テスラが夢の「ロボタクシー」を発表! 自動運転タクシーが開く新しいビジネスのかたちと、その弊害
2024.11.01 デイリーコラム「3万ドル以下」と価格も発表
それが意図したものかどうかはわからないけれど、ニューモデルがなくても話題に事欠かないのがテスラだ。最近も米国の運輸省道路交通安全局が、運転支援システムの安全性について予備的な調査を開始したという報道があった。もちろん、ネガなニュースばかりではない。クルマに興味のある人であれば知っていると思うが、2024年10月10日には、以前からうわさのあった自動運転タクシー「ロボタクシー」が発表されたのだ。
お披露目された実車は、跳ね上げ式のドアを持つ2シータークーペで、ホンダの初代「インサイト」に似ていると思った。タクシー用ということで、もっとキュービックなデザインを予想していたが、実際は「モデル3」などと同じようなクルマらしい姿をしていた。
キャビンにはステアリングホイールもペダルもなく、インストゥルメントパネル中央に巨大なディスプレイがあるのみ。完全自動運転が前提なので、これでいいのだろう。2シーターなのは運転手がいないうえ、タクシーの乗客は1~2人が多いからだそうだ。おかげでキャビン背後には、大型のスーツケースが複数詰めそうなラゲッジスペースが用意されている。タクシーの使われ方を考えた設計だ。
注目すべきは3万ドル以下という価格が、2026年という生産開始予定時期とともに発表されたことだ。運用コストについても、現在の米国のバスが1マイルあたり1ドルなのに対し、最終的に30~40セントまで下がるとアナウンスした。
新たにビジネスを始める人が出てくる……かも?
自動運転タクシーの代表格といえば、グーグルの親会社であるアルファベットの自動運転部門が独立してできた、ウェイモがそれにあたるだろう。すでに米国内の4つの都市に導入され、先日は韓国のヒョンデと戦略的パートナーシップを締結。「アイオニック5」が自動運転タクシーに使われることになった。
しかしウェイモをはじめ、これまでの自動運転タクシーのプロジェクトでは、自動運転タクシーの車両価格が明らかにされたという記憶がない。ではなぜ、テスラは価格を出したのか? あるいは個人オーナーにもアピールし、普段は自家用として使い、使わないときにタクシーとして運用してもらおうと、考えているのではないだろうか。
ウェイモを含めたアルファベットのサービスからは、社会を豊かにするというミッションを感じるのに対し、テスラはイーロン・マスクCEOのキャラクターが象徴しているように、個人が豊かになることを目指しているのではないかと、そんな違いを感じる。
クルマを運転することに喜びを感じるという人は、自分の肌感覚ではそんなに多くない。日本以上に公共交通網が貧弱で、移動の多くをクルマに頼らなければならない米国も、似たような状況だろう。従って、ロボタクシーが3万ドル以下で発売され、自動運転に関する規制が緩和されて個人が自由に扱えるようになったら、ヒットする可能性はある。なにせわずらわしい運転からは解放されるし、公共交通のような乗り換えも不要なのだ。懐に余裕のある人は、数台のロボタクシーを運用してサイドビジネスを始めるかもしれない。
街がロボットタクシーであふれる日はくるのか?
自分自身は、現時点で自動運転タクシーは必要ないけれど、技術の進化は歓迎する人間なので、実現に向けて歩みを進めてほしいと考えている。ただ、こうした技術やサービスは発展途上のもので、課題も少なくない。よく挙げられるのが交通事故だ。実際、人身を含めて先述のウェイモも何度か事故を起こしている。しかしプロジェクトは現在も継続しており、あちらがフロンティアスピリットの国であることを痛感させられる。毎年、数えきれないほどの死者を出している既存車両の交通事故より、1件の自動運転車の物損事故で大騒ぎする日本とは、モノサシが違うことを教えられる。
もうひとつ、ロボットタクシーが引き起こす弊害として、意外なことが危惧されていると最近聞いた。知人でモビリティーを専門とする大学の先生の話で、「自動運転タクシーが一般的になると、空の車両が駐車違反を逃れるため、都市内の道路で周回を重ねるかもしれず、それによる渋滞の悪化が懸念されている」というのだ。それを防ぐためには、今日の“普通のタクシー”と同様、稼働台数を絞る必要が出てくるだろう。技術的に自動運転が可能になっても、それを受け入れる道路の側は、新しいサービスに対応していないというわけだ。
もっとも、モビリティーという視点で見れば、すべての人が安全・快適に移動できることこそ、最重視されるべき目標である。そのすべてをウェイモやテスラのような乗用車タイプの乗り物で受け持つとなると、結局は街がタクシーであふれてしまう。従って、すべての移動がロボットタクシーによって賄われる可能性は低いのではないかと僕は考えている。さすがにテスラも、そんな状況までは考えていないかもしれないが。
(文=森口将之/写真=テスラ、ウェイモ/編集=堀田剛資)

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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