アウディRS 5(4WD/7AT)【試乗記】
クールな高性能車 2010.11.30 試乗記 アウディRS 5(4WD/7AT)……1277万円
アウディのハイパフォーマンスクーペ「RS 5」に試乗。最新、最高の技術を盛り込んだという、その走りやいかに?
全身電子制御
正確に言えばアウディ本体ではなく、その100%出資子会社であるクワトロ社の仕事ではあるのだが、しかしアウディというメーカーの持つポテンシャルの究極のところをのぞいてみたければ、RSモデルに触れるに限る。そこには彼らが持つ最新の、最高の技術が惜しげもなく投入されている。この「RS 5」もそう。これこそハイテクの塊と呼ぶのにふさわしい、全身電子制御のスポーツクーペである。
とりわけそのシャシーに注ぎ込まれた技術には見どころが多い。駆動方式は、当然フルタイム4WDのクワトロ。しかも従来のトルク感応型ではなくクラウンギア式センターデフを新たに採用することで、前後トルク配分は通常時の40:60から最大でフロントに70%、リアに85%まで変化させることを可能としている。さらにリアアクスルには左右輪の駆動力をアクティブに可変させるスポーツディファレンシャルが備わり、旋回時の内輪に軽微な制動力を与えてアンダーステアを打ち消すトルクベクタリングシステムと協調して動作するといった具合である。要するに4輪への「自在な」という言葉に限りなく近いトルク配分を可能としているのだ。
このシャシーにパワーを送り込むエンジンは、V型8気筒4.2リッター直噴の自然吸気ユニット。基本は「S5クーペ」に積まれているのと同様だが、吸排気系の変更などの変更などによって、その実に96ps増しとなる最高出力450psを8250rpmという超高回転域で発生させる垂涎(すいぜん)のスポーツエンジンに仕立てられている。
興味深いことにこのエンジン、実はすべてハンガリーのジェール工場にて手作業で組み立てられている。究極のハイテクも、実現するのは人間の匠(たくみ)の技なのだ。ギアボックスはおなじみデュアルクラッチの7段Sトロニックである。
切った分だけグイグイ
驚異的なレスポンスと圧倒的な安定感。RS 5の走りを一言で評するならば、月並みだがそんなところとなる。しかし、そのレベルは想像するより一段も二段も上だ。
まずはそのパワートレイン。超高回転型でリッターあたり100psオーバーのハイチューンであるにもかかわらず、低回転域のトルクも充実していて、12.3:1という高圧縮比ならではの密度の濃い重低音のサウンドと相まって、発進の瞬間からこれはただ者ではないと悟らせてくれる。
しかし当然、本領を発揮するのは意を決してアクセルペダルを踏み込んだ時だ。回転上昇の勢いはすさまじく、8000rpmオーバーまでは一気。ロケットのような強力な加速にのけぞっているうちSトロニックが電光石火のごとくシフトアップを行い、途切れることなくさらに高みを目指していく。この勢い、やはり月並みだが「すさまじい」としか形容しようがない。
しかも、この動力性能をシャシーが完璧に手なずけている。ステアリングの反応はアウディらしからぬ鋭さで、特に切り始めは敏感。その後も切れば切った分だけグイグイと曲がり、そしてアクセルペダルを踏み込めば、クワトロシステムと電子制御の協調で、行きたい方向に猛然とした勢いで加速していってくれる。
アウトバーンが欲しくなる
ただし、自分で操っているというよりも、目まぐるしい速さで流れる景色に追いすがるように操作すると、クルマがその意思をくみ取って勝手に速く走ってしまう。そんな感触も無くはない。エンジンにしても、シャシーにしてもそう。自分でうま味を引き出すよろこびは薄い。「RS 6」などは、ベースのポテンシャルの問題もあるが、あんな成り立ちでいて実際には操る面白さを残している部分もあるのだが。
オプションの20インチタイヤを履いていた試乗車は、フロントのワンダリングが大きく始終チョロチョロと落ち着かず、また路面の荒れたところでは断続的に接地感が変化してしまうのも気になった。標準の19インチの方が、こうした状況下でも動きは落ち着いている。付け加えて言えば、タイヤのたわみのぶん、デジタル的な感触も薄まり、操る実感も濃いように感じられた。
外観についても触れておこう。大きな開口部を持つフロントバンパー、初代「アウディ・クワトロ」をモチーフとする上辺を水平にカットしたブリスターフェンダー、さらにはトランクリッド内蔵のリアスポイラーなどによって、その出で立ちはなんとも好戦的だ。「A5クーペ」のエレガンスは損なわれてしまったが、そのミスマッチ感が魅力とも言えるのだろう。
強力無比なスペック、そしてそんなアグレッシブな外観とは裏腹に、たしかに猛烈に速いが、しかし汗をかかない、あるいはかく気にさせないのが、このRS 5である。その意味ではスポーツモデルというよりは、超高性能車と形容した方がふさわしいようにも思える。位置づけや価格からすれば、「BMW M3」や「メルセデス・ベンツC63AMG」などと比較したくなるが、実はそのベクトルはまったく違った方を向いている。
冒頭に書いた、アウディの究極だというのは、つまりそういうことである。サーキットに行こうというよりは、アウトバーンが欲しくなる。高速道路でも100km/h制限のこの国が、なんとも恨めしくなるアウディだ。
(文=島下泰久/写真=高橋信宏)

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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