自転車とバイクのいいとこどり! 「スズキe-PO」が開くミニマルモビリティーの新世界
2024.10.11 デイリーコラム懐かしのモペットが電気の力で復活!
いやはや、いくつになっても新しい体験とはいいもんだなぁ……。この手の乗り物に付きまとう小難しい話をわきに置くと、これが「スズキe-PO(イーポ)」に乗って記者が抱いた、ステキな感想だった。
読者諸氏の皆さまは、モペットという乗り物をご存じだろうか? エンジンが付いた自転車のような、ペダルが生えた原付バイクのようなアレである。記者も乗ったことはあったが、恐縮ながらまっとうなモビリティーとして考えたことはなかった。ちゃんとした原付が普及する前の、黎明(れいめい)期の遺物だと思っていたのだ(失礼!)。
しかし進化は巡るもので、そのモペットが電気の力でよみがえろうとしている。スズキe-POは、まさにその電動モペットだ。人力だけでも走れるし、モーターだけでも走れるし、人とモーターが力を合わせて“人力ハイブリッド”でも走れる。30km/h程度なら造作もなく出せるスピードと、坂道をスイスイ走れるパワーがありながら、電動バイクのような電欠の心配もない。夢のミニマルモビリティーである。
しかし、法律に詳しい読者諸氏は思うことだろう。それって道路交通法&道路運送車両法的には、どこに分類される乗り物なの? ルールはどうなっているの? 正解は、前者では一般原動機付自転車、後者では第1種原動機付自転車に区分される。要するに“原付一種”で、自転車のような軽車両ではないのだ。ゆえに自賠責保険への加入が必要であり、ヘルメットの装着義務があり、歩道は走れない。ノーヘルだったり歩道を走っていたりするモペットは、基本的に法律違反なのである。ユーザーの皆さん、自覚してください。
さて、その原付一種という区分なのだが、今やその存在が曲がり角に立たされているのはご存じのとおり。50cc級のエンジンは排ガス規制をクリアさせるのが難しく、仕方なく原付二種(125cc未満)の出力を絞って一種扱いする策が、ほぼ確定路線に。いっぽう近距離移動のアシとしては、伸長する電動アシスト自転車からの突き上げが厳しいといった具合だ。恐らくだが、スズキはこうした原付一種……というよりは、「発動機つきのミニマルな乗り物」の現状を鑑み、このe-POを提案したのではないかと思う。
では、そんなスズキe-POとはどんな乗り物なのか?
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パナソニックの電動アシスト自転車を魔改造
ここからはスズキe-POの製品そのものの話をしたいのだが、その実はおおざっぱに言うと、ミニベロタイプの折り畳み式電動アシスト自転車「パナソニック・オフタイム」に、100%の電動走行機能を付与したものである。
動力源は、人間の足+定格出力0.25kWのパナソニックサイクルテック製ドライブユニット(要するに電動モーター)で、交流100V(50Hz/60Hz)の脱着式リチウムイオン電池が電力を供給。容量は25.2V-16Ahと、パナソニックの電動アシスト自転車用バッテリーのなかでも、最も容量の大きなものが採用された。とはいえ重さは約2.5kgで、持ち運びは楽々。カラの状態から約5時間で満充電にできる。EV走行距離の公表はないが(そもそも計測のルールがない?)、「電気だけで20km以上の距離が走れる」とのことだ。
いっぽう、車体については基本的にベース車のオフタイムそのもので、違いはナンバープレート装着のため、リアまわりに加工を施した程度。あとはランプやミラー、ウインカー、ホーンなどの保安部品をくっつけたぐらいだ。意外に違うのが足まわりで、乗り心地を考慮してタイヤの幅を1.75から2.215に拡大。向上した動力性能に合わせ、フロントブレーキもリム式からディスク式に強化している(リアはローラー式)。
かようないで立ちのスズキe-POだが、特筆すべきはその軽さ。装備重量はベース車比+3.2kgの23kgで、同じスズキの原付一種「レッツ」(70kg)の3分の1しかない。取り回しはらくちんで、もちろん普通の自転車同様、ひょいと持ち上げて運ぶこともできる。
読者諸氏のなかには覚えている人もおられるだろうが、このe-POのコンセプトは、2023年の「ジャパンモビリティショー」でお披露目された(参照:その1、その2)。その際のアンケートによると、来場者の反応は上々で、特に好評だったのが「折り畳みができること」、そして「日本製であること」だったという。……一般の方が、新しいミニマムモビリティーになにを求めているのかが垣間見えて興味深い。
