ホンダ・シビックRS プロトタイプ(FF/6MT)
アナタが運転好きならば 2024.08.01 試乗記 スポーティーな走りが自慢の「ホンダ・シビック」に、この秋追加される新グレード「RS」。普段の道を爽快に走ることを主眼に置いたニューフェイスは、どのようなドライブフィールを備えているのか? プロトタイプに試乗して確かめた。インフォテインメントシステムがグーグルに
「東京オートサロン2024」で展示されて話題となっていたシビックRSが、ついに正式にデビューとなる。この秋に実施される(「タイプR」をのぞく)現行シビックのマイナーチェンジ(参照)に合わせて、新規グレードとして設定されるのだという。今回はそのプロトタイプの試乗である。
というわけで、まずは新しいRS(の一応はまだプロトタイプ)をながめつつ、シビックそのもののマイナーチェンジ内容を見てみる。
11代目となる現行シビックはメイン市場の北米を筆頭として、世界的に成功作とされている。なので、今回のマイナーチェンジも、従来のイメージを踏襲した細かなアップデートにとどまる。外観はオートサロンの出展車そのままだ。従来はフロントのセンターグリルがどことなく上広がりの逆台形風だったのに対して、新しいシビックのそれは、センターグリルが新型「アコード」にも似た下広がりの台形になった。バンパーグリルも従来は下広がりの台形だったが、新しいRSでは逆台形とされている。
インテリアの基本デザインは従来を踏襲しており、写真などでは新旧の区別もほぼつかない。9インチのセンターディスプレイそのものも変わりないようだが、中身のインフォテインメントシステムには、アコードに続いて「Google Built-in(グーグルビルトイン)」が搭載された。
今回の取材では細かい機能性まで確認する時間はなかったものの、おなじみのグーグルマップがそのまま表示されるナビ地図は高精細できれいだ。これまで標準装備されていたナビは古典的で、地図の解像度も今どきとしてはちょっと違和感があるほど低かったから、これは進化といっていいだろう。コンソールに備わる2つのUSBも、角型のタイプAから最新のタイプCにアップデートされている。
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限界性能より“味”を追求
今回のマイナーチェンジではグレード構成も変更される。これまでは1.5リッター4気筒直噴ガソリンターボ搭載車(以下、ガソリン車)が2グレードあって、両グレードでCVTと6段MTが選べた。いっぽう上級の2リッターハイブリッド(e:HEV)はモノグレードだった。しかし、国内販売台数を増やすにはハイブリッドでの上積みが必要との判断で、e:HEVのラインナップを2グレード化。ガソリン車では、CVTは従来どおりの2グレードを踏襲しつつ、MTは新しいRSのみの設定になる。
このクラスのMT自体が貴重ということもあり、シビックのMTもタイプR(現在も受注停止中)を含めて、需要は堅調だったという。とりわけ、タイプRではないシビックMTは“タイプRほど過激ではないスポーツモデル”として選ばれている……とホンダは考えたようだ。その判断はおそらく正しい。今回のRSはまさにそこを突いた商品企画である。
RSといっても、エンジンは従来のガソリン車のままで、最高出力182PS、最大トルク240N・mというピーク性能値も変わりない。ギア比やタイヤにも変更はないので、限界性能が向上しているわけでもない。
そのかわり、いわゆる味わいの部分では、じつに手が込んでいる。まずパワートレイン関連では、エンジンのフライホイールの軽量化&低慣性マス化をはじめ、これまではe:HEVやタイプRにしかなかったドライブモードや、同じくタイプRでおなじみの「レブマッチシステム」を追加した。
シャシー方面では、コイルやスタビライザーといったバネ類を強化して、車高を5mmローダウン。ダンパーも減衰力そのものは大きくは変わらないようだが、微低速での応答性をアップさせているという。加えてフロントブレーキは大径化(15インチ→16インチ)。さらに、フロントコンプライアンスブッシュのソリッドラバー化(標準は液封)やステアリングのトーションバーレートの60%アップ……は、ステアリングレスポンスに直結する工夫だ。
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如実に感じる軽量フライホイールの恩恵
RSの外観は、これまでと比較すると、黒さが増している。ディテール部分がことごとくブラック化されて、従来のガソリン車ではツヤ消しだったウィンドウモールやピラー部分も、グロスブラックとなった。インテリアも先述のように大きな変更はないものの、ダッシュボードのネットやドアアームレスト周辺にあしらわれた赤い差し色がRS専用だ。
