間もなくメジャーリーグが開幕! 自動車業界にも二刀流は存在するか?
2024.03.13 デイリーコラム確実にアウトになる二刀流
大谷翔平の二刀流は、これまで不可能とされてきた、ピッチャーとバッターの両方をプロの選手が行うこと、である。宮本武蔵の二刀流ではない。もしも武蔵の二刀流であれば、大谷選手はバットを2本持たねばならない。いざ勝負。でもって、吉岡一門と対決したときのように縦横無尽に走りまわり、次々と野手を1対1で倒す。えい、やっ。とーっ。
しかして、野球のルールには打者はバッターボックスから出てはならない、とある。なので、そういうことはしてはいけない。確実にアウトになります。ただし、バットは1本しか持ってはならない。という条項はないらしい。なので、左打者の場合、まずは右手で持ったバットでもって速球をぽこんと上に打ち上げ、左のバットでもって、落ちてきたボールをきれいにセンター返しする。これをやってこそ二刀流! というのを思いついた……のですけれど、バッターはボールを2度バットに当ててはならない。というルールがあり、打者アウトとなる。同じバットに2度当てるのはダメでも、違うバットならいいのでは? とも思うけれど、どうなんでしょうか。やっぱりダメ?
ということはともかくとして、大谷翔平の偉大さはエースで4番、実際は2番ですけれど、という野球少年の夢を、類まれなる才能と努力によって、プロの世界でも実現しているという、まさにそのことにある。いまさらですけど。
さてでは、自動車界における二刀流とはなにか? すぐに浮かぶのはハイブリッドだ。エンジンとモーターの2ウェイプレイヤー! 前世紀末に登場した初の量産ハイブリッド「トヨタ・プリウス」は偉大だった。
だけど、トヨタ式ハイブリッドシステムの特徴は、エンジンとモーターをほとんど一体のものとして運用するところにある。エンジンとモーターが独立して存在している、つまり二刀流というより、文字どおり、まぜこぜのハイブリッド(交雑種)と呼ぶほうがふさわしい。
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夢がなければ自動車じゃない
では、プラグインハイブリッド車(PHEV)はどうか? こちらは確実に二刀流だ。短距離なら電池式電気自動車(BEV)として使え、電池が切れたらエンジンで発電して走ることもできる。エンジン駆動の走行も可だから、三刀流ともいえる。おまけに、電池にためた電気エネルギーのみならず、発電をして外部給電もできる。自動車だけでなくて、発電機の役割も果たす2ウェイプレイヤーなのだ。
最近発表された「ホンダCR-V e:FCEV」なんてのはプラグイン機能を備えた燃料電池車(FCEV)、PHEVとFCEVの二刀流である。あるときはBEV、電池に蓄えた電気で走り、あるときはFCEV、水素と酸素を化学反応させて発電しながら走る。電気ですかぁ。電気があれば、なんでもできる。電気がなければ、発電する。
水素ステーションが増えれば、希少な電池をトランクに詰めて運んでいるだけになるけれど、あいにく水素の供給基地の数はまだまだ少ない。だから、BEVとFCEVの二刀流には意味がある。しかも、FCEVの場合、CO2の排出量ゼロで発電できる。
自動車はいま、移動の道具であると同時に、発電の道具になりつつある。だけどなぁ。これを少年の夢と呼べるのか? と、もうちょっと自動車の二刀流について考えてみる。
そう。自動車はいま、自動運転の時代を迎えつつある。まさに「自動車」である。ファン・トゥ・ドライブと自動運転の二刀流。そういう時代がやってくる。もうすぐ空も飛ぶ。これまた二刀流だ。空しか飛べないとなると、フライングカーとは呼べない。それは乗用ドローンで、夢が小さくなる感じがするし、自動車少年の夢、とは呼べない気もする。
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レースと公道こそが二刀流
未来を考えるうえで過去は重要である。昔の二刀流とは? こんにちでは当たり前の存在になった初代「レンジローバー」は、オンとオフの二刀流だったし、そしてなによりフェラーリである。自動車界のスーパースター、フェラーリはなぜ、自動車界のスーパースターであり続けているのか? それはエンツォ・フェラーリのレースで勝ちたいという夢から始まり、フェラーリのロードカーはレースでの資金を稼ぐためにレーシングカーを売却したことに始まっている。サーキットありきのロードカー。そういう二刀流だから、フェラーリは速くて美しい。
この点で、ポルシェがフェラーリよりロードカー、乗用車寄りのイメージがあるのは、量産車が先で、その量産車の性能の高さを示すのと同時に、その量産車の改良につなげるべくコンペティションに参加してきた、という出発点の違いにある。
さらに申し上げれば、一時期のホンダが熱狂的に支持されたのは、四輪進出とほぼ同時にF1に参戦し、「走る実験室」と呼んで、モータースポーツとプロダクトの二刀流を実践していたからだろうし、メルセデス・ベンツや、アルファ・ロメオは終わっちゃいましたけれど、名門と呼ばれるような自動車メーカーがいまもF1に参戦したり、モリゾウ・トヨタがWECやWRCに積極的だったりするのは、レースと公道の二刀流こそ、自動車における少年の夢だから、なのではあるまいか。
大谷選手は今年はバッターに専念するそうだけれど、自動車の歴史というのは二刀流の歴史だった……というのもあながち間違いとはいえない。自動車というのは、少年の夢の延長線上にある。だから私たちは魅了され続ける。今年のルマン24時間耐久レースはその象徴となりそうで、大いに楽しみですね。
(文=今尾直樹/写真=トヨタ自動車、本田技研工業、フェラーリ/編集=藤沢 勝)
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今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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