あれから1年弱、試乗会場で拝見したe-POのプロトタイプは、ちょっとスポーティーな普通のアシスト自転車、といった印象だった。ミラーが付いてる、ナンバープレートが付いているからといって特段違和感はなく、これなら普段から気後れせずに乗れそう。むしろ「いや、これカッコいいのでは?」と素直に言えるほどにはハンサムで、くまモン体形の記者としては、「俺みたいなのが乗ってて、滑稽じゃないかな?」と、そちらが気になってしまった。
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気分はスズキか、北島か
780~955mmの間で高さ調整可能なサドルを、好適な位置で固定。ハンドル位置は動かせないのでタッパのある人は窮屈かもと思ったが、周囲を見ればモデルみたいな体形の人もスイスイ走らせているので、そんなことはなさそう。ミラーの向きを整え、記者も発進する。
で、真っ先に覚えたe-POのインプレッションは、ひとえに「き、キモチイイ!」というものだった。どれほど気持ちいいかというと、2004年のアテネ五輪で「チョー気持ちいい!」と叫んだ北島康介や、2009年のWBCで……いや、こちらの例えはコンプラ的に控えよう。特設の試乗コースを駆けるe-POは、とにもかくにも軽快で爽快。軽やかなスピードの乗りに、涼しい走行風。ペダルは軽く、バイクの身のこなしも軽く、わが身の重さがこの世から消えてしまったかのようだった。思わずつじあやのの名曲「風になる」を思い出し、俺もこれで、陽のあたる坂道を自転車で駆けのぼりてぇなあと郷愁の涙がこぼれた。
こんなことばかり書いているとしかられそうなので真面目に分析すると、その根底にあるのはやはりモーターの力である。技術説明によると、通常の電動アシスト自転車では人力:モーター=1:2程度のところを、e-POは1:3くらいの力で走行をアシスト。これまた通常の電動アシスト自転車とは異なり、車速が24km/hを超えてもパワーを出し続けてくれる。制御モードは「NO ASSIST」「ECO」「STANDARD」「HIGH」の4種類で、今回はHIGHのみでアシスト走行を試せたのだが(ECO/STANDARDの制御は開発中だった)、このモードだとほとんどペダルに抵抗はなく、シマノ製の7段ギアも、トップに入れっぱなしで問題ない。というか、下のギアだと車速に対してペダルが軽すぎて、ちょっと怖かった。調律も文句なしで、アシストの増減にヘンな段つきや唐突感はナシ。自身の足とモーターのアウトプットが一体となった感覚が、これまた上述の気持ちよさに直結していた。
もちろん車体の操作性も良好。加減速時・旋回時のささやかな身の構えが自然に引き出され、NO ASSISTモードでの気合を入れての立ちこぎも無問題。このあたりはやっぱり、基となったのがパナソニックの真面目な自転車だからでしょう。上述の丁寧なパワートレイン制御といい、いかにもアーリーアダプター向けといったスタイル重視のモペットとは、一線を画すポイントだと思う。
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人と電気の協調走行こそが本領
最初の感動が落ち着いてきたところで、あらためて操作系を確認する。アシスト走行とEV走行の切り替えに特段の操作は不要で、右ハンドルのスロットルをひねれば、そのままEV走行に移行する。パワーは十分で、停車状態からでも苦もなく発進するが、特段加速が鋭いといったことはなかった。もっとも、車重23kgの“元自転車”であることを思えば、これでも十分以上である。なにせ軽くてトラクションがかけられず、ニーグリップなどで体の保持もできないのだ。過度にパワーやスピードを求められても怖いだけ。この車体なら、このぐらいの動力性能がいいあんばいでしょう。
かようにEV走行もバランスがとれていたe-POだが、とはいえやっぱり、ただサドルに座っているよりペダルをこぐほうが気持ちがいいし、そのほうが走りも安定する。やはりアシスト走行こそが、e-POの本領なのだろう。
それでは逆に、NO ASSISTの100%人力走行はどうか? 試してみたら、テクノロジーの偉大さと己が非力を痛感した(笑)。とはいえ、力を入れてペダルを踏みこむ際に「……これ、どういう姿勢でこげばいいの?」と戸惑うことは一切ナシ(一部の読者諸氏は「そんなモペットあるの?」と思われるでしょう。あるんですよ、それが)。+αの車重や太くなったタイヤもあって、走行抵抗は大きくなっているはずだが、これなら「電欠したバイクを乗り捨てたくなる」なんてこともなさそうだった。