新たに追加されたドライブモードのセレクターは、従来だと「ECON」と「アイドルストップ」のスイッチがあった位置に設置されている。そこでは、エコモードにあたる「ECON」から「ノーマル」「スポーツ」、そしてエンジンやパワステ、メーター表示を好みで組み合わせられる「インディビジュアル」の計4種のモードが選べる。スポーツモードにすると、アクセル開度がレスポンス重視の“早開け”になるほか、パワステも重くなる。
前記のようにガソリンエンジンは排気系も変わらず、e:HEVやタイプRのような「アクティブサウンドコントロール」も備わらないので、スポーツモデルとはいえ、室内に響くエンジン音に変化はない。
ただ、エンジンレスポンスは明らかに活発となった。とくに開発陣の主張どおり、アクセルオフにシャープに反応する回転落ちがすこぶる気持ちいい。従来のガソリン車は、いわれてみれば回転落ちはちょっとなまくらだったが、最新の環境エンジンは多かれ少なかれ、そういう傾向にあるので、指摘するほどのものでもなかった。
しかし、こうしてRSと比較してしまうと、なるほど、従来型はちょっともどかしい。軽量&低慣性フライホイールが投入されたRSはわずかにアクセルを緩めるだけでしっかりと荷重移動してくれるので、コーナーでの身のこなしも軽快。走りもおのずとリズミカルになる。
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ベースモデルのドライブフィールも魅力だが
新投入のレブマッチシステム=自動回転合わせ機能のデキもいい。ターンインなどでは、クラッチをテキトーに蹴っ飛ばして、シフトレバーを放り込んで、そのまま左脚を無造作に戻すだけで、見事なまでのショックレスギアシフトが完遂される。「自分の手足だけで、きれいなダウンシフトを決めたい」というならレブマッチをもちろん解除することもできるが、その操作がセンターディスプレイ設定画面の、さらに奥底でしかできないのは、タイプR同様にちょっと面倒くさい。
その性能を究極的に味わうにはサーキットにいくしかないタイプRに対して、RSは「街乗り最高スポーツ」をうたう。個人的には、一般道で留飲を下げるべきクルマこそ、レブマッチのような機能も、手もとで頻繁にオンオフして遊びたいところである。
適度に引き締まって明確にロールが減少したRSのフットワークは、いかにもスポーツモデルらしい肌ざわりだ。S字のような切り返しは思わず笑ってしまうほどの小気味よさで、これは先述のエンジンレスポンスと、シャシーの相乗効果だろう。ただ、比較用に持ち込まれた従来型MTの、適度にロールしながら路面に吸いつく濃厚な接地感も、個人的には捨てがたいと思った。そっちが好きなら、今後はガソリン車のCVTやe:HEVを……ということか。
いっぽうで、トーションバーの剛性アップによって正確性が確実に増したステアリングフィールは、RSの圧勝である。同様に、明確に回転落ちが鋭くなったエンジンレスポンスも文句なしの進化といっていい。総合的にいえば、運転好きなら、新しいRSのほうを好ましく思うことだろう。余談だが、こうしたステアリングのトーションバーやエンジンレスポンスに直結する軽量&低慣性のシングルマスフライホイールの技術は、レブマッチシステム同様、タイプRの開発で得られた知見なのだそうだ。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
ホンダ・シビックRS プロトタイプ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×--×--mm
ホイールベース:--mm
車重:--kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:182PS(134kW)
最大トルク:240N・m(24.5kgf・m)
タイヤ:(前)235/40R18 95Y XL/(後)235/40R18 95Y XL(グッドイヤー・イーグルF1アシンメトリック2)
燃費:--km/リッター
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:--年型
テスト開始時の走行距離:219km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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