはそういうのないでしょう?
清:ゼロでしたね……。
中:朝から夕方まで講義で、夜のクラスもあって、家に帰ってから夜中の2時、3時まで課題のデザイン。最低週に1回は徹夜。遊ぶ時間一切なし。そういう生活を1年間送って、自分を極限まで追い込みました。体育会的でしたね。デザインの宿題を持っていっても先生にボロクソ言われる。褒めて伸ばすんじゃなくスパルタ式で。今はずいぶん優しくなってるみたいだけど、昔は教授も職人気質(かたぎ)でね。でも、みんな愛情があったな。
デザイン決定はトーナメント戦
清:そのようにして、史郎さんは自動車デザイナーになられたわけですね。
中:いや、留学する前から自動車デザイナーでした。
清:失礼しました(笑)。では次の質問に移らせていただきます。実際の自動車デザインって、どうやって作るんですか!?
中:清水さん、それは知ってるでしょう。
清:いえ、知りません(キッパリ)! 教えてください。
中:まず商品の企画ですね。どこの市場に、どのカテゴリーに投入するか、ターゲットカスタマーとか価格帯とかも決める。それと同時にどういうパッケージにするか、サイズとかどういうエンジンを載せるとか。
清:なるほど。
中:それをデザインチームが受けて、「ここはこうしようよ」とか話し合って、最終的にパッケージが決まります。先行モデルを作る場合もある。それに合わせて、2、3案モデルを作って最終案を決めるんです。
清:その2、3案はどうやって?
中:テニスとかのトーナメント戦みたいな感じですね。例えばデザイナー5人がスケッチを3枚ずつ出して、計15案。その中から、5つアイデアを選んでスケールモデルを作る。その中から2つか3つフルサイズ(1分の1)を作って、その3つの中から最終案として1案を選ぶ、というような感じです。会社によっても、プロジェクトによって違います。
清:途中で天の声みたいのは降りてこないんですか。
このクルマは誰のデザイン?
中:80年代ぐらいまではけっこうトップの独断でやってるところがありましたね。イタリアでもアメリカでも。例えばGMはミッチェルの時代から90年ごろまで、デザインのトップの一声で決まってました。でも今はどこもやってない。あるとしたらテスラと中国のメーカーくらいじゃない(笑)? わからないけど。今はどこも決めるプロセスがしっかりしてる。昔は完全にプロダクトアウトだったけど、今は少量生産のクルマ以外はマーケットインが主流だから。
清:ある意味民主的なんですね! では次の質問です。我々カーマニアはよく、「このクルマは誰それのデザイン」という言い方をしますが、実際「誰のデザイン」って言えるんでしょうか。
中:本当は言えないですね。もちろん、最初のいいアイデアを誰が出したのかはすごく重要ですけど、それがそのまま世に出ることはない。あらゆるプロセスでチームでの検討を繰り返して、どんどんデザインの完成度が上がっていきます。
清:はあ。
中:例えば2代目「日産キューブ」。2002年に出たやつね。
清:あれは、史上初の和風自動車デザインの成功作だと思ってます。
中:あれも、最初のスケッチ通りじゃないですよ。クレイモデルも途中でどんどん成長していきました。モデラーの力も大きいな。自動車デザインは基本的にチームワークなんですよ。ただし、原案を出した人がいるのは間違いない。
清:その原案者が、いわゆる「誰がデザインした」ということになるわけですね。複数の名前が挙がることもありますけど。
中:複数の人がデザインしたというのは成功した証しなんですよ。実は僕、最後の「ジェミニ」は、最初から最後までたったひとりでやったんです。あんまり売れなかったけどね。やはり多くの経験ある人の目が必要で、ひとりだけでやっちゃダメなんだなっていい勉強になりました(笑)。
(語り=清水草一、中村史郎/まとめ=清水草一/写真=中村史郎、webCG/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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