……さて。人力走行で疲れたので、休憩がてら撮影を挟む。で、再度人力走行でコースに戻ろうとしてスタッフさんに呼び止められた。「堀田さん、システムがオフです」。そうなのだ。e-POはたとえ人力走行時でも、車両の電動システムを起動しておかねばならないのだ。理由はこれが原付一種だから。システムが起動していないと、ヘッドランプやウインカーといった保安部品が作動しないのだ。いやいや、失礼しました。
しかし同時に、「これはなにげに、難しい問題なのでは?」とも思ってしまった。人力走行の状態でも電動システムをオンにしておかなければいけないことを、利用者に理解してもらわないといけないからだ。それだけではない。人力走行でも歩道を走ってはいけないこと、人力走行でもヘルメットの着用が必須となることもだ。
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私たちのモラルが試されている
利用者本人を含め、多くの交通参加者にとって、モペットとは未知の乗り物である。すでに車両区分が決まっているだけ、かつての特定小型原付よりは状況はマシだが、それにしたってルールが周知されているとはいいがたい。現に世の報道を見れば、ノーヘル走行に歩道走行、あげくは無免許運転といった違法行為がすでに取りざたされている。そして、だからこそスズキという大手のモビリティーメーカーが、ここに参入する意義は大きいと思うのだ。
開発に携わった森下隆義さんによると、スズキはe-POを販売するにしても、「直販するつもりはない」という。全国の販売店を通して、顧客と対面で、免許証の有無やナンバーの取得、保険の加入などをしっかり確認したうえで売るとのことだった。メーカーのこうした態度は、無謀で無自覚なライダーに製品が届くことの予防になるだろうし、購入者に「自分が買うのは自転車ではなく、原付一種のバイクなのだ」と自覚させることにもつながるはずだ。
いっぽうで、モペットというモビリティーを受け入れる側、すなわち既存の交通参加者の認知も大切とのことだ。スズキでは2024年6月より静岡・浜松などでe-POの実証実験を開始。普段使いでの簡便さや、ミニマルモビリティーとしての実用性の高さなどが確認できたと同時に、幹線道路などでは四輪車にあおられることがままあり、参加者のなかには、モペットでの公道走行を怖いと感じた人もいたようだ。開発陣いわく、「クルマのドライバーが、モペットが歩道を走ってはいけない乗り物だとは知らなかった。自転車が延々と30km/hで車道を走っていると思われたのでは」とのことだった。道路上での余計な摩擦を避けるためにも、これが原付一種のバイクであることの認知は必須のことなのだろう。……もっとも、理由はどうあれ他の交通参加者を威圧すること自体が、言語道断のNG行為だ。読者諸氏のなかには、そんな人間はいないと信じたい。
高齢化が進み、環境負荷の低減が社会課題となり、交通参加者の意識や嗜好(しこう)も変化している今日では、もはや既存のモビリティーの構成は、実情にそぐわなくなりつつある。だからこそ記者は、e-POのコンセプトモデルを含むジャパンモビリティショーでのスズキの発表に、ステキで優しい未来を見たのだ(参照)。大事なのは、次の時代に好適な乗り物を、いかにスムーズに社会実装できるかだろう。要は、新モビリティーの利用者と既存の交通参加者の、双方のモラルが問われているのだ。
海外ではすでに移行の失敗例も散見されているが、日本までそんなことにならないよう業界の隅で祈るばかり。そして、せめて世の進歩をジャマしないよう、おのが日ごろの行いを省みるばかりである。
(文と写真と編集=webCG堀田剛資<webCG”Happy”Hotta>)
【主要諸元】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=1531×550×990mm
ホイールベース:1044mm
車重:23kg
モーター:直流ブラシレスモーター
定格出力:0.25kW
トランスミッション:7段
タイヤ:(前)18-2.215/(後)20-2.215
バッテリー容量:25.2V-16Ah

堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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